碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録341 いいドラマは・・・

2023年09月17日 | 言葉の備忘録

 

 

 

いいドラマは

いい脚本からしか生まれない。

寿司職人が何かのインタビューで、

いい舎利があってこそ、

いい寿司が完成すると言っていた。

脚本は舎利なのだ。

 

 

樋口卓治『危険なふたり』

 

 

 


なりすましドラマ  自分の居場所見つけるヒントに

2023年09月17日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

<Media NOW!>

なりすましドラマ 

自分の居場所見つけるヒントに

 

今期クールに、2本の「なりすましドラマ」が登場した。1本目は「この素晴らしき世界」(フジテレビ系)だ。パート主婦の浜岡妙子(若村麻由美)は突然、芸能事務所から驚きの依頼を受ける。

大女優・若菜絹代(若村の二役)のスキャンダルが発覚し、謝罪会見を開きたい。しかし本人はアメリカへと逃走してしまう。容姿がそっくりの妙子に代役を務めてほしいと依頼があり、妙子は一度だけのつもりで会見を乗り切るが、それで終わりではなかった。

主演の若村自身が、体調不良で降板した鈴木京香の代役である。だが「平凡な主婦」と「大物女優」、さらに「女優になりすました主婦」という3態を演じ分けて見事だった。なりすましを通じて妙子は本来の自己を再発見していく。

もう1本が、夜ドラ「わたしの一番最悪なともだち」(NHK)だ。主人公の笠松ほたる(蒔田彩珠)は就職活動中の大学4年。だがなかなか内定が得られず、途方に暮れていた。

ある日、幼なじみの鍵谷美晴(高石あかり)のキャラクターを借用してエントリーシートを書き、第1志望の会社に送ると通過してしまう。小学生の頃からクラスのもめ事を鮮やかに収め、高校でのトラブルも柔軟な発想で解決した美晴。大学ではダンスサークルの中心メンバーだ。

ほたるにとってうっとうしい存在でありながら、「こんな自分だったらいいのに」と思っていたことに気づく。

その後、1次面接も突破して次へと進むが、気持ちは晴れないまま。最終面接ではついに「あなた(自身)の話が聞きたい」と言われてしまう。一時は落胆するが、仮面をつけて外界と向き合ったことで、逆に自分にとって大切なものが見えてくる。

蒔田はNHK朝ドラ「おかえりモネ」(2021年)でヒロインの妹、「妻、小学生になる。」(TBS系、22年)では堤真一と石田ゆり子の娘を好演。映画「万引き家族」(18年)など是枝裕和監督作品の常連でもある。

今回がドラマ初主演だが、ほたるが抱える自身へのモヤモヤも美晴への複雑な心境も繊細な演技で見せた。

なりすましドラマのヒロインたちが、戸惑いながら得るのは複眼の視点だ。素の自分と別人格になった自分。そのギャップや落差の中に、これまでとは違う自分の居場所を見つけるヒントがある。

年齢に関係なく、誰もが人生を再構築できることを示してくれるのもまた、なりすましドラマの効能かもしれない。

(毎日新聞夕刊 2023.09.16)