花耀亭日記

何でもありの気まぐれ日記

佐藤直樹・著『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』を読んだ。

2021-04-18 19:49:18 | 読書

佐藤直樹・著『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』(世界文化社・刊)を読んだ。

藝大の先生が書いた、鑑賞眼を鍛えるための「美術史概説」であり、一般向けに簡潔な説明にしてくれたので、本当に読み易かったし、活字も大きく老眼の年寄り(私)には大変ありがたかった

著者の佐藤先生のご専門はドイツ・北欧美術史ということで、概説本ではあるが、取り上げている事例に北方絵画が多いと言うのもツボで、もちろん、ジョットやカラヴァッジョも登場する。それに印象派を省いたところなども潔くて良いのだわ。

さて、なにより目を惹いたのは、表紙のロヒール・ファン・デル・ウェイデン。

ロヒール・ファン・デル・ウェイデン《若い女性の肖像》(1440年頃)ベルリン国立絵画館

裏表紙はロベルト・カンピンだもの、おほほほ...

ロベルト・カンピン《若い女性の肖像》(1435年頃)ロンドン・ナショナル・ギャラリー

で、なぜ表紙がこの二人の画家だったのか?? 

思うに、この本の一番のハイライトがロベルト・カンピン研究の新説だから、ではないかと。フェリックス・テュルレマン説(2002年)は刺激が有り過ぎるのだよ(笑)。

https://www.amazon.co.jp/Robert-Campin-Monographic-Critical-Catalogue/dp/379132778X

超サクッと要約すると、プラド美術館のウェイデン作《十字架降下》だが、実はカンピン工房作で、カンピンとウェイデンの共作ではないか? そして、シュテーデル美術館のフレマールの画家(ロベルト・カンピン)の3枚の板絵《聖ベロニカ》《聖母子》《三位一体》は、《十字架降下》と組み合わされた一つの多翼祭壇画だったのではないか?との説だ。両者の縦の長さが一致するそうだ

※ご参考:プラド美術館《十字架降下》

https://www.museodelprado.es/en/the-collection/art-work/the-descent-from-the-cross/856d822a-dd22-4425-bebd-920a1d416aa7u館

※ご参考:シュテーデル美術館《聖ベロニカ》《聖母子》《三位一体》

https://sammlung.staedelmuseum.de/en/work/the-flemalle-panels-st-veronica-with-the-veil

「バランスよく作品を知るより、個々の作品に対する具体的アプローチを学んだ方が、実は美術鑑賞のコツを得るには手っ取り早いのです。」とのことで、各回、面白く刺激的な内容で、楽しくお勉強できた。美術ど素人の私の鑑賞眼も少しは鍛えられたであろうか??

ちなみに、佐藤先生のカラヴァッジョ《聖マタイの召命》のマタイは、石鍋先生の説と同じだった



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14 コメント

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議論 (山科)
2021-04-19 20:57:42
昔は、カンパン(フレマールの画家)の作品は、ロヒールファンデアワイデンの若いころの作品というのが通説になっていたこともあります。その逆ですね。ちなみにDirk de VOSはフレマールの画家の作品を6つぐらいに分けていて六人ぐらいの画家を想定してます(メロードの画家とか)。
 もともと、ロヒール自体が、美術史研究によって再発見された巨匠です。ミュンヘンのコルンバ祭壇画は、ファンアイクの作品とされてましたしね。
まだまだ議論が二転三転するでしょうね。カンパンの百年近く後のヒエロニムス・ボスの作品についてさえも、あれだけ二転三転トンデモ説の嵐ですからね。フィッシャー本もかなり問題が多い。
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山科さん (花耀亭)
2021-04-20 00:20:23
>まだまだ議論が二転三転するでしょうね。
はい、おっっしゃる通りだと思います。多分、これからはテュルレマン説がたたき台となって行くのではないでしょうか?
今まで通説だったものも、時代によって変わって来てますから、これからも二転三転、どんどん変わって行くのでしょうね(;'∀')
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間違いが多い (山科)
2021-04-21 18:10:16
この本、間違いが多すぎませんか?

