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修正後の臓器移植法改正案は「二つの死」から抜け出せたか

2005年05月25日 | こども・小児科
臓器移植法の改正案については、4/21の「臓器移植法改正案の修正作業を注視していく」の中で、河野太郎氏の「一律に脳死をもって死とする」私案を「臓器集めのためだけの案」と批判し、同時に現在の法律を「二つの死をつくった禁じ手」であるとも触れてきました。その中で取り組んでいた修正後の改正案については、まず河野氏のメルマガごまめの歯ぎしりから「5月23日 そう単純に「脳死は人の死」ではない」を規定により全文引用し、そこで批判されている各紙報道へのリンク(長期保存されないサイトもある)も掲載しておきます。

河野氏の「各紙の科学部のセンスにはため息が出る」というポイントと各紙の記載との差を見比べて、再読再々読くらいしてみる必要はあります。大事な問題ですから、それくらいの手間はかけないといけません。しかし、各紙の中で毎日の「家族が脳死判定を拒否する権利を、臓器提供につながる判定に限って認めた。提供に関係ない場合は、医師の裁量で判定し、脳死で死亡宣告ができるようになる」という記載は、河野氏の「脳死を人の死と考えない人は法的脳死判定を拒否することによって、「脳死」にならない」という説明と若干異なっているように思えます。このあたりが実際には重要なポイントになるので、法案の全文が出てきたらもう一度チェックしてみたいと思います。

もう一回整理すると、改正のポイントは1)脳死を一律に死とするか、2)小児の年齢規定についての2つで、2)に関しては虐待疑いの場合や本人の意志決定についてなどの検討が必要、と。

で、私自身の結論としては、現状では反対意見を踏まえて修正された改正案(河野・福島案)で進めるしかないのかなという気がしますが、これで良いと自信を持っては言えません。現行法の二つの死を踏襲して年齢だけ下げた斉藤案(公明)では、最大の目的である「臓器集め」の効果は乏しいし「禁じ手」は残るけれども、これでは駄目だと言い切るほどでもない。やはり難しい問題です。(割り切れる人にとっては難しくないのかもしれませんが)

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土曜日の各紙がいっせいに臓器移植法の改正案を取り上げる。
そして、各紙とも検討会がまとめた河野・福島案の解説をするなかで、河野・福島案は脳死を人の死としている、と。
あれだけメディアの質問に答えたのに、このいい加減な報道で、ため息。

検討会のたたき台となったもともとの河野案は「脳死は人の死」という案である。
脳死判定は医者の医療行為であるから、医者が必要だと思えば法的脳死判定を行うことができ、そこで脳死と判定されれば死亡届が提出される、という案である。
検討会ではここを大幅に修正した。

河野・福島案でも確かに「脳死は人の死」である。
しかし、河野・福島案は、脳死は人の死ではないと考えている人の意思も尊重しているために、河野案とは決定的に違う。
人が「脳死」になるためには、「法的脳死判定」が行われなければならない。
河野案では「法的脳死判定」を行うかどうかを決めるのは医者である。本人が脳死は人の死ではないと思っていても、家族が脳死になった本人を見て、とても死んでいるとは思えないと思っても、医者が脳死判定をして、脳死と判定されれば死亡である。
河野・福島案では本人が生前に脳死を人の死と認めていない場合や家族が脳死を死と認めない場合には、「法的脳死判定」を拒否することができるようにした。
脳死状態であっても、「法的脳死判定」が行われない以上、脳死にはならない。だから、脳死を人の死と考えない人は「脳死」にはならないことになる。
河野・福島案では、「法的脳死判定」に同意し、脳死と判定されれば、その人は「死んでいる」。だから、脳死になった者の身体から心臓を摘出しても殺人になることはない。
「法的脳死判定」が行われ、脳死と判定された者は、その者が臓器提供をしようとしまいと「死んでいる」。
現行法では、法的脳死判定が行われても、臓器提供をする者は死んでいて、そうでない者は死んでいないという同じ状態でも生きている場合と死んでいる場合がある。
河野・福島案では法的脳死判定が行われ、脳死と判定された者は臓器提供をするかどうかにかかわらず、死んでいる。
しかし、河野・福島案では、脳死を人の死と考えない人は法的脳死判定を拒否することによって、「脳死」にならない。

という、この検討会の最大の修正を「河野・福島案では脳死は人の死」とだけ書く各紙の科学部のセンスにはため息が出る。
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臓器移植法:与党から改正2案(毎日)
臓器移植法 対立2改正案提出へ(読売)
「脳死は人の死」で対立 臓器移植法、改正案一本化断念(朝日)
臓器移植法改正、国会に2案提出へ・与党有志の検討会(日経)
家族の同意で判定、提供 臓器移植法改正で2案(共同)