報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「悪霊の攻撃」

2017-01-18 22:51:39 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日22:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”]

 ペンション女性スタッフの篠原、それに勇太とマリアが209号室に向かった。
 勇太はこれで2度目である。

 篠原:「失礼します。スタッフの篠原と申しますが、ちょっとよろしいですかぁ?」

 篠原がノックをして声を掛けた。
 着替えてから1階に下りるということだったので、ここは女性スタッフが声掛けした方が良いと思ったのだ。
 だが、応答は無かった。

 篠原:「すいませーん!ちょっとだけでいいんで、開けてもらえますかー!?」

 マリアが魔法の杖をグッと構える。
 と、その時だった。

 本田:「ぎゃああああぁ……っ!!」

 部屋の中から女性の断末魔が聞こえて来た。
 声からして、本田のようだ。
 と、次の瞬間、部屋のガラスが割れる音がする。

 勇太:「篠原さん、早く鍵を!」
 篠原:「は、はい!」
 マリア:「開ケタラ、アナタハ外デ待ッテテクダサーイ!」

 篠原がカギを開けると、マリアが部屋の中に飛び込んだ。

 勇太:「うっ……!」

 窓ガラスが割れているので、201号室と同様、吹雪が室内に入り込んでいる。

 勇太:「本田さん……」

 本田は血だまりの中に倒れていた。
 首を掻っ切られており、それが致命傷になったようだ。
 マリアが脈を取ったが、既に事切れていた。

 勇太:「渋谷さんは……?」

 マリアはトイレの個室を開けた。

 マリア:「!!!」
 勇太:「マリアさん!?」
 マリア:「……勇太は見ない方がいい」

 そういうマリアも、吐き気を無理やり押さえている感じだった。
 ちょっとやそっとのスプラッターなら慣れているはずの魔女でも、吐き気を催すほどだった。
 それもそのはず。
 トイレには首と胴体を切り離され、虚ろな目をした生首は律儀にも、閉じられた便座の蓋の上にちょこんと乗せられていた渋谷の姿があったのだから。

 マリア:「悪霊め……!ひょっとすると、このペンションにいる者全員を殺すつもりかもしれない……!」
 勇太:「何ですって!?」
 マリア:「恐らく悪霊は島村真理愛の体に憑依したか、或いは島村本人が悪霊の権化だったのかも……!」

 マリア繋がりで、マリアに憑依しようとしたこともあったと思う。
 だが、そこは魔道師。
 持ち前の魔力と警戒心で、それを防ぐことができた。
 しかし、島村は……。

 マリア:(鋭利な刃物でも持っているのか?随分ときれいに切るものだ)

 刀剣で斬首するのは実は難しいということは、マリアも知っていた。
 何度も何度も斬りつけて、ようやくその首を落とすのである。
 さすがにそれは残酷過ぎるということで発明されたのが、フランスのギロチンである。
 渋谷の首は、まるでギロチンで切り落としたかのようにきれいに切れていたのだ。

[同日22:15.天候:雪 ペンション1Fロビー]

 大森:「えっ!?あの3人が!?」
 篠原:「はい……」
 勇太:「実に残念なことですが、本田さんも渋谷さんも殺されてしまいました。悪霊に取り憑かれた島村さんが、何らかの方法で殺害したものと思われます」
 マリア:「この分ですと、最初に殺された鈴木という男性客も、島村氏に憑依した悪霊のしわざであると考えられます
 元木:「そうか……。あのコに取り憑いてしまったのか……。かわいそうに」
 宗一郎:「大森君、電話は相変わらず通じないのか?」
 大森:「はい……」
 勇太:「僕のスマホも相変わらずダメだ。マリアさん、何とかイリーナ先生と連絡が取れませんか?」

 勇太は日本語で言った後、ハッとしてすぐに英語で言い直した。

 マリア:「さっきからやってるんだけど、全く水晶球もダメになってる。それほどまでに、強い悪霊が潜んでいたらしい。油断してしまった
 篠原:「さっきから、魔法使いみたいなことをされてますね」
 宗一郎:「何しろ、世界一当たるという有名な占い師のお弟子さん達だ。もはや、魔法の領域と言ってもおかしくはないだろうね」
 マリア:(世界一有名な占い師というのは、単なる師匠の表の顔に過ぎないのだが……)
 小久保:「さっきから魔法だの幽霊だの、よく分かんねぇっスよ。もし本当なら、その魔法とやらで電話を繫げてみてくださいよ」

 小久保は呆れたように肩を竦めると席を立った。
 ……ように見えた。
 ソファから立ち上がったと思ったその後には、小久保は宙に浮いた。
 ……正確には宙に浮いたというよりは……。

