踊る小児科医のblog

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必要なのは国民の命を守る政治のリーダーシップ:TOBACCO FREE * JAPAN

2005年05月13日 | 禁煙・防煙
"tobacco free" とか "smoke free" というと、ときどき全く逆の意味で「タバコを自由に(フリーで)吸ってもいい」などと解釈する人がいて困るのですが、"tax free" とか "duty free" などと同じように、○○から自由に、○○から免れるというニュアンスで、狭い意味では「禁煙(環境)」ですが、より広い意味で「タバコのない、タバコの害のない(無煙)世界」といった意味かなと思います。喫煙者もタバコの拘束から解き放たれて自由になり、非喫煙者にとっても受動喫煙の害がないだけでなく、間違った知識や認識不足からタバコの罠にとらわれることのない世界。

TOBACCO FREE * JAPAN という提言がフルカラーの報告書とCD-ROMで発表されています。非売品で一般書店には流通しませんが、概要版はWEBからダウンロードすることができます。報告書の記事の合間に挟まれたコラム14本が、タバコ問題の本質を鋭く表現しているので、ここに引用させていただきます。(タバコは原文のままひらがなにしておきます)

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Recommendation for Tobacco Control Policy
TOBACCO FREE * JAPAN
ニッポンの「たばこ政策」への提言


Column

01

日本では、喫煙によって年間11万人が死亡しています。

現在、わが国では、年間11万人(2004年)が喫煙が原因で死亡(超過死亡)していると推定されています。
これは、交通事故による死亡者数(約1万人)の10倍にあたる愕くべき数字です。

02

注意すべきは「吸いすぎ」ではなく「造りすぎ」ではないだろうか。

日本は、世界第3位の多国籍たばこ会社JTを所有し、先進国の中でも男性49.2%という最高の喫煙率を維持している、まさに「たばこ大国ニッポン」です。
国内向けに年間2,300億本という大量の紙巻きたばこが生産され、さらに、800億本が海外から輸入されています。
年間3,100億本ものたばこが消費されている計算になります。

03

たばこ自動販売機の設置台数は、現在626,000台に達している。

日本におけるたばこ販売の特徴は、いつでも、誰でも手に入ることだ。
2003年末での、626,000台の設置台数は、たばこ販売許可店舗約30万件の2倍に相当する。
きっかけは、80年代の日米貿易交渉による市場開放政策。
結果、現在日本の輸入たばこの97.3%は米国製たばこが占めている。

04

ある時は、日露戦争の戦費準備に、また、敗戦後は焦土と化した国家再建の貴重な財源として、「たばこ」は日本の国庫に重要な貢献を果たしてきた。

現在のたばこ税の総政府歳入に対する割合は、比較的少なく2%に過ぎません。
健康影響への科学的証拠が出揃った現在、政府とたばこ産業の関係についての政策的再構築が必要とされている。

05

日本人は、平均寿命が男女共世界一という、世界に誇れる国を造ってきた。
しかし、喫煙による健康被害は30年遅れてやって来る。

いま、喫煙を原因とする日本の超過医療費は1兆3000億円。
社会損失費、7兆4000億円。
ツケを払う時代を迎えている。

06

たばこの煙には、わかっているだけで4,000種以上の化学物質が含まれ、そのうち、約60種類に発がん性が確認されている。

食物と比べたばこの煙やガスはすぐに体内に吸収される。
しかし、「たばこ」は食品とは呼ばれない。食品衛生法の管理外である。
添加物にあれほど敏感な消費者も、たばこにはどんな添加物が使用されているのか、たばこの煙に何が含まれているのかについては、関心が薄い。

07

「たばこ病」とは、何か。

喫煙習慣は、からだ全体にダメージを与えます。
ニコチンによって、血管の収縮が繰り返され、一酸化炭素による酸素不足も加わり、循環器系の疾患を発症させる。
発がん物質を含む様々な化学物質の体内取り込みにより、「がん」をはじめとする重大な疾患を引き起こす。

08

「私はニコチンには、依存性がないと信じている」
7大主要たばこ会社の社長たちによる米国議会公聴会での宣誓証言,1994

皮肉なことに、この宣誓証言こそ、その後、ニコチンの依存性が世界的に明白にされるきっかけとなった。
現在、諸外国のたばこ会社はニコチンの依存性を認めているが、JTの態度は未だ曖昧だ。

09

たばこ会社の年間広告費は178億円。厚生労働省のたばこ対策関連予算は、3,000万円。

長寿文化の中で、「たばこも吸いすぎれば、体によくないな」と、国民の多くはおおらかに考えてきた。
そして、いまだに「知ってるつもり。」になっているのが、「たばこの健康被害」についてだ。
重大な健康情報を国民に「知らせる責任」が、政府にはある。

10

値上げにより、需要が低下しても、増税効果で短期、中期的にはかなりの増収が見込めるのである。
世界銀行報告書より

どの国においても、たばこによる税収は大きな意味をもつ。
たばこ抑制政策をすすめる上で、たばこの値上げによる国庫に与える影響について、世界銀行からは、心配無用の調査報告がなされている。

11

保護されてきた「たばこ農家」への補償を含め、産業転換のための必要な施策は多い。

1980年代、米国は日本にたばこ市場の開放を求めた。
その結果、民営化計画が推進され、85年の「たばこ事業法」に結実し、日本のたばこ産業の振興が維持された。
たばこ規制政策を推進する上で、こうした、すでに出来上がった政治、経済の社会システムを、どう、再構築させるのか。

12

たばこは健康被害を引き起こすという科学的根拠の集積の前に、健全な産業の発展と安定した財政収入の確保という1984年施行の「たばこ事業法」の概念は、いまや成立し難い。
日本国として、「たばこ規制枠組条約」に批准したいま、

現行の「たばこ事業法」に変わる、新しい富国の産業ビジョンが求められている。

13

いまや世界では、環境や健康について科学的証拠に反した産業政策は成立しない。
しかし、たばこ規制政策は、産業、経済、政治、社会全体のシステムが複雑に絡み合った、障壁の大きな政治的課題でもある。
健康増進法施行、たばこ規制枠組条約批准と、たばこ規制政策推進の環境は整った。

あとは、必要なのは国民のいのちを守る政治のリーダーシップだ。

14

たばこの値上げというと、マスメディアでは、いまだに庶民の楽しみを奪うというステレオタイプの報道が目立つ。
しかし、国民の命を守るという立場に立ったとき、価格政策はもっとも効果的なたばこ規制政策の手段の一つだ。
国庫の歳入を確保しつつ、消費をクールダウンさせる効果。
そしてなにより、未成年者への喫煙防止効果が高いことだ。

国際的に比較して、日本のたばこの値段はまだまだ安い。