カラヴァッジョがサンタンジェロ城に幽閉されて、そこから脱出したことになっているし。
初期ネーデルランド絵画についても、何カ所もおかしなところがある。日本の初期ネーデルランド絵画研究水準は低すぎると感じました。

英国絵画のファンシー・ピクチャーズという理念は、素晴しいとおもいますし、ナザレ派、アングル、などの記述も面白いとはおもいますけど。
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Unknown (通りすがりの者)
2021-04-21 21:39:48
久しぶりにコメントさせてもらいます。この本は読みました。初期ネーデルラント絵画の本自体が少ないので、あまり悪口は言いたくないのですが、私も少々疑問の残る記述はいくつかあると感じました。アルノルフィーニ夫妻が本当は誰であるかについてはいろいろな議論があるわけですが、スペースが限られているせいで簡略化したため、いろいろ問題のある叙述になったのではないかとやや同情的です。しかし、クロイスターズがフランスの古城を移築というのは単純に間違いですね。その名前そのものが修道院の回廊を意味するわけですから。
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山科さん (花耀亭)
2021-04-22 01:01:04
はい、確かにこの本には間違い(?)が散見されますね(^^;;
で、カラヴァッジョがローマで収監されたのは、サンタンジェロ城近くの「トル・ディ・ノーナ」の牢獄であり、マルタで脱出したのは「サンタンジェロ要塞」の地下牢獄なので、間違いやすいかもしれません。
初期ネーデルランド絵画について、初心なので間違いに気づく知識も無く、ただ興味深く読んでおりました(^^ゞ
英国絵画のファンシー・ピクチャーズ、私も面白かったです!
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通りすがりの者さん (花耀亭)
2021-04-22 01:28:04
初期ネーデルラント絵画の本って、本当に少ないですよね。私はウェイデンの表紙だけで買ってしまいました(;'∀')
《アルノルフィーニ夫妻の肖像》は解釈が色々あるようですが、一般向けの本という制約もあったのかもしれませんね。
で、クロイスターズの「城」記述に私も、えっ?でした(^^;。「校閲の悦ちゃん」がいれば...(;'∀')
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フレマール (山科)
2021-04-22 05:11:29
>実際にはフレマール修道院は存在しませんでした

これは、「フレマールの画家」に言及するときによく使われる決めぜりふですが、これ自体が誤解に起因しているもののようです。
二年前に書いておきました(URL)
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クロイスターズ (山科)
2021-04-22 05:27:40
>通りすがりの者さん
コメントありがとうございました。ちょっと、間違い多すぎますね。
なお、クロイスターズについては、建設当時のロリマーの著作の一部をURLに翻訳しておきました。
当方は、「ここの建築は移築というよりは、再現したものの要所要所にオリジナルの建築部分や彫刻をはめこんだような構造のように思われる。」と考えましたし、今もそう思っております。
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Unknown (通りすがりの者)
2021-04-22 13:41:06
山科様 クロイスターズを推薦し実際に訪れたご友人の感想にある通り、ここはマンハッタン島の北のはてにあり、地下鉄に40分くらい乗って降りてから徒歩10分くらいのところなのです。2019年にNYを再訪した時に、行くのを検討したのですが、半日以上かかってしまうので断念した時に調べたのです(滞在に余裕がなかったので)。次に来た時に行けば良いと軽く考えていたら、コロナで渡航制限です。早くなんとかなってほしいものです。海外から来る日本に来る展覧会がほとんどなくなってしまったので、代わりに浮世絵とか琳派などの展覧会に行き知識が増えましたし、今は閉じていますが西洋美術館の常設なども行きました、怪我の功名でしょうか。
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山科さん (花耀亭)
2021-04-22 22:29:51
なんと、フレマール修道院は存在しなかったわけではないのですね(^^;
マルタ騎士は修道騎士ですし、聖ヨハネ病院も宗教的役割を持っていたと想像されます。
う~ん、実際にその地に行かないとわからないことって多いかもしれませんね。
貴重な情報をありがとうございました!!
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