 小久保:「ぐぐぐぐ……!」
 勇太:「!!!」
 マリア:「キサマ!!」

 小久保の首には、いつの間にか黒いロープのようなものが巻かれていた。
 実際にはそれは黒いロープではなく……。

 大森:「ま、真理愛!?何をしてるんだ!?」

 島村真理愛の黒い髪の毛だった。
 それが自由に伸び縮みできるのか、今は伸ばして小久保の首に絡みつき、吊るし上げているのだった。

 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!……破ッ!!」

 マリアは魔法の杖を振るい、まるで剣で切り裂くかのように髪の毛を切り落とした。

 小久保:「わあーっ!」

 吹き抜け2階近くまで吊るし上げられていた小久保は、そこから真っ逆さま。
 幸いソファの上に落ちたものの、バウンドしてテーブルの上に仰向けに乗っかった。
 テーブルの上のコーヒーカップやらティーカップなどがメチャクチャに割れる音が響いた。

 宗一郎:「キミ!大丈夫かい!?」
 勇太:「父さん、逃げて!」

 だが、真っ先に逃げたのは大森だった。
 靴も履かずに、施錠された玄関から逃げようとしている。
 しかしドアが開かない。

 悪霊はそんな大森を見逃さなかった。

 大森:「うわっ!?」

 黒い髪を触手のように伸ばしてきて、大森の首に巻き付いた。
 そして、そのままズルズルと談話コーナーに引き戻す。

 悪霊:「何故殺シタ……?」

 まるで地の底から聞こえてくるかのような声だ。

 大森:「し、仕方が無かったんだ!俺は親父に頼まれて手切れ金を持って行っただけなんだ!あの時、お前達が騒ぎ立てなければあんなことには……!」
 元木:「あんたが犯人だったのか!」

 元木は確信したかのように言った。

 悪霊:「コイツダケハ許サナイ……!依リ代ニナル人間ヲ探シテイタ……。今ガ復讐ノ時……!」
 大森:「許してくれ……!」
 元木:「やめるんだ、姉さん!こんなことしても、死んだ義兄さんは喜ばないぞ!」
 宗一郎:「あなたは、さっきの話の弟さんだったのか。それで、事情を知っていたんだな」
 元木:「そうです!姉さん、お願いだからやめてくれ!」
 悪霊:「ヤメナイ……!」
 マリア:「パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ。悪霊よ、極楽浄土の夢を見よ。厄払いの……」
 悪魔:「邪魔ハサセナイ!!」
 大森:「わああああっ!助けてくれーっ!」

 悪霊に憑依された島村は、髪の毛で大森を吊るし上げたまま天窓を突き破り、そのまま外へ飛び出した。

 勇太:「オーナーが連れて行かれちゃったよ!」
 マリア:「くそっ!悪霊の好きにはさせんぞ!個人的には放っておきたいけど!」

 今度は玄関のドアが開いた。

 宗一郎:「お、おい、キミ達!外は危険だぞ!」
 佳子:「あなた、電話が通じるわ!」
 宗一郎:「なにっ!?」

 恐らく、悪霊がペンションの外に飛び出したからだろう。
 佳子がスマホを手にしていた。

 宗一郎:「すぐに警察に電話するんだ!」

 宗一郎はあえてスマホではなく、フロントの固定電話から110番通報した。

 篠原:「あと、救急車もお願いします。小久保君が……」

 小久保は割れたカップの破片が体のあちこちに刺さったり切れたりして、体中から出血していた。
 幸い、客室の被害者達のように致命傷を負うほどのケガではないようだが……。
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“大魔道師の弟子” 「島村の生い立ち」

2017-01-17 21:00:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日21:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”2F209号室]

 勇太とアルバイトスタッフの小久保が、209号室にいる女子大生3人組を呼びに行くことになった。

 勇太:「部屋の中にいるより、皆と一緒にいた方がいいですもんね」
 小久保:「そうっスよ」

 停電は復旧して、ペンション内には暖かい光が灯っているものの、相変わらず霊気は強いままだ。
 そして、スマホの電波も一切入らない。

 小久保:「じゃ、ノックしてみますよ」
 勇太:「お願いします」

 小久保は部屋のドアをノックした。
 だが、応答が無い。
 もう1度ノックする。

 小久保:「サーセン!スタッフの者なんスけど、ちょっといいっスか?」

 しかし、応答は無かった。

 小久保:「……稲生さん、マジで何かヤバそうなんスけど……」
 勇太:「そ、そんな……。鍵は?」

 小久保がドアノブを回してみると、鍵が掛かっていた。

 小久保:「閉まってるっス」
 勇太:「マスターキーは?」
 小久保:「マジ、開けるんスか?」
 勇太:「いや、ほんとこれ、冗談抜きでアレかもよ?」
 小久保:「げっ!」
 勇太:「とにかく、オーナーを呼んできて。マスターキーを持ってるのは、オーナーだけでしょ?」
 小久保:「う、うっス!」

