報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「杜の都の東方へ」

2017-01-23 21:24:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日10:15.天候:晴 地下鉄仙台駅東西線ホーム]

 少し遅めにホテルをチェックアウトした稲生家とマリアは、荷物を持って地下鉄のホームに向かった。

 宗一郎:「しまったな。この荷物、コインロッカーに預けて来るんだったな」
 勇太:「それもそうだね。しょうがないから、荒井駅のコインロッカーに預けたら?」
 宗一郎:「それしか無いか」

 路線自体は新しい為、エスカレーターやエレベーターが完備されている。
 だからキャリーバッグを引いて歩いていても、階段に差し掛かって持ち上げなくてはならないということはない。

〔3番線に、荒井行き電車が到着します。……〕

 アルカディア・メトロ(魔界高速電鉄)の地下鉄とは明らかに明るいホームで電車を待っていると、接近放送が聞こえてきた。
 地下鉄ならではの轟音と強風を引き連れて入線してくるが、4両編成しか無い小さなものだ。

〔せんだい、仙台。南北線、JR線、仙台空港アクセス線はお乗り換えです〕

 ターミナル駅ということもあってか、この駅での乗り降りは多い。

 
(仙台市地下鉄東西線の車内。JR在来線の規格より明らかに小型サイズ。荒井駅で撮影)

 勇太達は先頭車に乗り込んだ。
 空いている座席に両親が座り、ユウタとマリアは車椅子スペースの所に立った。

〔3番線から、荒井行き電車が発車します。ドアが閉まります〕

 短い発車メロディがホームに響き渡る。

〔ドアが閉まります。ご注意ください〕

 2打点チャイムが4回響くと、乗降ドアが閉まる。
 ホームドアが付いている為、ワンマン運転でも一呼吸のブランクがあってから走り出す。

〔次は宮城野通、宮城野通。ユアテック本社前です〕
〔The next station is Miyagino-dori.〕
〔今日も仙台市地下鉄をご利用頂き、ありがとうございます。……〕

 勇太:「前にもイリーナ先生と行ったことのある場所で、目新しい所ではないんですけど……」
 マリア:「いや、いいよ。屋敷から出る機会があるだけでも、素晴らしいことだと思う」
 勇太:「そうですか」
 マリア:「そうだよ」

 マリアは窓の下に付いている手すりに寄り掛からながら、窓の外を見た。
 トンネルの中なので、当然ながら定期的に通過する蛍光灯の明かりしか見えない。
 窓ガラスには、マリアと勇太の姿が映るだけである。

 マリア:「多くの魔女は、人間時代のトラウマから、引きこもりになることが多いんだよ」
 勇太:「そうなんですか?」
 マリア:「分からないか?私を屋敷という穴蔵から連れ出してくれたのは、あなただよ」
 勇太:「えっ?」
 マリア:「ありがとう」
 勇太:「えっ?いや、うん……」

[同日10:30.天候:晴 地下鉄荒井駅]

 東西線の西側は川を渡る時に地上に出るのに対し、東側は出入庫線以外は地上に出ることが無い。

〔まもなく荒井、荒井、大成ハウジング本店前、終点です。お出口は、右側です。……〕
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、荒井に到着です。この電車は荒井駅到着後、回送電車となります。お近くのドアからお降りください」〕

 電車がゆっくりとホームに入る。
 因みにこの時点では、車内は閑散としていた。
 ドアが開くと、勇太達は電車を降りた。
 近くのエスカレーターで地上に上がる。
 地下駅と言っても、市街地の駅のように地下深くにあるわけではない。
 エスカレーターの1つでも上がれば、すぐ地上に出て改札口があるくらいである。

 

 宗一郎:「コインロッカーはどこだ?」
 勇太:「あっちあっち」

 改札口を出て、更に駅舎内の東に向かうとコインロッカーがあった。

 宗一郎:「ここか。最低限の物だけ持って、あとはこの中に入れておこう」
 佳子:「そうね」

 マリアのスーツケースからは、ミクとハクが出て来た。

 勇太:「ついてくる気か……」
 マリア:「まあ、私のファミリア(使い魔)だから……」

 多くはベタな法則で黒猫やカラスだが、他には黒い犬や、機械人形(ゴーレム)またはマリアのような手作り人形もいる。
 ミクとハクは、マリアのハンドバッグの中に入った。

 勇太:(明らかにバッグのサイズと人形のサイズが合わず、シュールレアリスムみたいな感じで入ったような……?)

