栗野的視点(Kurino's viewpoint)

中小企業の活性化をテーマに講演・取材・執筆を続けている栗野 良の経営・流通・社会・ベンチャー評論。

「コロナ」が変えた社会(4)~貧困層が増え、社会的格差がさらに拡大

2021-08-09 21:00:00 | 視点

 COVID-19は人類の生活をすっかり変えた--。と言っていいかもしれない程、我々の社会生活、日常生活を変えつつある。人と人の物理的距離(ソーシャルディスタンシング、フィジカルディスタンス)の取り方やマスク姿、リモート〇〇は、そのうち元に戻るかもしれないが、修復できないほど距離を広げたものがある。

エールは時にプレッシャーにも

 その1つに社会的格差がある。貧富の差と言ってもいいだろう。かつて日本は「1億総中流社会」と言われたように富の格差はそれ程大きくなかった。この頃が最も活力に溢れていた時であり、その後バブル経済期を迎え「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などと言われ、いい気になっていた頃もあった。
 だが、「驕る平家も久しからず」の例え通り「日出づる国」はバブル経済崩壊を経て「日没する国」になり、その頃から貧富の差が開き出し、格差拡大社会へと移行していった。

 現実と幻想、人々の意識の間には認識の時間的差がある。両者の差が埋まってきたのが平成の終わり頃で、その頃になるとほとんどの人が格差の存在を認めるようになったのと同時に、一度付けられた格差は変えることができず固定化されていくと身をもって知りだす。階層から階級への変化であり、格差の固定化である。

 この現実を実感して初めて人々は格差社会の存在を認識するも、この国の人々の中にはまだ「努力すれば変われる」「変われないのは自分の努力が足りないからだ」という、親の代から擦り込まれた「希望という名の幻想」が残っており、それが「自己責任」という名に変えられ、個人の責任に帰せられ、権力批判に向かわないのが、この国の特徴だ。
 かといって、鬱々たる不満を抱えたままでは自らが病んでいく。どこかに「ガス抜き」をする必要がある。向かう先は異分子、権力を持たない弱者。彼らは総じて集団に従わない、集団の「総意」と異なる意見を持っている。それを皆で叩こうとする。形を変えたイジメ、リンチである。

 こうした現象は逆の形で表れることもある。例えば今回の医療従事者への讃辞。感染リスクに曝されながらCOVID-19患者を受け入れ、治療に当たっている医師や看護師など医療従事者に感謝を贈ろうと始まった、決まった時間に一斉に拍手する行為。
 動機が善意だけに批判もなく各地で広がって行ったが、元はアメリカで始まったもの。モノマネでも二番煎じでも、善意を広げることはいいことだ。しかし、行政が率先してやることに腑に落ちないものを感じる。
 福岡市でも市長をはじめ職員が一斉に窓際に立ち拍手するらしいが、そこに善意の強制と医療従事者へのプレッシャーを感じてしまうのはなぜか。

 まず行政が行わなければならないのは実質的な支援だろう。医療現場が欲しいのは医療用具であったり、人的・金銭的支援のはず。それを「拍手」だけで済ませようというところにセコさ、パフォーマンスを感じてしまう。「同情するならカネをくれ!」という言葉はこういう時にこそ相応しい。
 雨合羽の寄付も緊急時に何もないよりはあった方がいいだろうが、本当に欲しいのは医療用防護服で、行政や企業はその手配こそ全力ですべきだ。
 後方部隊の役割は精神力に訴えることではなく、現場に不足物資を届けることである。輜重の補給があってこそ前線部隊は闘えるのだから。

 後者の問題はギリギリのところで頑張っている医療従事者に、もっと頑張ってくれというプレッシャーを与えることになる。感謝の一斉拍手は最初はうれしいだろうが、決まった日時に定期的に行われ出すと、それはエールを通り越して「もっと頑張れ」というプレッシャーに感じてくるだろう。
 感染リスクと背中合わせで、心身ともに疲れ切っているのに、まだ頑張れと言うのか。私達が欲しいのは休める時間と、勤務に見合った報酬だ、という気になってもなんら不思議ではない。立場が逆なら、多くの人がそう考えるに違いない。

62人が36億人分の資産を所有

 話を元に戻そう。
 かつての階層分化は固定化され階級に変じているにも拘わらず、それを未だ「階層」だと信じているお人好しにされてしまった国民。本来、権力に向かうべき刃は「刀狩り」以降すっかり牙を抜かれて従順な飼い犬に成り下がり、せいぜいネットで「リア充」を発信する程度である。
 ネットという仮想世界で現実生活を「リアルは充実」と発信すること自体が奇妙だが、ネットは「幻想社会(バーチャル)」と彼女達は知っているからだろう。束の間の夢の世界であり、現実とは違う仮想社会(バーチャル)だからこそ演じられる世界であり、そこで現実(リアル)に感じている様々な不都合、不平等、不誠実、差別等をなかったことにしている。
 「夢見るシンデレラ」は悪いことではない。ただ、それが権力者によってうまく利用されていることも知っておく必要があるだろう。