 小久保は急いで1Fに向かった。

 勇太:「……!」

 1人残された勇太、ダメ押しでもう1度部屋をノックする。
 すると意外にも、ガチャリとドアが開いた。

 島村:「何ですかぁ?」

 島村の髪や体からは湯気がホコホコと上がっていた。
 着ている服も、タンクトップとショートパンツだけだ。

 勇太:「な、何って、島村さんこそ何をしてたの?」
 島村:「何って……シャワー浴びてたんだけど?」

 この部屋にはシャワールームが付いていた。
 3人部屋にすることができるだけに、部屋も他と比べて若干広い。

 勇太:「あ、あの……オーナーさんが、下に全員集まってくれって。鈴木さんって、あのスーツの人が殺されたからさ。警察が来るまでの間だけでもってことで」
 島村:「殺された……?」
 勇太:「そうなんだ。……本田さんと渋谷さんは?」
 島村:「私と入れ替わりでシャワーに入ってるのと、トイレに行ってるよ」
 勇太:「そうか。とにかく、無事で良かった。犯人がどこの誰でどこにいるか分からなくて危険だから、皆一緒にいようってことになったんだ。早く来てよ」
 島村:「うん、分かった。着替えたら行くから」

 島村はドアを閉めた。
 と、そこへ小久保と大森がやってくる。

 小久保:「稲生さん、どうでしたか?」
 勇太:「あっ、島村さんが出てきてくれましたよ。今ちょうどシャワーを使っていたところだそうで、着替えたら行くそうです」
 大森:「何だ、そうでしたか。小久保君、慌てるなよ」
 小久保:「さ、サーセン!」

 再び1階へ向かう3人。
 階段を下りると、マリアが何だか元木を問い詰めていた。

 マリア:「いい加減、おトボケは無しにしてちょうだい。あなた、何か知ってるんでしょう?
 宗一郎:「何か知ってる情報があったら、遠慮無く教えて欲しいそうだ」
 元木:「そうかい?でも、聞いている人が聞いたら、不快に思うかもしれないよ?それでもいいのかい?」
 宗一郎:「面白い話なら聞こうじゃありませんか」
 元木:「それでは……」

 元木が話したのは、この辺りの山を所有していた地主一家に纏わる哀しい話。
 オーナーである大森次郎は相続者の1人であるが、彼がこの山を相続する前までは、ここにはペンションなど建っていなかった。
 建っていたのは、たった1軒の炭焼き小屋。

 元木:「オーナー、島村真理愛さんの両親はとっくにお亡くなりですね?」
 大森:「なっ……!?何故それを!?」

 山の所有者は長男とその婚約者との結婚に反対だったというが、長男達は結婚を強行した。
 その妻が臨月になった時、悲劇が起きた。

 元木:「当時の新聞にも載ったんだけど、夫婦が惨殺死体で発見されたんだ。小屋の中は血だらけでね。ちょうどこのペンションの201号室のように」
 勇太:「そんな……!」
 元木:「幸い殺された妻のお腹にいた赤子は無事に取り出されてね、子供のいない遠い親戚の島村家に引き取られ、真理愛と名付けられたそうだ。彼女は知っているのかどうだか分からないけども、オーナーを頼りになる親戚の叔父さんと慕って、あの現場に戻って来たのは何と言う運命の……」
 大森:「もうやめてくれ!一体、何だって言うんだ!?三流紙の取材か何かか!?人をバカにするのもいい加減にしてくれ!」
 元木:「僕は新聞記者じゃありませんよ。あくまでも、フリーのカメラマン兼ライターです。確かにここには、取材で来ました。でも、僕が話した内容は全て事実ですよ。さっきも言ったように、当時の新聞にも載ってます。その内容をそのまま話しただけで……」
 大森:「もういい!出て行ってくれ!」
 元木:「出て行けと言われても、こんな吹雪では出て行こうにも出て行けませんよ。それに、どうしてオーナーは今の話だけで、そんなに怒るんですか?別に、島村さん本人の前で話をしたわけではありませんよ?」
 マリア:「つまり、こういうこと?このペンションに現れる幽霊の正体は、その両親であると?
 勇太:「このペンションに現れる幽霊というのは、その両親のことですか?……だそうです」
 元木:「そう、その通り。だが、どうも調べてみると女の幽霊しかいないみたいなんだ。つまり、真理愛の母親の方だろうね」
 勇太:「じゃ、次に危険なのは……!?」
 マリア:「島村真理愛……だね
 小久保:「も、もう1度呼びに行きましょう!」
 勇太:「そう言えば、着替えてくるにしても遅いなぁ……」
 マリア:「今度ハ私ガ行ク」
 勇太:「マリアさん」

 マリアは魔法の杖と水晶球を手にした。
 水晶球は赤い光を鈍く点滅させていた。
 悪霊に対しての危険度が『要警戒』ということだ。

 篠原:「何か、占い師さんというより、魔法使いみたいな感じですね」
 勇太:「そ、そうですね」
 マリア:(魔法使いだっつーの)