 勇太が首を傾げていると、セカンドバッグだけ持った宗一郎が自分の荷物をコインロッカーの中にしまった。

 宗一郎:「よーし、これでいい。あとはバスに乗るだけだな。バスはどこだ?勇太は前に乗ったことがあるんだろう?」
 勇太:「まあね。あっちだよ」

 勇太達は駅の外にあるバスプールに向かった。

[同日10:45.天候:曇 仙台市営バス15系統車内]

 閑散とした大型のワンステップバスに乗り込んだ。
 1番後ろの席に座る。
 バスは定刻通りに発車した。

〔毎度、市営バスをご利用頂きまして、ありがとうございます。このバスは15系統、宮城運輸支局前先回り、鶴巻循環です。次は荒井矢取、荒井矢取でございます。……〕

 少し日が翳った。
 しかし天気予報では、雨も雪も降らないそうなので、傘の心配は無いだろう。
 バスはまだ都市開発の途中と思われる場所を進む。
 開発が進んでこの辺りの人口が増えたら、バスの本数も増えるだろうか。

 マリア:「目的地の近くには、勇太の昔の実家があったんじゃなかったか?」
 勇太:「まあ、そうですね。でも今は跡形も無いので、特に行く必要は無いですよ」
 マリア:「そう、か……。妖狐と出会った場所も?」
 勇太:「あの神社も震災で跡形も無くなりました。まあ、威吹にとっては何百年間もの間、暗闇に閉じ込められていた嫌な思い出の場所なので、清々したでしょうね」
 マリア:「そうか。バァル大帝と大師匠様は旧友だから、バァル大帝の揺さぶりに関しては、ダンテ一門の魔道師としては他人事じゃないんだけど……」

 バァル大帝怒りの魔術により、魔界と人間界との均衡が大きく揺さぶられ、それによって発生した大地震であるという。

 宗一郎:「うわ、映画館の方は休業らしいな。こりゃ、温泉だけで時間を過ごす方法を考えなくてはならんよ」
 佳子:「他に遊興施設は無いの?」
 宗一郎:「確か、ボウリングくらいあったはずだ」
 佳子:「そうなの……」

 大きくて太い腕乗せを挟んで隣に座る両親は、旧・実家の全壊に関してはあまり関心が無いようだった。
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“大魔道師の弟子” 「1月2日は池田SGI会長の誕生日」

2017-01-22 22:45:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月2日07:00.天候:晴 仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台駅西口中央・8F客室]

 勇太の枕元に置いているスマホのアラームが鳴る。

 勇太:「う……」

 勇太は手を伸ばしてアラームを止めた。

 勇太:「もう朝か……」

 起き上がると、外から微かに列車の通過音が聞こえる。
 カーテンを開けると、今しがた列車が通過したばかりの新幹線の高架橋が見える。

 勇太:「いいねぇ、いいねぇ……」

 勇太はテレビを点けると、荷物の中から洗顔セットを持ってバスルームへ向かった。

〔「や、やめろ、エミリー……」「どうぞ、お選びください、敷島社長。全機が選りすぐりのメイドロイドです。メイドの仕事だけでなく、セクサロイドとしての機能も十分に保証できますので……」〕

 勇太、洗面台で顔をバシャバシャ洗う。

〔「初音ミクでーす!“Gynoid Multitype Cindy”はもうすぐ再開しまーす!」「だからエミリー、背中におっぱい当てるなっての!」「どうです?人間の女性のそれと同じ感触でしょう?」「姉さん、キャラ変わったし……」〕

 勇太:「ん?なに、今のCM?チャンネルを変えよう」

 勇太、顔をタオルで拭きながら、テレビのチャンネルを変える。
 そして、再びバスルームへ。

〔「真犯人、『名無しのリスナー』の正体はお前だ!石ノ坊ユージ!」「何だと!?敬虔な大聖人様の信徒たるこの私のどこが犯人だというんだ!?え?愛原さんよ?」「犯行のトリックは【以下略】。てなわけで犯人はお前しかいない!」「ふふふ……そこまでバレちゃ仕方がないな」「え?え?なに?どうしたの、皆さん?」「実は“私立探偵 愛原学”の再開は無いのだよ、愛原君?」「キミは我々、“あっつぁの顕正会体験団”の手に掛かって、敢え無い最期を遂げるのだ」「わーっ!私以外全員真犯人だなんてそんなバカな!?それに、ノベラーエクスプレス関東が武闘派に潰されて終了だなんて聞いてないぞ!?」〕

