「済みませーん、この辺にかかしが住人の町があると
聞いてやって来たんですが、どの辺りかご存じないでしょうか」
農作業をしているお婆さんを見かけ声をかけたが、
ちょっと距離が遠かったと見え聞こえなかったようだ。
やむなく少し車を走らせるとベンチに腰掛け
川を覗き込んでいる人がいた。
少し離れたところでは孫と一緒に蝉取りをしている老人も。
「あのー、済みません。かかしの里に行きたいんですが・・・」
皆さん忙しいのか、それとも見知らぬ不審者とは
口を利かないようにしているのか、こちらを振り向いてももらえない。
「あっ、失礼しました。トイレ、ですね・・・」
「なに、かかしの里はどこかって。ここだよ、ここ」
「あっ、ここがかかしの里で有名な安富町ですか。
えっ、皆さんもかかし? あのお婆さんも、あそこで
農作業をしている人も?」
兵庫県・安富町は今は姫路市安富町だが、合併前は宍粟郡安富町。
姫路市と言うよりは宍粟市の方が距離的に近いのではないだろうか。
住人の数よりかかしの数の方が多いぐらい(失礼!)
かかしをあちこちで見かけた。
消防団員もかかしならバスを待っている観光客もかかし。
倉庫の中を覗き見しているのもかかし。
その隣で薪割りをしている人はこの町で出会った数少ない住人。