 今度は女性スタッフの篠原について、勇太とマリアが行くことになった。
コメント (3)
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“大魔道師の弟子” 「最初の犠牲者」

2017-01-16 19:23:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日20:15.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”2F 客室フロア]

 勇太は部屋に戻ると、部屋のカーテンを閉めた。
 幸い、窓の外から幽霊が覗き込んでくるようなことは無かった。
 準備と言っても、勇太の場合はいつもの服の上からローブを着込んで、魔法の杖を用意すれば良い。
 杖は普段は収縮しており、腰のベルトに吊るせるようになっている。

 勇太:「よし。これでいいな」

 勇太が洗面台の鏡で身だしなみを確認していると、部屋が急に明るくなった。
 そう、停電が復旧したのだ。

 勇太:「何だ。大したことは無かったんだ……」

 勇太が安堵の独り言を呟いている時だった。

 ガッシャーン!

 勇太:「!?」

 どこからか、ガラスの割れる音が聞こえて来た。
 少なくとも、この部屋ではない。
 ということは……?
 勇太は魔法の杖を持って、部屋の外に飛び出した。

 宗一郎:「一体、何事だね!?せっかく、停電が復旧したというのに……!」

 近くの部屋のドアから顔を出す宗一郎。

 元木:「この部屋から聞こえたよ!」

 元木も部屋から飛び出してきた。
 元木が指さした部屋にいるのは……。

 勇太:「あのスーツの人か!」

 階段の下から大森が駆け登って来た。

 大森:「何かありましたか!?」
 元木:「この部屋からガラスの割れる音がしたんですよ!」

 大森はその部屋のドアをノックした。

 大森:「鈴木様!鈴木様!何かありましたか!?」

 しかし、中からは何の応答も無い。

 大森:「鈴木様!?」
 元木:「オーナー、マスターキーは?それで開けてみましょう!」
 大森:「しかし……」
 宗一郎:「少なくとも、この部屋の窓ガラスが割れたんだとしたら異常じゃないか」
 元木:「オーナー、稲生専務の仰る通りです。開けてみましょ……」

 元木が言い終わろうとした時だった。
 中から男の叫び声がしたのだ。
 それは、断末魔のようにも聞こえた。
 女子大生の本田と渋谷は、びっくりして2人して抱き合ったくらいだ。

 マリア:「凄い霊気だ!」

 マリアが水晶球を片手に部屋の前に立ち尽くした。
 水晶球が赤い光を鈍く点滅させている。

 小久保:「オーナー、マスターキーっス!」
 大森:「早く開けろ!」
 小久保:「はいっス!」

 小久保は急いで鈴木の部屋を開錠した。

 マリア:「待ッテクダサーイ!マダ中ニ悪霊ガイルカモシレナイデス!」
 大森:「バカなこと言わないでください!」

 大森は急いで鈴木の部屋のドアを開けた。

 大森:「失礼します!鈴木様!大丈夫ですか!?」

 ドアを開けると、一陣の風が廊下を吹き抜けて行った。
 確かに、鈴木の部屋の窓ガラスが割れていた。
 そこから吹き込む吹雪がとても寒い。
 加えて、この部屋の装飾はとてもおかしかった。
 まるで赤いペンキをぶちまけたように……って、それは装飾ではない。

 勇太:「血だ……!」
 マリア:「!!!」

 201号室は凄惨なことになっていた。
 室内のあっちこっちに鈴木のバラバラ死体が散乱していた。

 大森:「こ、小久保君!警察だ!警察を呼べ!お、お客様が殺されたと……!」
 小久保:「は、はいっ!」
 大森:「早くここから出てください!この部屋は立入禁止にします!」
 マリア:「……!!」

 マリアはグラッと目まいのようなものを起こすと、水晶球を落としてしまった。
 ゴンッと床から鈍い音がする。
 水晶球はもう赤い光は放っていないものの、今度は黄色い光を点滅させていた。
 これは『注意』を意味する。
 さっきの赤い光が『要警戒』だから、少し幽霊は離れたのか。

 勇太:「大丈夫ですか、マリアさん?」
 マリア:「久しぶりにグロテスクなもの見た……。勇太は平気なのか?」
 勇太:「グロテスク過ぎて、却って麻痺したのかもしれません。火サスですら、全身死体は出てきても、バラバラ死体は出てきませんから」

 部屋の外に出た。

 大森:「皆さん、停電が復旧したのにあいにくですが、警察が来るまで1階ロビーで待っていて頂けませんか?」
 宗一郎:「うむ。その方がいいだろう」

 宗一郎は大きく頷いた。

 マリア:「私がただの人間だった頃、行った復讐劇で……首を刎ねられたヤツがいて、それを見た以来かな……ふふふ……」
 勇太:「マリアさん……。あれ?島村さんは?」
 本田:「しまむーなら、さっきトイレに行ってたけど……」
 渋谷:「ちょっと様子見て来るか」

