踊る小児科医のblog

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受動喫煙でも喫煙者と同じ量の発がん物質を吸い込んでいる

2005年05月28日 | 禁煙・防煙
Q.タバコの煙は直接吸っている人よりも周囲にいてその煙を吸わされている人の方が何倍も害が大きいと言われていますが、どうしてでしょうか。

A.受動喫煙の害については、若干表現や解釈上の違いがあったのかもしれませんが、もちろん喫煙者が毎日直接吸って長年吸い続けた方がトータルとしての害が大きいことは確かで、現在日本国内では喫煙によって毎年11万人以上の人が亡くなっているものと推計されています。一方、別の推計では、毎日家庭や職場で受動喫煙にさらされることにより、毎年2万人前後という莫大な数の方が亡くなっているということも最近わかってきています。

 これまた別の推計では、生涯にわたる曝露によって喫煙者は2人に1人(10万人あたり5万人)がタバコによる病気で亡くなっているのに対して、受動喫煙では20人に1人(10万人あたり5千人)が亡くなっており、これは環境汚染物質許容基準(10万人に1人)の5千倍にも相当する猛毒であることを示しています。

 また、一般的にご指摘のような「受動喫煙の方が害が大きい」ともとれるような表現を用いるのは、タバコの煙には主流煙(直接吸い込む煙)と副流煙(周囲に広がる煙)があり、非喫煙者は副流煙と喫煙者が吐き出した煙の混ざった環境タバコ煙(ETS)を吸っていることになります。主流煙と副流煙を比較すると、ほとんどの有害物質は副流煙の方に数倍から数十倍も高い濃度で含まれているからです。

 例えば、刺激性のあるアンモニアは40~170倍も高いため、受動喫煙によって目や鼻にきて涙が出たり目がチカチカしてきたりします。それだけでなく、タバコに含まれる代表的な発がん物質であるジメチルニトロサミンという物質は20~100倍も高く、一般的に非喫煙者は喫煙者が吸入する量の10分の1の煙を吸い込むとされていますので、喫煙者と周囲の受動喫煙者では吸入量にほとんど差がないということになります。

 ニコチンは副流煙に2.6~3.3倍程度高く含まれていますが、上記のように多くの有害物質はそれ以上の高濃度で含まれているため、尿の中のコチニンというニコチンの代謝産物を測定して受動喫煙の影響を調べる検査では、受動喫煙の害を低く見積もってしまっている可能性があるのです。

 米国における調査によると、日常的な受動喫煙によってがんにかかるリスクが1.6倍になりますが、これは広島型原爆を爆心地から2.5kmの地点で遮蔽物なしで被曝するリスクに相当します。これだけの危険な物質に一般の人が普通の生活で接するということは他の物質ではまずなく、タバコの煙は日常的にみられる中では最も危険な「猛毒」であり、「タバコのにおいがしたら逃げ出すように」と中学生への授業などではお話ししているところです。

 上記の数字などの資料は、いずれも『タバコ病辞典』~吸う人も吸わない人も危ない(加濃正人編、実戦社)から引用したものです。