北海道帯広「六花亭」の福豆
「週刊新潮」に寄稿した書評です。
内田 樹『街場の米中論』
東洋経済新報社 1760円
近年、ますます存在感を強める中国。一方、国としてのアイデンティティに揺らぎが見える米国。その両者を考察するのが本書だ。自らを世界の中心とする「華夷秩序」が統治モデルの中国はどう動くのか。「自由」と「平等」という解決不能な葛藤を抱える米国の次の一手はあるのか。そして、それぞれの影響下にある日本に何ができるのか。読者もまた自身の「忘れていた記憶」を呼び起こされる。
小川隆夫
『ジャズ・クラブ黄金時代~NYジャズ日記1981ー1983』
シンコーミュージック・エンタテイメント 3740円
ニューヨークのジャズ・クラブが最後の黄金期を迎えていた1980年代前半。医師として留学中の著者はクラブに通いつめた。本書は当時の日記だ。連夜、デクスター・ゴードン、トミー・フラナガンなどを生で聴き、ウイントン・マルサリスからは演奏の感想を求められる。またセロニアス・モンクの葬儀に参列。遺体に白い花を添えた。クラブがミュージシャンの天国だった時代の貴重な記録だ。
北村 薫『神様のお父さん~ユーカリの木の蔭で 2』
本の雑誌社 1870円
著者の読書エッセイには必ず発見がある。たとえば、星新一の文章のすごさは、読むことに不慣れな人には理解不能だという。「それを絵解きしたのが向井敏だ」と続き、『文章読本』が紹介されていく。もう読まずにいられない。そして、著者を介して正宗白鳥が語る森鷗外や島崎藤村のエピソードを知れば、やはり『文壇五十年』を手に取りたくなる。無限に広がる本の世界への“悪魔の誘い”だ。
【週刊新潮 2024.02.01号】
「セクシー田中さん」問題
日テレの対応に相次ぐ批判
原作者とドラマ制作サイドの溝は
埋められなかったか
なんとも痛ましい結末に波紋が広がっている。
ドラマ「セクシー田中さん」の原作者・芦原妃名子さんが脚本家の書いた内容に納得がいかず、最後の2話の脚本を自ら書いたうえ、その経緯をSNSで説明した後、1月29日に亡くなった。
日本テレビは29日、同作の公式サイトで哀悼の意を表するとともに、「日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」と発表。
しかし、ネット上では、「日テレのコメントが残念すぎる」「自己弁護が過ぎる」と批判が相次いだ。
■粗製乱造されている感は否めない
一方、多くの漫画家や脚本家が、X上でこの件に関する感想や意見を書き込む事態に
発展。テレビコラムニストの桧山珠美氏はこう話す。
「今は配信や深夜のドラマなども含め、本当に漫画原作のドラマが増えている。現場は時間に追われ、粗製乱造されている感は否めない。#Metoo運動ではないですが、原作者と制作者のこうした行き違いは今後さらに出てくるかもしれません。
亡くなった芦原さん原作のドラマで言えば、『砂時計』というのが、2007年にTBSで実写化されていて、すごくよかったんです。その後、映画化もされ、原作の漫画も読んだけど、そちらもよかった。
今回の件の詳細は分かりませんが、まだ作品が続いている中で、原作者としては、自分の作品を大切にしたかったのではないか。いずれにせよ、ファンにとっては、この後の話の続きも読めなくなってしまったわけで、残念でしかありません」
原作へのリスペクトの欠如は多くの関係者が指摘するところだが、一方でこんな声も
ある。ドラマ関係者の話。
「今はヒット漫画の原作などではないと、企画も通りにくい。ドラマになれば、作品の知名度も上がり、出版社や作家とはウィンウィンの関係なのだから、本音をいえば、原作者にはある程度任せてほしい。実際、『ドラマと原作は別物と考えている』と公言している作家や漫画家もいる。しかし、芦原さんはそれに納得がいかなかったということです」
ドラマ制作の現場にも詳しい、メディア文化評論家の碓井広義氏はこう話す。
「この件に関しては、論点はたくさんあると思います。ともあれドラマの根幹は“どんな人物が何をするのか”にあります。小説や漫画など原作があるものは、そのクリエーティブのコア部分を原作に借りているわけで、特に漫画原作はビジュアルイメージもすでにあり、その度合いは高い。
一方で、それを単純にシナリオ化して見せればドラマになるかというとそうでもない。制作サイドは、そこにいろいろな要素を盛り込んだり、ドラマ的なアレンジを加えたりします。
いずれにせよ、原作者である漫画家がシナリオを書く事態にまでなってしまったことは、極めて異例なことです。やはり、プロデューサーなりが、そうした事態に陥る前に、原作者と脚本家の間に立って、丁寧に調整する作業が必要だったのではないでしょうか」
この問題、まだまだ関係各所に影響が広がりそうだ。
(日刊ゲンダイ 2024.02.01)