 本田と渋谷は1度自分の部屋に戻り、残りの宿泊客は1階ロビーに向かった。

 小久保:「オーナー、大変っス!」
 大森:「何だ?」
 小久保:「電話が通じないんス!」
 大森:「ウソだろ?」
 小久保:「マジっスよ!」

 大森はフロントの上にある固定電話を取った。

 大森:「う、本当だ……」
 小久保:「でしょ?でしょ?」
 元木:「停電は復旧したのに、おかしいですね」

 電話線の先を見ると、それは繋がっていた。

 勇太:「あれ!?僕のスマホも電波が入らない!」
 宗一郎:「私のもだ!一体どうなってる!?」

 マリアの水晶球が再び赤く光る。
 電話の方に向けると、尚一層強く光った。

 マリア:「ちょっと貸して!
 小久保:「あっ……!」

 マリアは小久保から電話の受話器を奪い取った。
 それを耳に当てる。

 マリア:「悪霊め!フザけるなよ!一体、何が目的だ!?

 マリアは英語で電話線の向こうに問い詰めた。
 しかし、何の応答も無い。

 マリア:「私はダンテ門流イリーナ組のロー・マスター、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ!悪霊め、そこにいるのは分かってる!いい加減に応答しろ!

 すると電話の向こうから、何か声が聞こえて来た。

 ???:「マリア……!」
 マリア:「お前は誰だ?ペンションの宿泊客を殺して、何が目的だ?答えないと滅するが良いか?
 ???:「違う……!」
 マリア:「違う?何が違う?答えろ
 ???:「お前は……マリアじゃない……。私の……マリア……」

 これ以上の話は不可能と分かったマリアは電話の受話器を切った。

 大森:「マリア……さん?何かありましたか?」
 マリア:「オーナー、このペンションに『マリア』に纏わるものは無いですか?
 大森:「えっと……?」
 勇太:「ああ、僕が訳します!このペンションに、『マリア』と名の付くものは無いですか?だそうです」
 大森:「いや、特に無いですね。私達夫婦も小久保君も篠原さんも、別にクリスチャンってわけではないですし……」
 勇太:「マリアさん、島村さんのことじゃないですか?島村さんの下の名前、真理愛ですよ?」
 元木:「あれ?そういえばあのコ達、下りて来ないな?どうしたんだろう?」

 大森は電話の受話器を取った。
 外線は相変わらずダメだが、内線なら通じる。
 だが……。

 大森:「おかしいな?呼び出し音は鳴っているのに、誰も出ないぞ?」
 小久保:「ま、まさか、鈴木さんを殺したヤツに……?」
 大森:「バカなことを言うんじゃない!きっとまたテレビに夢中になっているんだろう。或いは、部屋に籠もることが安全だと思っているのか……。とにかく、ここに来てもらうんだ。小久保君」
 小久保:「お、俺っスか?」
 勇太:「僕も一緒に行きましょうか?」
 小久保:「よ、よろしくっス!」
 篠原:「度胸無いなぁ……」

 篠原は宿泊客にコーヒーを入れながら言った。
 この時はまだ、例え凄惨で不可解とはいえ、何だか得体の知れない怪しい男が殺されたというだけで、どこか他人事でいられたのかもしれない。
 小久保と勇太が階段を上って、209号室に向かう。

 宗一郎:「ダメだ。ネット回線に繋いでも、メールとかが送れなくなっている。これでは警察に通報できないぞ!」
 マリア:(ここまでの徹底ぶり……。私達が外部と連絡を取れなくなるようにしている。これは一体、何を意味してる?)

 相変わらず、水晶球は黄色い光と赤い光を繰り返していた。
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“大魔道師の弟子” 「停電」

2017-01-16 10:06:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日19:45.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”1F・ロビー]

 突然ペンション内に襲って来た闇。
 それは停電に他ならなかった。

 宗一郎:「な、何事だね、これは!?」
 佳子:「あなた!」
 大森:「皆さん、落ち着いてください。今、懐中電灯を持って来ます。この場から動かないでください」

 大森が手探りの状態で奥へ向かった。

 マリア:「勇太、油断しないでよ?闇に乗じて襲って来る恐れがあるから!
 勇太:「分かってます!
 宗一郎:「何の話だね?」

 魔道師2人が臨戦態勢に入ろうとしているのを、宗一郎は見とがめるように言った。
 しかし、光は階段の上からやってくる。

 島村:「ちょっとォ!何があったの!?」
 本田:「マジ、停電って……最悪なんスけど」
 渋谷:「取りあえず、1階に避難しよう」

 客室でテレビの年末特番を観ていた女子大生3人組だった。
 1つの懐中電灯の明かりを頼りに、階段を下りてくる。
 どうやら客室内に、停電用の懐中電灯が備え付けられているらしい。