 勇太:「何か、また変なCMやってるぞ?もういいや。NHKに変えとこ」

〔「来週から“元講員の日蓮正宗の秘密、暴いちゃいます”が始まるだと……」〕

 勇太、チャンネルをNHKに変えた。

 勇太:「今度は大丈夫だろう」

 そして三度、洗面台へ。

〔「次のニュースです。正月三ヶ日中日の今日、東京・信濃町にある創価学会本部では、創価学会インターナショナル会長、池田大作氏の誕生日を祝う学会員達で朝から賑わい……【中略】。しかしながら当の会長本人は姿を見せず、一部団体から指摘されている健康不安説を物語っている状態です。……」〕

 勇太:「また何か、変なニュースやってるぞ。おかしいな……?」

〔「これについて、学会員は……」「怨嫉謗法はいけませんよ!まず、御書を読みましょうね!池田先生が御病気?私が本で先生は迹だからいいのです!」(長野県白馬村在住の学会員、Oさん)〕

 勇太:「見なかったことにしよう。また、このブログが炎上するのは御免だ……」

 勇太はテレビを消した。

[同日07:30.天候:晴 同ホテル1Fロビー]

 マリアを伴ってロビーに降りると、既に多くの宿泊客で賑わっていた。
 定番のお握りや味噌汁の他に、今では漬物やおかずもバイキングに出ている。
 また……。

 勇太:「これですよ、これ。餅って」
 マリア:「なるほど……」

 オーブントースターで餅を焼くようになっている。
 焼いた餅はお雑煮に入れられるようになっていた。

 勇太:「このように弾力性がありますからね、喉に詰まらせないように注意してください」
 マリア:「……了解」

 勇太は焼いた餅を海苔で巻いて、醤油に付けて一気に頬張ったのだが……。

 勇太:「!!!」

 勇太は慌てて用意していたコップの水を口に運び、喉に詰まった餅を何とか飲み下した。

 勇太:「あー、死ぬかと思った。一瞬、視界に蓬莱山家が見えました」
 マリア:「喉に詰まらせるなって言ったの、ユウタだよな!?」
 勇太:「歴代の御法主上人猊下でも、時には言ってる内容が違ったりしますから……」
 マリア:「……要は細かく千切って、よく噛んで食べろということだな。分かった分かった」

 マリアは餅を上手く食べた。

 マリア:「うん、美味しい。日本は食べ物が美味しいということだけども、本当だな」
 勇太:「そうですね」
 マリア:「師匠が日本に私を連れて来たのも、表向きは“魔の者”の追及から逃げる為だけど、実際は食べ物と飲み物が目的だったのかもしれない」
 勇太:「それでもいいじゃありませんか。先生がこの国を気に入って下さったからこそ、この国はまだ安泰なんです」
 マリア:「そうだね」

 もっとも、東日本大震災の時は“魔の者”が揺さぶりを一気に掛けてきたと思って、右往左往したらしい。
 実際は“魔の者”ではなく、ダンテに騙されて冥界の奥底へ向かっていた大魔王バァルが怒りの魔力解放をしたことによる影響……とのこと。

 勇太:「先生、今回の年末年始はお1人で良かったんでしょうか?」
 マリア:「1人じゃないさ。まず、大師匠様のお相手をする当番だったんだから。その後で今頃、ポーリン師やアナスタシア師と新年会でもやったことだろう。……いや、私達が帰ってくるまでの間、連日やってるかもな」
 勇太:「そんなに!?お元気ですねぇ……」
 マリア:「元気なことに越したことは無いんだけど、師匠によっては老害を振り撒く人もいるからタチが悪いんだ」
 勇太:「は、はあ……」

 勇太は再び餅を口に運んだ。
 今度は喉に引っ掛からないよう、よく噛みながら……。

 マリア:「このホテルのチェックアウトはいつ?」
 勇太:「結構ゆっくりでいいので、10時近くで大丈夫だと思います。だからまだ両親、起きて来ないんだ」
 マリア:「なるほど……」

