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鹿児島県の奄美大島では1979年、ハブの駆除を目的に南アジア原産のマングースが導入されました。 分布を広げ最大で推定1万頭まで増加。結果的にアマミノクロウサギ、アマミトゲネズミなど島にすむ多くの在来生物を捕食してしまい、環境省2000年にマングースの駆除活動を開始。現在ではほとんどみられなくなりました。
東京農工大学などの研究チームは、もともと強力な捕食者がいないため「逃げる」ことをあまりしない島の在来生物が、マングースの出現によって、どのよう逃避行動を変えたのかーという謎に挑みました。
研究チームは、絶滅危惧種「アマミハナサキガエル」が、 どこまで外敵が近づいたら逃げ出すのか調査しました。中心メンバーの小峰浩隆・山形大学助教(研究当時=東京農工大所属)は、森の中でカエルを見つけたら警戒しているかを確認。接近して逃げ出したときの距離を計測して、 どの程度〝ビビり〟なのか評価しました。調べたのは計278匹。 「2カ月間、奄美大島に泊まり込み、森を駆けずり回った」と振り返ります。
その結果、マングースの影響が強い(導入地点から近い) 地域にすむカエルほど、 すぐに逃げ出す傾向がありました。
さらに、小峰さんたちは、行動だけではなく運動能力も調査。カエル224匹の脚の長さ、88匹のジャンプ可能回数を計測したところ、マングースの影響の強い地域にすむカエルほど、脚が長くジャンプ回数が多いことが判明しました。
従来の天敵のヘビ類が〝待ち伏せ型〟だったのに対して、新たな天敵となったマングースが〝追跡型〟であるため、逃げ続けるための持久力を発達させたとみられます。
これらの調査を行った時点でマングースはほぼ駆除されており、カエルが一度獲得したこれらの性質はすぐに元に戻らないことが分かります。
研究チームは、カエルの逃避行動や形態、持久力が、数十年という短期間で急速に進化し、世代を超えて受け継がれた可能性を指摘。外来生物が在来生物にもたらす影響について、生息域や個体数の変化だけではなく、その場所で独自の進化を遂げた生き物としての本来の性質が変化してしまう問題にも目を向ける必要があると警鐘を鳴らします。 在来生物の数が復活しても、生態系に深刻な悪影響が残る可能性という新たな問題に光を当てました。
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