 小久保:「お待たせしましたーっ!」

 小久保が懐中電灯を持ってきた。
 だがどういうわけだか、懐中電灯を顎の下から照らしてホラーを演出している。
 階段を下り切った女子大生達は、それにびっくりしてキャーキャー叫び声を上げた。

 篠原:「っ!懐中電灯を下から照らすな!!」

 篠原は持っていたマグライトで小久保の頭をボコッとやる。

 小久保:「いてっ!?……き、緊張をほぐしてあげるサービスのつもりだったんスけど……」
 渋谷:「いや、笑えないから」
 大森:「小久保君、いいから早く石油ストーブ持って来て!」
 小久保:「あ、はい!」

 入れ替わりに大森が戻ってくる。
 手には大きめのランタンを手にしていた。
 電池式ではなく、本格的な石油燃料のランタンである。

 大森:「せっかくお寛ぎのところ、皆さん申し訳ありません。実はこの停電は毎冬に1回くらい、猛吹雪の時に発生する事故なんですよ。大抵はものの数分で復旧するんですが、数年に1度は電線や電柱自体がやられてしまって、長時間の停電になることもあります。今回の停電がどんなものなのかは分かりませんが、長時間に及ぶ恐れがありますので、そうなってしまった場合、早めにお休み頂いた方がいいかもしれません」
 島村:「えーっ!?テレビいい所だったのにぃ!」
 渋谷:「この停電じゃ、しょうがないって」
 本田:「そうだよ。それなら、ワンセグで観ればいいじゃん。こんなこともあろうかと、タブレット持って来たよ」
 島村:「おお〜、さすが倫ちゃん!」
 小久保:「いや、多分ムリっスよ。ここ、電波入らないんで」

 小久保が石油ストーブを持って来ながら言った。

 渋谷:「は!?」
 小久保:「だからここ、専用のアンテナ付けて、Wi-Fiも入れてるんスけど、どれも停電じゃ使えないっスし……」
 勇太:「本当だ!電波が入らない!」

 勇太は自分のスマホを見て愕然とした。

 本田:「マジ、ツいてねぇ……」
 大森:「一応、お部屋用の照明として、小型のランタンをお配りします」

 それは電池式のものだった。

 宗一郎:「うーむ……。これでは確かに、さっさと寝てしまった方がいいかもしれないねぇ……」

 宗一郎は腕組みをして残念そうに言った。

 大森:「せっかくお寛ぎのところ、申し訳ありません。早ければ、こうしてお話ししている間にも復旧してしまうんですが、どうやら今回は長引くパターンのようです」

 マリアだけは周囲を警戒している。
 あの幽霊が、この闇をチャンスにしないわけがない。

 渋谷:「しょうがない。これも1つの思い出だと思って、さっさと寝ようか。実は少し疲れちゃったし……」
 本田:「麻央っちはお気楽だねぇ……」
 渋谷:「いや、気楽とかそんなんじゃないから。他にすること無いからって話」
 篠原:「そういえば、鈴木さんは大丈夫なんですか?」
 宗一郎:「鈴木さん?」
 大森:「あのスーツの男性のお客様ですよ。きっと、もうお休みになられているんでしょう。フロントで対応した時も、何だかお疲れの様子でしたし」
 宗一郎:「ふーむ……。あれ?それと、元木さんってやらはどこだ?さっきから姿が見えないが……?」
 勇太:「あれ?」

 すると、正面玄関からゴォーッという風が吹き込んで来た。
 その風に乗るようにして、元木が入って来た。

 大森:「元木さん!?」
 元木:「いやあ、凄い吹雪です。実は停電の原因を探りに行ったんですが、このペンションのブレーカーも異常は無いし、外側の電線が切れているような感じもしませんでした。こりゃ、変電所辺りから既に原因があるんじゃないですかね」
 勇太:「すると停電しているのは、このペンションだけじゃないってこと……?」
 元木:「そういうことになるね。このペンションに続く一本道も、街灯が全く点いてないし、ということは……」
 大森:「元木さん、そういうムチャはやめてください。今、外に一歩でも出たらすぐ凍死するようなレベルなんですよ?当ペンションでお客様が事故に遭われたら大変なんですから」
 元木:「すいません。性分なもので」
 マリア:(魔界に行ったら、結構稼げるトレジャーハンターになれそうだな、この男は……)

 マリアは呆れ顔だった。

 マリア:(……にしても、幽霊は何を企んでいる?相変わらず霊気は強いままだし、しかし今襲って来る気配は無い。あの強さなら、このペンションを停電させることも可能だろう。いや、実際に停電させた可能性が高い)