 マリアは頷いて、お雑煮を口に運んだ。

 マリア:(ステーキ以外は、殆ど日本料理ばかり食べてる。もちろん、この国に住んでるからには当たり前だけど……)

 生きていれば、こういうこともあるものだとマリアは今になって思う。
 だからイリーナのことは師匠として頼り無さを感じつつも、恩人としての思いは強いのである。
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“大魔道師の弟子” 「杜の都で過ごすお正月」

2017-01-21 20:58:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日17:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台駅西口中央・8F客室]

 マリア:「ん……?」

 マリアが目を覚ますと、視界の中に自分が作ったフランス人形が入って来た。
 フランス人形にしては珍しく緑色の髪をしており、それがツインテールになっていて赤い髪留めを使用しているので、勇太からはミク人形と呼ばれている。
 ボーカロイドの初音ミクを彷彿とさせる髪型だからだ。
 因みに、それとペアを組むプラチナ色の髪の方はミカエラという名前なのだが、初音ミクの派生型である弱音ハクに似ていることから、ハク人形と呼ばれている。

 マリア:「もうこんな時間か……。ありがとう。起こしてくれて」

 マリアが起き上がると、上はブラウスだけしか着ていない。

 マリア:「うう……ん……!」

 大きく伸びをして、ライティングデスクの椅子に掛けたスカートを手に取った。
 人間形態になったミクとハクが、マリアの着付けとヘアメイクを手伝う。
 普段は人形として荷物の中に隠れている2体だが、いざという時は人間形態になってマリアの手伝いをする。
 尚、東京中央学園の時は連れて来なかったし、ペンション“ビッグフォレスト”の時はまさかのMP切れで使用不可だった。
 今こうして、やっとMPがある程度回復したというわけである。

[同日17:45.天候:晴 ホテル東横イン仙台駅西口中央・1Fロビー]

 勇太:「いい部屋ですよ!まさかのイースト・アイの通過まで見れて!……あ、イースト・アイというのはJR東日本で導入している軌道検測車のことで……」
 マリア:「うん、うん」

 エレベーターに乗っている最中、勇太は鼻息荒くしてそんなことをマリアに語った。
 勇太とマリアが泊まっている部屋は、すぐ目の前に東北新幹線の高架線がある。
 普通はそんなの騒音部屋以外の何物でもないのだが、ホテル側も考えているのか、なるべく防音ガラスを使用した窓にしており、また、勇太のような鉄ヲタ客を当て込んだPRをしているようである。
 マリアは勇太の言葉に、適当に相槌を打つしか無かった。

 ピンポーン♪

〔1階です〕

 エレベーターを降りると、既にロビーには両親が待っていた。

 宗一郎:「お、来たな。それじゃ、夕食に行こう。牛タンの店に行こうと思うんだけど、いいかな?」
 勇太:「仙台に来たら牛タン。ベタな観光客の法則だね」

 とはいえ、勇太が中学生の頃までは地元民だった稲生家。
 部屋の鍵をフロントに預けて、ホテルを出た。

 勇太:「うわ、寒い」
 宗一郎:「山形ほど雪は無いけどな。でも、さいたま市より寒いな」

 マリアはローブを着ており、外に出るとフードを被った。
 尚、今は赤い縁の眼鏡を掛けている。
 これは自動翻訳魔法具の1つであり、この眼鏡を掛けるとイギリス人のマリアにとって難しい日本語の文字があっという間に英字に変わるというもの。
 元々は、大師匠ダンテがラテン語で書いた魔道書を読む為の物である。
 但し、言葉での自動翻訳と同様、直訳されることが多い為、日本人から見て日本語の表現がおかしくなっている所が散見されるのが短所。

[同日18:00.天候:晴 JR仙台駅3F“牛タン通り” たんや善次郎]

 宗一郎:「遠慮しないで好きな物食べてくれよ」
 勇太:「うん。じゃあ僕、牛タン定食。マリアさんは牛タン初めて?
 マリア:「食べた記憶は無いね。ビーフのどの部分?
 勇太:「ここです

