内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

中心と周縁(3)― 「歴史」から「空間」へ、そして現代の不安

2015-11-04 00:00:17 | 哲学

   

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 「中心と周縁」というテーマについての私の考えをまとめるにあたって、第三の手掛かりとなるのが、「私たちが生きている空間は幾何学的空間ではない」というテーゼをそれぞれの仕方で主張している幾人かの哲学者たちの言説である。
 ミッシェル・フーコーもその一人に数えることができる。実際、拙ブログで10月19日から23日に渡って紹介した講演原稿 « Les Utopies réelles ou Lieux et autres lieux» の中にそのような主張が打ち出されている。その数カ月後の講演原稿「他者の場所――混在郷について」(筑摩書房刊『ミッシェル・フーコー思考集成 X』に収録。同テキストについては10月24日から26日の記事を参照されたし)の中では、十九世紀の鍵概念が「歴史」であったのに対して、「空間」こそが二十世紀の主要な関心事だとフーコーは言っている。

Nous sommes à l’époque du proche et du lointain, du côte à côte, du dispersé. Nous sommes à un moment où le monde s’éprouve, je crois, moins comme une grande vie qui se développerait à travers le temps que comme un réseau qui relie des points et qui entrecroisent son écheveau. (Dits et écrits II. 1976-1988, Gallimard, coll. « Quarto », 2001, p. 1571)

 フーコーによれば、私たちが生きているのは、時間の中で繰り広げられていく一つの偉大なる生のように世界が経験される時代ではなく、諸点を結び合わせ、それらを錯綜させるネットワークとして世界が経験される時代である。そして、諸点が併置される無限に開かれた空間という世界像は、ガリレオとともに開かれた。この空間認識こそが中世的世界像を決定的に揺るがしたのであり、その意味で、それは地動説より衝撃的であった。
 しかし、神によって与えられ秩序づけられた「位置」(« localisation »)に基礎づけられた中世的世界像が、無限の「延長」(« étendue »)としての幾何学的空間に取って替わられれたことが近代的世界像を開いたとすれば、その「延長」が「用地」(« emplacement »、何かの用途に使われる場所 )に取って替わられているのが現代である。この「用地」という概念は、次のように定義される。

L’emplacement est défini par les relations de voisinage entre points ou éléments ; formellement, on peut les décrire comme des séries, des arbres, des treillis. (ibid., p. 1572)

 つまり、それぞれの点や要素の意味・意義・価値は、それらがある系列、樹状組織、格子構造の中で占める「場所」(emplacement)にもっぱら依るということである。言い換えれば、それぞれの点や要素それ自体には、もはや意味・意義・価値はないのである。どこに何があるか、どこに何を置くか、これらが今日のもっとも重要な問題である(一言私見を加えれば、「いつ」「どのタイミングで」ということもそれに劣らず重要だと考える)。この点あるいは要素の中には、人間自身も含まれていることは言うまでもないであろう。
 このような世界像に立って、フーコーは、その他の諸々の場所から根本的に区別されるべき特異性を有った場所である「ヘテロトピー」(異所・異空間)の総合的研究を提唱するわけであるが、この点については、拙ブログでも既にいくらか紹介したので、ここでは再説しない。
 今日の記事でフーコーを引き合いに出したのは、実は、ガリレオがもたらしたパラダイム・チェンジにしばしば言及しているもう一人のフランス人哲学者を召喚するきっかけとしてなのである。その哲学者とは、ミッシェル・アンリである。明日の記事では、アンリの著書 La barbarie ( 1re édition, Grasset, 1987 ; PUF, 2008. 邦訳は、『野蛮』法政大学出版局) を取り上げる。