 元木:「体が冷えちゃったから、温泉入ってこようかな。源泉かけ流しだから入れますよね?」
 大森:「暗くて危険なので許可しかねます!今、温かいお飲み物を持ってきますから」
 勇太:「ガスは無事なんですか?」
 小久保:「ここ、プロパンガスっスからね。電気は基本関係無いっスよ。それに、それもダメになった場合に備えて、卓上コンロもあるんで」
 勇太:「へえ……」
 篠原:「街から遠く離れてますからね、食料なんかも十分に備えてあるんですよ。ですから雪に閉ざされたりしたとしても、復旧するまで落ち着いて待つことができんです」
 宗一郎:「それなら安心だな」

 マリアが勇太に耳打ちする。

 マリア:「今のところは何も無いが、でも絶対に何かが起こる。1度部屋に戻って、準備しようと思う」
 勇太:「分かりました。……父さん、僕達、部屋に戻るから」
 宗一郎:「その方がいいな。よし、私達も戻ろう」
 大森:「申し訳ありません。お部屋にあるセラミックヒーターは充電式でして、今フル充電してありますので、翌朝まで使えます」
 宗一郎:「それまでに、復電してくれるといいがな」
 大森:「もし寒いようでしたら、このロビーは一晩中ストーブを焚いておきますし、食堂にある暖炉も使おうと思いますので」
 宗一郎:「了解だ」

 ロビーにいた宿泊客は、ぞろぞろと階段を上って行った。
 手には各部屋用の電池式ランタンを持って。

 元木:「幽霊さん、襲って来なかったねぇ……」
 勇太:「えっ!?」
 元木:「本当はロビーに全員で集まっていた方がいいと思うんだけど、話の流れからしてしょうがないかな」
 勇太:「そ、そうですねぇ……」
 マリア:(この男、何かを知っている……?)
 元木:「それじゃ、気をつけて」

 元木はそう言って、自分の部屋に入った。

 勇太:「僕達はどうします?」
 マリア:「準備ができたら、ロビーで待機しておいた方がいいかもしれないな」
 勇太:「分かりました。着替えたら、すぐに行きます」

 勇太達はそれぞれ自分の部屋に入って行った。
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“大魔道師の弟子” 「遅れて来た客、元木」

2017-01-15 20:59:45 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日19:15.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”1Fロビー]

 マリアが窓の外を見ると、2つの光がこちらに向かっていた。
 幽霊騒ぎの最中なので、マリアはまたそれが窓から覗き込んでいたのかと思ってしまったが、何のことは無い。
 それは車のヘッドライドだった。
 吹雪でライトの光が拡散されていた為、錯覚をしてしまったのだろう。

 大森:「多分あれが元木さんだろう」
 宗一郎:「よく辿りつけたねぇ……」

 車は四駆のRV車のようだったが、そんな車でも、こんな猛吹雪の中を来るのは大変だっただろう。
 車が止まった所からエントランスまでは目と鼻の先のはずだが、それでも入って来た男の頭や肩には雪が降り積もっていた。
 風除室でパッパッと雪を払う姿が見えた。
 そして、ようやく入って来る。

 大森:「いらっしゃいませ。元木様でいらっしゃいますか?」
 元木:「はい、元木です。遅くなりました」

 元木は40歳前後の大柄な男で、黒い髭を生やしていた。
 手にはカメラバッグを持っている。

 大森:「大変でしたねぇ」 
 元木:「いやぁ、雪には強い方なんですが、さすがにいきなり強く降って来た時にはびっくりしましたよ。こんな時に限ってチェーンは切れてしまうし、楽しい冒険でした」

 カラカラと笑う元木。
 トレジャーハンター的な仕事でもしているのだろうか。

 大森:「すぐに食事になさいますか?」
 元木:「あー、いや、途中で色々食べて来ちゃったんで、お腹は空いてません。何か、温かい飲み物があると助かります」
 大森:「コーヒーと紅茶、どちらになさいますか?あと、スープもできますが……」
 元木:「それじゃ、コーヒーをください。何だか今日は、長い夜になりそうなので」

