すでに述べたように、英国車の将来は旧来からの英国車ファンが望むような方向には進まないと思う。それでも車内の英国ムードを盛り上げてくれるCDを3枚だけご紹介する!
まずはPomp and Circumstance(威風堂々)。有名なのでご存知の方も多いだろう。Sir Edward Elgarによりこの曲がつくられたのが20世紀になったばかりの頃。英国車の誘惑(3)で紹介したRoyal Automobile Clubのクラブハウスが建造された頃でもある。英国の歴史の転換点とも言える。Elgarは恥ずかしげもなく、というか、これでもかこれでもかと華やかさを演出する。この前後の時代の英国の詩人にも時々見られるが「至上の国」を謳い上げているかのようだ。英国力が爆発するCD。ショルティ指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。2番目のエニグマ変奏曲(これはシカゴ響)などとともにどうぞ。ショルティにもSirがつくが彼はハンガリー出身だ。
次は「鉄の女」と呼ばれた強烈な英国首相Margaret Thatcherの3枚組みCD。意外にマギーは歌がうまく、グリーンス・リーヴズ他を歌っている・・・というのはウソ。これは彼女の演説集「The Great Speeches」である。聞き入ってしまう立派な英語。もっとも彼女の若い頃の話し方は、かなり早口でアクセントもあまりキレイではない。しかしその後彼女は政治家としての階段を登る途中で、話し方のトレーニングを受けたという。このCDにある音源の多くはトレーニング後の彼女のものである。やはり政治家の演説は聴衆を揺さぶらなければ面白くはならない。福田首相もボソボソしゃべってないで、これを聞いてhow to speakを勉強してみてはどうだろうか。
Ian Bostridgeって誰?という方も多いと思う。彼は英国人である。背が高く痩せてひょろひょろしたテノール歌手だ。かなり変わったキャリアの持ち主でオックスフォードとケンブリッジで学んでいて、オックスフォードでは博士号を取得している。彼の論文は立派な本になっている。
Witchcraft and Its Transformations, C.1650-C.1750 。なんと魔術に関する歴史書である。テノールと言ってもパヴァロッチなどを思い浮かべてはいけない。あちらが陽光ならこちらは月光。あちらが大輪のひまわりならこちらは北イングランドで寒風に吹かれるヒースである。かなり暗い。ご覧のCDはベンジャミン・ブリテンの歌曲集。サイモン・ラトル指揮のベルリン・フィルのたいへん豪華な演奏がついて来る。緻密な英国人ラトルと機械のように動いてしまうベルリン・フィルの演奏が聞けて、仮にBostridge博士の歌がなくても価値がありそうな、これもまたなんとも英国らしい一品。