 勇太は自分の舌を指さした。

 マリア:「そう、なのか……
 宗一郎:「まずは飲み物を頼もう。父さんはビールだ。大ジョッキ!」
 佳子:「飲み過ぎよ。中ジョッキにして!」
 宗一郎:「……はい」
 佳子:「……あ、勇太とマリアちゃんは好きなの飲んでいいからね」
 勇太:「う、うん……」
 マリア:「アリガトゴザイマス」

 マリアはワインを頼み、勇太と母親の佳子はサワーを注文した。

 勇太:「で、結局、明日はどうするの?」
 宗一郎:「それなんだけども、どうだろう?大江戸温泉物語にでも行くか」
 勇太:「ああ、やっぱそっちになるのか……」
 宗一郎:「さすがに正月三ヶ日から、いい日帰り入浴プランをやっている温泉旅館が見つからなくてね。全く。あの事件さえ無ければ、こんな苦労せずに済んだのに……」
 佳子:「もう、今さらしょうがないわよ。時間だけは2泊3日で取っちゃったのもあるからね」
 宗一郎:「まあ、そうだな」

 飲み物が運ばれて来たので、それで乾杯する。

 宗一郎:「かーっ、これだな!」
 佳子:「だから、そんなに一気に飲んだら体に悪いって!」
 勇太:「相変わらずだなぁ……」

 そんなことをやっているうちに、牛タンが運ばれてきた。

 マリア:「確かに見た目はビーフだけど、何か、不思議な食感……
 勇太:「そうでしょ、そうでしょ」
 宗一郎:「まあ、専門店で本場の名物が食べられただけでも、観光旅行って感じだな」
 勇太:「そうだね」
 マリア:(師匠への土産は、この牛タンにするか?たまには食べ物でもいいだろう……)

 食べながらそう思ったマリアだった。
 もっとも、長命のイリーナのことだから、長過ぎる人生の中で、1度は食しているのかもしれないが。
 ワインを口にすると、白い肌が赤くなる。
 周囲を見ると、他にも外国人旅行客の姿は……無いことはないが、少なくともマリアの生まれ故郷だの育った故郷だのからの旅行客では無さそうだった。

[同日20:00.天候:晴 ホテル東横イン仙台駅西口中央]

 宗一郎:「父さん達は先に寝るけど、あまり夜更かしはするなよ」
 勇太:「分かったよ」

 勇太の両親はエレベーターで上がって行った。
 2人、ロビーの椅子に座る。

 マリア:「確か、このホテルの朝食はここで出るんだったか?」
 勇太:「そうですね。いつもの通り、ここで食べ放題です。さっきフロントの人に聞いたら、正月三ヶ日限定で、お餅が出るんですって」
 マリア:「モチ?」
 勇太:「餅です。日本人がお正月に大抵食べるものですよ」
 マリア:「ふーん……」

 稲生はロビーにあるドリンクサーバーから、水とコーヒーを持ってきた。

 勇太:「今更、食後ですけどね」
 マリア:「ああ、ありがとう。さっき、コンビニで何買ってたの?」
 勇太:「それなんですけど、今日は温泉に入れないので、これを代わりに」

 勇太はコンビニのレジ袋から入浴剤を取り出した。

 勇太:「マリアさんはバスタブに浸かる人でしたっけ?」
 マリア:「たまに。そうか。このホテルにはバスタブがあるから、それで使えるってことか」
 勇太:「そういうことです」
 マリア:「分かった。ありがたく、使わせてもらうよ」
 勇太:「どうぞどうぞ。ところで、先生へのお土産はどうしましょう?」
 マリア:「さっき食べた牛タンなんかどう?たまには食べ物でもいいんじゃない?」
 勇太:「いいんですかね?でも、あれは冷凍しないといけないから……。あ、でも、クール宅急便で送ればいいか」
 マリア:「そういうことだな」
 勇太:(必ず屋敷に届けに来るのがエレーナというところが気になるけれど……)

 勇太とマリアは話し込み、ふと気がつくと既に深夜帯になっていたという。
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“大魔道師の弟子” 「杜の都入り」

2017-01-20 20:59:58 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日15:13.天候:晴 宮城県仙台市 JR仙台駅]

 稲生家とマリアを乗せた仙山線快速電車は、順調に仙台市内を走行をしていた。
 愛子駅から先の各駅に停車する度、沿線からの乗客を拾い集めて行く。
 4両編成の電車は満席になるばかりでなく、ドア付近などに立ち席客が集中するほどになった。

