元気ですか?
君の母親には、20日と28日の件、了承を取りました。行き先を尋ねられたので、20日は白金高輪の私の知り合いの店で昼食後、ブリヂストン美術館か出光美術館へ行き、5時に家に着くように都立家政まで送ると伝えました。また、28日は茂原にあるas it isという美術館へ行き、やはり午後5時までに車で家の前まで送ると答えておきました。
今回も3月の一時帰国と同じように成田空港で携帯電話を借りる手配を済ませてあります。16日にはその電話番号が確定する予定なので、決まり次第、君の携帯のメールに連絡を入れておきます。
20日は11時に高田馬場駅の山手線ホームの新宿寄りで待ち合わせましょう。
先週はスーザン・ソンタグ「他者の苦痛へのまなざし」、マルグリット・デュラス「北の愛人」、石川淳「紫苑物語」を読みました。
スーザン・ソンタグは批評家で、私の学生時代に活躍していた人です。その名前はよく耳にしていたのですが、これまでその著作を手に取る機会がありませんでした。今回、ようやく彼女の写真論を読む機会を得ました。書かれているのはごくまっとうなことであり、抵抗無く読む事ができました。ただ、写真の話なのに写真が一枚も掲載されていないのは、著作権の問題があるにせよ、やや不親切ではないかと思います。幸い、本書で取り上げられている写真の殆どは見た事がありますし、その一部は自分の蔵書のなかにもあるので、私自身は問題ありませんでした。訳が少しぎこちないように思いました。
マルグリット・デュラスも一時期かなり流行した作家で、ずっと気にはなっていたのですが、今ごろになってようやく読みました。「北の愛人」は作者に自伝的小説である「愛人 ラマン」を映画化するにあたり、脚本の形式に書き直したものを再構成したものです。要するに脚本のつもりで書いたのだけれど、諸般の事情があって、結局、小説として出版したというものです。それでは「愛人 ラマン」とだぶるじゃないか、と思うでしょう。見事にだぶっています。細部のこだわる人にとっては、微妙な差異に意味を見出すのでしょうが、物語自体はどちらか片方を読めば済むことです。人生の不条理のようなものを描いた作品で、中学生が読む内容とは思いませんが、主人公は15歳の女性ですから、知的に早熟な中学生なら、面白いと思って読むのかもしれません。
石川淳も読んでおきたかった作家ですが、今ごろ初めて手にしました。講談社文芸文庫版で読みましたが、「紫苑物語」には表題作のほかに「八幡縁起」と「修羅」が収められています。どの作品も、人の本性のようなものをテーマに据えており、ある程度人生経験を積んでから読むと、心にしみてきます。尤も、君が読んでも、君なりのおもしろさを発見するのかもしれません。
昨日、土曜日は大英博物館で開催中のハドリアヌス展を見に行ってきました。先週のメールに書いたように、たまたまマルグリット・ユルスナールの「ハドリアヌス帝の回想」という本を読んだ後だったので、それなりに興味深く思いましたが、入場料を取る割に展示内容が寂しい感が否めません。ローマ帝国の時代には、イギリスは辺境の地だったこと、ハドリアヌスの時代が今から1,800年以上も前であったこと、などから大英博物館の企画展といえども多くは期待できないのかもしれません。
では、20日土曜日に。