 アメリカでは人口の1%の富裕層が富を独占し、経済も政治も動かしているばかりか、「世界のトップ62人の大富豪が全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っている」(国際貧困支援NGO「オックスファム」による報告、2016年)という現実を見れば、かつての封建時代より貧富の格差ははるかに大きくなっていることに気付くだろう。

 問題は格差があることではなく、格差が拡大し、なおかつ固定化(階級化)していることである。貧しい者は一層貧しくなり、人口の1%程度を占める富める者はますます富み、富だけでなく権力も掌中にしていく構造が出来上がっているにも拘らず、その現実から目を逸らされている。
 富める者は富を1代で築こうが、親から譲り受けたものであろうが、その富で幼稚園・小学校から有名校に入学でき、有名中高一貫校に進むか、有名進学校に入学し、家庭教師を付けたり有名塾に通って一流大学に入学し、官僚になるか政治家、あるいは一流企業に就職する。
 早い話が日本の政治、経済をリードする地位に彼らが着いているわけだ。このことは取りも直さず、親の財産の過多で子の将来は決まっているということであり、日本も階級社会になってきたことを意味している。

 一方、貧しい者は高校時代から学費稼ぎのためにアルバイトをし、大学に入学しても学費と生活費のためにアルバイト生活を余儀なくされる。言い換えれば、勉強したくても勉強に割く時間がない。学費と生活費を稼ぐためにアルバイトをしなければ生きることさえままならないのだ。
 彼・彼女達の何パーセントかは生きるために学業を諦めざるを得ない者も出て来る。なんとか卒業できたとしても、そんな環境で優秀な成績を残せる人間は極めて稀だろう。
 一見、「よーいドン」で走り出しているように装われているが、実はスタート時点から差を付けられている。これは競争でも何でもない。勝つ者は最初から分かっている。それが今の格差社会の現実である。

格差は拡大するのか縮小するのか

           (略)

低所得層は今後増えていく

           (略)

「リモート」が格差を広げる

           (略)

 

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「コロナ」が変えた社会(3)~世界は中国化していく

2021-08-09 12:28:33 | 視点

 「アメリカファースト」に凝り固まったトランプ米大統領は自国経済の悪化もCOVID-19による米国民の死者数増も、悪いのは全て中国のせいにして自身の支持率アップを図ろうとしている。だが彼の思惑とは反対に中国の世界への影響力は確実に広がりつつある。
 そしてCOVID-19の世界的大流行(パンデミック)が一段落した後、世界はほぼ間違いなく中国化しているだろう。

「コロナ」後は中国が世界標準に

 未知のウイルスへの感染者が最初に発見されたのは中国で、そのウイルスは少し前に流行したSARSウイルスに似ていたので「SARSコロナウイルス2(SARS-CoV-2)」と名付けられ、このウイルスによって引き起こされる感染症は「COVID-19」と名付けられた。
 中国・武漢市でCOVID-19の罹患者が増えだした当初、中国は情報を公表せずひた隠しにしたため世界から批判を浴びたが、その後の対応は素早く、武漢市を封鎖するという強権的なやり方でCOVID-19の封じ込めに「成功」したように見える。
 中国はSARSの時も情報を公開せずWHOから批判されたが、今回の対応はその反省に立ったものではなく、対応はまったく同じだった。
 それでもCOVID-19の封じ込めに「成功」し、中国全土への感染拡大を防いだことから、世界各国が中国のやり方に倣ったのは知られている通りだ。

 個人的には中国の「成功」に倣ったのは「ボタンの掛け違い」だったのではないかと考えているが、中国の封じ込め「成功」を目の当たりにした各国指導者は中国と同様の方法を、同様のやり方で行った。強権的な都市封鎖(ロックダウン)である。

 なぜ、世界の政治指導者達はここまで強権的な方法に踏み切ったのか。なぜ、民主主義国家の国民が大した反対もせず、自由と私権の制限にやすやすと従ったのか。本当にSARS-CoV-2は狂暴なウイルスなのか。
 そうしたことが本当に解明されるのはもう少し後になりそうだが、現段階でもはっきり分かっていることが1つだけある。
 後の時代に「COVID-19の前と後」と語られるほど、この感染症が我々の世界を変えてしまったということだ。

 それは何か--。結論から先に言えば、民主主義の崩壊と世界の中国化である。さらに言うなら、アメリカという「帝国」の完全なる崩壊と、それに代わる中国という「新しい帝国」の覇権確立だろう。

 そして意図するとしないとに関係なく、それまで世界の秩序を維持していた民主主義国家はCOVID-19を契機に経済のみならず政治的にも中国の覇権の下にひれ伏したことを意味する。それと同時に、それまで「グローバルスタンダード」とほぼ同意語だった「アメリカスタンダード」は「チャイナスタンダード」に変わることも。