〔まもなく終点、仙台、仙台。お出口は、左側です。新幹線、東北本線、常磐線、仙石線、仙台空港アクセス線、地下鉄南北線と地下鉄東西線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 首都圏のJR電車の自動放送と同じ声優、そして似た言い回しの自動放送が流れる。
 その後で英語放送が流れ、車掌の乗り換え案内放送が流れるのはお約束だ。
 運転室からATSの警告音が流れてくるが、これもまたお約束。
 電車はゆっくりホームに入線した。

〔せんだい、仙台。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 ぞろぞろと乗客達が降りて行く。
 勇太達も後から続いた。

 勇太:「ホテルはビジネスホテル?」
 宗一郎:「ああ。そこしか取れなかったんだ。仕方が無いだろう。温泉は、どこか日帰りの所でも探そう」

 今更、スーパー銭湯に行く気にはなれない。
 長野への帰り際、大宮の方に行く気はあるけれど。
 マリアの体中に付いている痣や傷痕を見た佳子(勇太の母親)は驚いたそうだ。
 もちろん、基本的に今は痛みは無い。
 だが、何かトラウマに触れたり、過去の悪夢を見るようなことがあれば、傷痕が疼くことはある。
 魔道師になれば契約した悪魔との関係からか、普通の人間と比べて極端に体の成長・老化が遅くなる。
 これは悪魔にとっても魔道師と契約できれば大きなステータスと考えているようで、簡単に死なれないようにする為の特典であるとされる。
 しかしそのせいで、体の治癒力も極端に悪くなる為、そういった傷痕が消えにくいのが短所だ。
 魔法使いが回復魔法(ホ◯ミ、べ◯イミ、◯ホマ、ケ◯ル、◯アルガ、ケア◯ラ等)を使えるというのは、こういう所に理由がある。
 従って、温泉に入ってそういった傷痕を癒そうというのは、はっきり言って気休めにしかならない。
 だが、マリアにとっては、そういった気づかいが嬉しかった。

 稲生家の面々とマリアは、正月で混雑する仙台駅構内を西口に向かって進んだ。

[当日15:30.天候:晴 宮城県仙台市青葉区 ホテル東横イン仙台駅西口中央]

 勇太:「よく取れたねぇ……こういう所」
 宗一郎:「さすがに秋保温泉とかは無理だった」
 勇太:「そうでしょうとも」
 マリア:「同じホテルの別の店に行ったことがあるなぁ……」

 マリアが稲生に耳打ちした。
 稲生は頷いた。

 勇太:「確か、仙台駅東口の方でしたよ。向こうより、こっちの方が新しそうですね」

 宗一郎がフロントに行っている間、残った面々はロビーの椅子に座って待つ。

 佳子:「随分と線路に近い所だけど、騒音とか大丈夫なのかしら?」
 勇太:「そういう所の部屋の方がむしろ空きやすいのかもね。僕はいいんだけど……」
 佳子:「そりゃ、勇太は電車好きだからねぇ……」

 佳子が苦笑いする。
 しばらくして、宗一郎が鍵を3つ持ってきた。

 宗一郎:「ツインは父さんと母さんが取って、シングルは勇太とマリアさんだ。それはいいが、ツインは12階でシングルは8階になるそうだが、大丈夫かな?」
 勇太:「いいよいいよ」

 勇太は鍵を受け取った。
 マリアの部屋とは隣り合わせになっている。

 宗一郎:「夕食は牛タンでも食べに行こう。フロントで場所を聞いてきたから、それでいいかな?」
 勇太:「うん」

 4人はエレベーターに乗り込んだ。

 宗一郎:「夕食は6時に予約したから、ロビーに5時45分に集まろう」
 勇太:「分かった」

 8階と12階のボタンを押す。
 ホテルのエレベーターにしては珍しく、マンションのエレベーターのように、ドアに窓が付いているタイプだった。

 勇太:「じゃ、また後で」
 マリア:「失礼シマス」

 勇太とマリアは8階でエレベーターを降りた。

 勇太:「えーと……ここですね」
 マリア:「せっかくの家族旅行が、とんでもないことになってしまって申し訳無い」
 勇太:「いえいえ、マリアさんのせいじゃないですよ。悪霊に憑依された人をどうするかって、いつの間に試験にされていたのやら……」

