ドレスデンのアルテマイスターにあるフランチェスコ・デル・コッサ《受胎告知》を勉強したのだが、なかなかに興味深い作品である。でも、ドレスデンで観た記憶が残っていないのが残念ではある。
フランチェスコ・デル・コッサ《受胎告知》(1470-72年)ドレスデン・アルテマイスター
私的には全体的にマンテーニャやヴェネツィア派の影響を感じたのだが、M先生は大天使ガブリエルの向きのねじれ具合(斜に後ろ向き)がフェッラーラ派らしいとおっしゃっていた。確かにであり、コッサの後ろ向き加減のガブリエルはかなり珍しいと言える。
で、私的にふと想起したのがオヴェターリ礼拝堂で観たマンテーニャ《聖ヤコブの殉教》場面であり、プラドの《聖母の死》をも想起してしまったのだ。
(窓からマントヴァ風景が見える)
アンドレア・マンテーニャ《聖母の死》(1461年頃)プラド美術館
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Andrea_Mantegna_047.jpg
(ピンボケ写真すみません(^^;)
アンドレア・マンテーニャ《聖ヤコブの殉教》(1457年)エレミターニ教会
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Padova_GS,_Cappella_Ovetari.JPG
もしかして(私的妄想だが)、コッサがオヴェターリ礼拝堂で見て、このモニュメンタルな斜め後ろ向きのポーズに触発された可能性もあるのではないかなぁとも思ってしてしまった。
で、また、大天使ガブリエルの造形でとても面白いのが、そのネジで止められているようなニンブス(光輪・aureola)である。先生も、サンバイザーのように頭部に被せられているように見える、とおっしゃっていた。
先生によると...
・天使は実は本物の天使ではなく、受胎告知の劇を上演している役者としての天使ではないだろうか?
・聖なる場面の演劇を描いている、とは言っても、演劇を通して芸術(絵画)というものの本質を表しているのではないか。
とのことだった。
それと、興味深いのがプレデッラとの境を這うカタツムリである。ダニエル・アラスによれば、中世イタリアではカタツムリは露で受精すると考えられ、マリアの処女受胎の象徴とされたらしい。しかし、やはりペトルス・クリストゥスの蠅を想起してしまうし、Met展でも来日していたクリヴェッリ《聖母子》の蠅もだが、画家の写実力誇示的側面も大いにあり得るんじゃないかと思う。
ということで、「私的蛇足」として...1470年代ニンブスの描き方について
ピエロ・デッラ・フランチェスカ《ペルージャ祭壇画》(1470年頃)ウンブリア国立絵画館
1470年代当時、ニンブスって円盤状で描かれている例が多いのよね。このピエロ作品では鏡面仕上げの(!)ニンブスに聖人の頭頂は映り込んでいるのが面白い。ちなみに、先に挙げたマンテーニャ《聖母の死》の聖人ニンブスも一部映り込みが見えるし。でも、コッサのネジで装着されたニンブスってやはり特異なケースだと思うし、その不思議さに故に強く惹かれるのだ。
ラファエロやリッピの作品でもそうなのですがドイツ圏にある作品は、なんか北方風ドイツ風な感じのものになっているのが多いのが不思議です。ニスが違うとか、なんか理由があるのかな。
演劇という可能性もありますし、クリスマスのセットのような彩色彫刻の再現、という可能性もありますね。演劇の一種ですが「活人画」というのも、盛んだったときがあるようです。
>なんか北方風ドイツ風な感じ
もしかして、ドイツ人は自分たち好みのイタリア絵画を買ったから、かもしれないですね(^^;
>演劇の一種ですが「活人画」
有り得るかもしれませんね。ちなみに、京谷啓徳・著『凱旋門と活人画の風俗史』を読んだことがありますが、「活人画」は歴史的にも興味深かったです。
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000195621
入城式行列、カーニバルの行列、山車などですね。URLにマドリードのど派手な行列を紹介しておきました。ボス展のカタログの筆者もこういうページェントとボスの絵画との関連を考えていたようです。