「帝国」になれない中国の覇権主義

 中国の覇権は今回のCOVID-19で急に始まったわけではない。それ以前から着実に進んでいたが、ここ数年、そのスピードを上げている。
 歴史上「帝国」と称される国はいくつか存在しているが、「帝国」とは軍事力の強大化を意味するものではない。言い方を変えると、軍事力が強大化すれば「帝国」なのかと言えば、そうではない。
 軍事力は必要条件ではあるが、十分条件ではない。真に帝国化するために必要なのは経済力で、それが十分条件であり、それなくしては帝国足りえないと言える。

 強大な軍事力を維持するためには、それを支える経済力がなければならない。また勢力を周辺地域に広く及ぼしてはじめて「帝国」と称されることからも分かるように、自国だけの利益を考えた国は「帝国」足りえないのだ。
 つまり勢力範囲内の国々と「共存共栄」の関係を多少なりとも築くことが「帝国」の維持に欠かせないわけである。
 例えばローマ帝国は軍事力のみで周辺諸国を従えたわけではない。征服した国には広く自治を認めたことが知られているし、交易を通して互いに潤う関係を築いていた。その関係が崩れた時、「帝国」の崩壊が始まる。

 第2次大戦後、アメリカが「帝国」となり得たのは国土が戦火の影響を受けず、戦後いち早く産業が回復したからだ。ヨーロッパ諸国の産業が壊滅的な影響を受ける中でアメリカは復興の後押しという名目で自国の産業製品、農業品の輸出を行い、勢力範囲を拡大して行った。
 その同じ過程を中国が辿りつつある。言い換えれば、中国はアメリカのやり方を忠実に真似ているのだ。

 では、中国はアメリカに代わる「帝国」となり得るのか。答えはノーである。中国、特に習近平のやり方を見ていると、覇権を推し進めて行くのは間違いないが、「帝国」にはなり得ない。
 というのは中国はトランプのアメリカ以上に自国1国の利益しか考えていず、相手国にも「恩恵」をもたらし、「共存共栄」の関係を築いていくつもりはないからだ。周辺国に軍事的圧力をかけ、経済的に従属させるのは覇権主義で帝国主義ではない。
 帝国とは少なくとも周辺国等から多少なりとも尊敬と憧れの目で見られる存在でなければならないが、今の中国は収奪することしか考えていない。

 習近平は「帝国」に対する理解が浅く、学んだのは表面的な事象だった。特に日本や欧米列強の清国に対する態度から多くのことを学び、当時、列強諸国が中国に対して行った悪名高き方法を、まるで歴史をなぞるように行っている。
 その一つが99年租借である。
例えば2015年秋、中国の「民間企業」嵐橋集団(Landbridge)はオーストラリア北部に位置するダーウィン港を99年リースする契約を北部準州政府と交わした。リース契約料は5億6000万オーストラリアドル。加えて2億オーストラリアドルを投じて港湾設備や周辺の整備をする。
 嵐橋集団は「民間企業」とはなっているが、中国の場合は少し意味合いが異なり、額面通りの民間ではない。同集団を率いるトップ、叶城理事長は「中国人民政治協商会議全国委員会」や「山東省人民代表大会」のメンバーである(本人の名刺の裏書きに記されている)ことからも、純民間企業というより党と軍のフロント企業と考えた方がいい。

 同じような租借地契約はスリランカとの間でも交わされている。同国最大都市コロンボの海岸を埋め立て国際金融都市を建設する計画で、リース契約期間はやはり99年。この新規開発エリアは「スリランカ国内とは異なる税制、法体系が適用される」と開発を担当している中国国有企業「中国港湾(CHEC)」の担当者が明言しているように、かつて中国が列強から押し付けられた不平等な租借地契約を、まるで仕返すかのように実行している。

 スリランカが中国と「租借地」契約を結ぶきっかけになったのは2004年末のインド洋大津波による被害。その際、いち早く手を差し伸べたのが中国だ。ここまでは「さすが中国。発展途上国への支援」という「美談」だが、そこで終わらないところが覇権主義の中国。
 港の整備のほか国際空港、高速道路の建設などを復興支援の名目で行ったのはいいが結局は借款。スリランカに残ったのは、そこから上がる利益ではなく重い返済債務。結局、その債務帳消しと引き換えに海岸租借を呑まざるを得なかったというのが実情。
 ここまで忠実に真似られると欧米諸国も過去の歴史への反省なく、一方的に中国を責めることはできないだろう。

 それはともかく今、中国は経済力をバックに世界各国に経済的侵略を進めているが、今回のCOVID-19の「パンデミック(世界的大流行)」が世界の中国化をより急速に進めるのは間違いない。

増加する監視システムと追跡アプリ

     (以下 略)

 

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