 元木の意味深な発言を聞いた勇太達は首を傾げた。
 チェックインの手続きを済ませた元木はルームキーを受け取ると、大きなカメラバッグを抱えて階段を上って行った。

 勇太:「気さくそうな人ではあるけど、何か少し変わってるね」
 大森:「お仕事はカメラマンらしい。きっと、風景写真でも撮りに来られたのでしょう」

 長い夜になりそうという言葉が引っ掛かった勇太とマリアだったが……。
 すぐに元木は、部屋から出て来て降りて来た。

 元木:「209号室は若い女性達の部屋ですか?何だか賑やかですよ」
 勇太:「まさか、叫び声!?」
 元木:「叫び声?笑い声だったけど……。多分、“笑ってはいけない”でも見てるんじゃないかな?」
 勇太:「なるほど……」
 元木:「ここは紅白のコーナーですか?」
 宗一郎:「ああ。もし観たい番組があればどうぞ」
 元木:「ああ、いえいえ。僕は何でもいいです。それより、どこかでお見かけしたことがあるなと思ったんですが、もしかして、大日本ゼネラルの稲生専務さんじゃありませんか?」
 宗一郎:「いかにもそうですが、どこでお会いしましたか?」
 元木:「さる経済紙の雑誌記者と一緒に、カメラマンとして付いて行ったんですが、社長とのインタビューの時に役員室エリアの廊下でお見かけしましたよ」
 宗一郎:「おお、あの時か。世間は狭いですなぁ」
 元木:「今日はどうしてこのペンションに?」
 宗一郎:「大森オーナーは元常務でね、ここに招待されたので、それに預かったわけですよ。ちょうど家族旅行も兼ねてね」
 元木:「そうですか。それではこちらが奥様と御子息ですね。……ん?そちらは?」

 元木はマリアを見た。
 まだ、勇太以外の男性に嫌悪感のあるマリアは警戒心を露わにした。

 宗一郎:「ああ、息子の就職先の先輩なんですが……」
 元木:「なるほど。あ、申し遅れました。僕はフリーのカメラマンとライターの真似事をしている元木洋介と申します」

 元木が出した名刺にはシンプルに、肩書きはフリーカメラマン兼フリーライターとしか書かれていなかった。

 勇太:「それで、このペンションにはどうして来たんですか?風景写真でも撮りに?」
 元木:「それもいいんだけど、実はこのペンションに纏わる、とある噂を聞いたものでね。その取材さ」
 勇太:「とある噂?」
 元木:「そう」

 元木は大きく頷くと、ズイッと勇太とマリアの所に身を乗り出した。
 マリアは慌てて勇太の後ろに隠れる。

 勇太:「あっ、すいません。マリアさん、僕以外の男性が苦手で……」
 元木:「あっ、そうだったのか。これは申し訳無い。……それで、キミ達は何かこのペンションに関する噂を見たり聞いたりしたことはないかな?」
 勇太:「噂?どんな噂ですか?」
 元木:「このペンションには、あるモノが出るって噂さ」
 マリア:「!?」
 勇太:「えっと……それは……」
 元木:「おっ、その反応は知ってるってことだね?どこまで知ってるかな?」
 勇太:「どこまでって、その……」
 大森:「元木様、困りますね。他のお客様の御迷惑になるようなことは……」

 大森はコーヒー片手に、顔をしかめて言った。

 元木:「あ、いや、そんなつもりは……。あ、実は僕、こういう仕事をしてまして……」

 元木は勇太達に渡した名刺を大森にも渡す。

 元木:「オーナーは御存知ですよね?ちょっとしたSNSにはもう話題になってるんですよ?」
 大森:「そんなことは知りません。とにかく、他のお客様のご迷惑になるようなことはやめて頂きたいですね」
 元木:「分かりました。気を付けましょう」

 元木は肩を竦めた。
 そして、出されたコーヒーに口を着ける。

 元木:「そこのお嬢さんは、マリアさんというお名前なんですか?」
 勇太:「ええ、そうですよ。本名はマリアンナ・スカーレットさんと言います」

 あえてミドルネームであるデビルネームは除いておく。

 元木:「愛称がマリアさんか。なるほどなるほど。それじゃ、今夜は余計に出るかもしれないな」
 勇太:「幽霊が……ですか?」
 元木:「そう。やっぱり知ってるんだね?」
 勇太:「僕の部屋で一回、それらしいのを見たんですよ。直接見たのはマリアさんですけどね」
 マリア:「私の名前がマリアだとして、それと幽霊と何の関係があるの?

 マリアは英語で言った。
 もちろん、勇太越しにである。
 マリア自身、イギリスでは自分に対する数々の暴行や嫌がらせの加害者達に対し、彼らが化けて出てきてもおかしくないほどの凄惨な復讐劇を展開した。
 それが日本まで追ってきたとでもいうのか。

 元木:「えーっと……ゴメン。僕、英語はあまり良く分からなくて……」

 勇太がマリアの英語を日本語に訳した。

 元木:「それがあるんだよ。もちろん、キミは外国人だから本来関係無いんだけど、幽霊さん的にはどう思うだろうね」

 勇太が今度は元木の日本語を英語に訳す。
 実はそんなことしなくても、自動翻訳魔法でマリアの耳には自動的に英語に訳されて入ってきているのだが、何もしないと不自然だったからだ。

 マリア:「だから、どういうことだって聞いてるの!
 元木:「それは……」

 マリアの英語が勇太によって日本語に訳される。
 それに対し、元木が日本語で答えようとした時だった。

 勇太:「な、何だ!?」

 勇太の周囲が突然闇に覆われた。

 宗一郎:「何事だ!?」

 どうやら、闇に覆われたのは勇太だけではないらしい。
 一体、何が起きたというのか?
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