 もちろんイリーナが意図したわけではなく、あくまで事件の概要を精査した上で、もしこれが昇格試験だったとしたら落第だと言ったのである。
 別に、仕組まれたわけではない……はずだ。

 勇太:「昨年泊まったホテルと同じ使い勝手のはずですよ」
 マリア:「分かった。それじゃ、また」

 ……マリアは勇太と別れると、その隣の部屋に入った。
 リーズナブルなホテルのせいか、室内の造りはシンプルなものだ。
 ドア横にキーを差し込むと、室内の照明が点灯する。
 マリアはローブを脱いで室内のクロゼットに掛けると、窓の外を見てみた。

 マリア:「おっ?」

 窓の外は東北新幹線の高架線があった。
 防音窓になっているのか、こっちが静かにしていれば、そんなに通過音が響いてくるわけではない。
 駅に近いので、列車自体が速度を落としているからというのもあるだろうが。

 マリア:(これは勇太が喜びそうだな)

 室内のエアコンは家庭用のものが設置されている。
 あと、室内の壁には時計が掛けられていた。
 ロビーに集まるまで、あと2時間近くある。

 マリア:(シャワーでも浴びて少し休むか。さすがに今、あまりMPが回復していない状態だと……)

 MP、マジックポイント。
 魔法使いをプレイヤーキャラとして操作できるゲームならお馴染みだが、別にダンテ門流でそのような用語を公式に使っているわけではない。
 初出は勇太。
 魔法の使用に必要な魔力をゲームでは便宜上数値化しているが、実際は数字で測れるものではない。
 その魔力を半ば冗談としてMPと勇太が呼んだ為に、マリアやイリーナが真似をして、エレーナが真似をして……的に広がり、MPという言葉と意味を知っている若い魔道師達まで使うようになった。
 いっそのこと、本当に数値化する魔法具でも作ろうかと、魔法具の開発・研究をしているチームが半分本気で言ったくらいである。
 そんなことを考えながらマリアは着ている服を脱いで一糸まとわぬ姿になると、早速シャワーを浴びた。
 その後で、また服を着るとベッドの上に寝転がったのである。

 マリア:「ミカエラ、5時半になったら起こしてね」

 ミク人形は人形形態のまま、ライティングデスクの椅子に座った。
 そして、女主人の命令にコクコクと頷いたのである。
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“大魔道師の弟子” 「落第点」

2017-01-19 21:24:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日13:40.天候:晴 山形県山形市]

 世間ではお正月で盛り上がっている中、ペンション“ビッグフォレスト”に宿泊していた客やスタッフ達は散々な年明けを迎えた。
 あれだけの猛吹雪がウソみたいに晴れて、冬の太陽が積もった雪に反射して眩しい。
 宗一郎の通報により、やっと外部にペンション内での惨劇が伝わった。
 だが、猛吹雪で警察や消防が駆け付けることができず、ようやく警察が駆け付けたのは、吹雪も収まった翌朝だった。
 あまりの惨劇に、蔵王温泉街は騒然となった。
 マスコミも駆け付け、上空にはヘリコプターが飛んだくらい。

 ペンションの関係者達は当然ながら、警察の事情聴取を受けた。
 だがもちろん、幽霊がどうたらの話など信じてもらえるわけがない。
 結局、島村真理愛1人の連続猟奇殺人事件ということになった。
 因みに悪霊に取り憑かれ、大森オーナーを連れ去った島村は行方不明となっている。
 ペンションのエントランスやホールには防犯カメラが取り付けられていたが、それに一連の流れが記録されていた。
 いずれにせよ、生き残った者達への疑いは晴れたわけである。

〔「7番線に停車中の電車は13時56分発、仙山線快速電車の仙台行きです。……」〕

 本当は山形市内に2泊するつもりであったが、事件のせいで中止を余儀無くされてしまった。
 山形市内に残っていてもマスコミの取材がある為、早いとこ山形市から出る必要があった。
 明日の山形新幹線はキャンセルし、その代わり、仙台からの東北新幹線に切り替えた。
 年始の期間で予約は取りにくかったが、それでも何とか取ることに成功した。
 ホテルに関しては難しそうに思えたが、意外とそうでもなかった。
 元旦の今日にはチェックアウトするパターンが多いからだろう。
 あと、宗一郎が何かコネでも利かしたか。

