解説
竹西寛子(たけにし・ひろこ)
一九二九年、広島生まれ。小説家、評論家。早稲田大学文学科卒業。高等女学校時代に広島で被爆した。なお、この経験から生まれたのが小説『儀式』である。
大学卒業後、文学全集などの編集を経て、評論家活動をはじめる。日本の古典(詩歌・歌物語・日記)に対する権威でもある。著書に『往還の記―日本の古典に思う』『式子内親王・永福門院』『兵隊宿』などがある。
問題文は『古典を読むー古今和歌集』よりとった。なお、問題の都合で文章の改変がある。
【配点】問六のみ8点、その他は各4点(計40点)
問一 (答)已然形
係り結びの問題。「なきこそ渡れ」と係助詞「こそ」があるので已然形。「已」の字に注意。命令形は不注意。
問二 (答) (1)鳴き (2)掛詞
歌の「初雁のなき」の部分と、訳文「初雁の【 甲 】」の部分が対応している。鳥が「なく」ということは、当然、「鳴く」ことであろう。次に「ながら」があるので、連用形にして、「鳴き」と答えなければならない。
また、この「なき」は「鳴き」と「泣き」というように二度訳していることになり、このように一つの語に複数の意味を持たせる技法を「掛詞」という。「泣き」との区別をはっきりするために「鳴き」と漢字で表記する。
問三 (答)句切れなし
句切りは和歌の意味上の切れ目のことで、要は句点(「。」)が打てるところだと考えればいい。句点が打てる目安は① 終止形 ②終助詞 ③ 命令形 ④係り結びの結びである。
今回のBの和歌には、初句から四句まで句切りがない。結句の「あふぞわびしき」に係り結びがあるので、「句切れなし」となる。
問四 (答)エ
和歌に「もみずるよりも」(紅葉するよりも)とある。つまり、比較しているわけである。比較に対応しているのは、エ「もっと」しかない。
問五 (答) 仮名序
紀貫之は『土佐日記』の作者であると同時に『古今和歌集』の代表的な撰者の一人である。彼は古今和歌集で日本最初の文芸論とも言える『仮名序』(仮名による序文)を書いている。その冒頭が「やまと歌は人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」である。
問六
(答)
Bの方が「言の葉の心の秋」(にあふ)」という言い方によって、心と言葉を対等の関係として描いているため、Aのように「心の秋」だけを歌うよりも、心と言葉の関係に踏み込んだ歌だといえる。
傍線部の直後に「『言葉の心の秋にあふ』という言い方を支えているのは、~ここですでに「言葉」と「心」は、前後上下の関係ではなく、対等の関係で見られている」とある。これについて最終段落で
「時雨つつもみづるよりも言の葉の心の秋にあふぞわびしき」における「言の葉の秋」と「心の秋」とのなめらかな提携には、相対的で非永続的な言葉と、同じように相対的で非永続的な心との対等視があり、「言の葉の秋」のみをうたうよりも、「心の秋」ひとつをうたうよりも、深く心と言葉の関係に踏み込んだ直観の軌跡をそこに読むことができる。
と述べられていることから、Bの方が「心と言葉の関係」に踏み込んでいることが分かり、より踏み込んでいると言えるのは、「心」と「言葉」を「対等」に見ているからなのである。最終段落に基づいて、Aの和歌には「心の秋」しか用いられていないことを指摘すれば、設問の条件に合致する。
【採点基準】
・Bの方が優れている という指摘がなければ全体として0点。
・Bの方が優れているということが分かれば、その他の記述に無関係に2点を与える。
・Bが優れている理由として「心と言葉を対等の関係として描いている」という指摘があればプラス2点。
・Aから「心の秋」が引用されていればプラス2点。
・Bから「言の葉の心の秋(にあふ)」が引用されていればプラス2点。
問七 (答) エ
「作者の解釈における」という限定に注意しよう。つまり、宣長の部分だけで解答を出してはいけないのである。
まず、宣長自身は「歌のよしあしは多くは詞にありて情にあらず」と言っているので、アとウは答えにならない。イは「心情をありのままに表現しなくてもよい」の部分が、作者が宣長について仮定している部分、つまり「『心』の分明も不分明も、さし当っては『詞』で探られ、『詞』で定められていうのが宣長の言いたいところだったとすれば」の部分と比べて不適当である。この仮定の部分がエの部分と同意であるので、正解はエである。
問八 (答) 絶対
最終段落の「相対的で非永続的な言葉と、同じように相対的で非永続的な心」の部分と「【 丁 】的でもなければ永続的でもない心と、同じように【 丁 】的でも永続的でもないでもない言葉」の部分は対応している。つまり、「【 丁 】的でもない」は相対と同じ意味とならなければならないのである。「【 丁 】的でもない」を「相対」と同じにするには【 丁 】には「相対」の対義語を入れればよい。よって「絶対」が答えとなる。
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