 電車はホームに既に入線していて、取りあえず席だけ先に確保しておいた。

〔この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子(あやし)と愛子からの各駅です〕

 イリーナ:「事件の経過は見させてもらったけど、あまり良い対応ではなかったわね。少なくとも、ユウタ君の母校での動き方と比べてもダメだったと言わざるを得ないわ」

 イリーナはマリアの水晶球を通じて、辛辣な評価を下した。
 満点なのは死亡者を1人も出さないこと。
 それなのに、憑依された島村も含めて6人も死者を出してしまった。
 ゲームによっては、バッドエンド扱いになる被害状況ぶりである。

 イリーナ:「しかもエネミー(敵)を取り逃がし、事件の謎解きも真相明かしもできていない。マリア、これは赤点ね。補習もしくは追試ものだわ」
 マリア:「くっ……!」
 イリーナ:「とにかく、あなたはしばらくの間、ロー・マスターのままね。ユウタ君も、マスターへの昇格はしばらくは無いものと思いなさい」
 勇太:「すいませんでした……」

 稲生とマリアは失意のうちに、電車内に戻った。

 勇太:「例の旧校舎と違って、明らかな廃墟での戦いでは無かったので、ちょっと戦い難かったというのはありましたけどね」
 マリア:「師匠に言わせれば、そんなの理由にならないそうだ」
 勇太:「厳しいですねぇ……」

 つまり、この事件ですら、ある程度は予知できなければダメだということらしい。

[同日13:56.天候:晴 JR仙山線3838M電車・先頭車内]

 発車メロディがホームに鳴り響く。
 地方の駅であるが、メロディは大宮駅・宇都宮線ホームと同じものだ。
 それと似た内装の電車が運転されているのだから、都会的と言えば都会的なのだろう。
 ただ、ボックスシートは首都圏の中距離電車のそれよりは広く造られている。
 雪が降り積もった線路の上を、4両編成の電車(E721系)は走り出した。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は仙山線、快速、仙台行きです。停車駅は北山形、羽前千歳、山寺、作並、愛子と愛子からの各駅です。次は北山形、北山形。お出口は、右側です。山形線と左沢(あてらざわ)線は、お乗り換えです〕

 車内の自動放送も、首都圏の電車と同じ声優、似たような言い回しである。
 宗一郎は少しでも旅の気分を出す為なのか、缶ビールを開けていた。
 首都圏の電車には無い設備として、ボックスシートの窓際にはテーブルが置かれている。
 丸い窪みは明らかに、缶などを置くことを想定している。

 進行方向向きの窓側に座る宗一郎はビールを口に運んだ後、それを窓際にテーブルに置いて言った。

 宗一郎:「そうか。イリーナ先生に怒られたか。まあ、気を落とすんじゃない。別に、破門になっただとか、何か処分を受けたとか、そういうことではないんだろう?」
 勇太:「まあ……」

 宗一郎の隣に座る勇太は頷いた。

 宗一郎:「勇太はまだ弟子入りして間もない見習なんだからしょうがない。マリアさんも、そう思いませんか?
 マリア:「あっ、はい。そう思います。ダディ
 勇太:(こりゃ、先生に何か土産でも持って帰らないと、もっとこっ酷く怒られそうだ)
 佳子:「それにしても、ホテルは何とか取れたからいいようなものの、着いたらどうしましょう?」
 宗一郎:「それは着いたら考えればいいさ。勇太も何か考えてくれよ」
 勇太:「うーん……。元々は家族旅行として、温泉に行くつもりだったわけだから……」

 勇太は自分のスマホを出して、取りあえず何か検索することにした。

 宗一郎:「といってもさすがに疲れたし、昨夜はあの事件のせいで、ほとんど寝ていないというハンデがあるのだが」
 佳子:「無理しないで、今日は早めに休みましょうよ。どうせ、明日の新幹線は夜なんでしょう?」
 勇太:「普通車は軒並み満席。やっと固まって取れた席がグリーン車の、それも最終列車という有り様だよ」
 宗一郎:「ま、そんなところだろうね。ユウタの鉄道趣味を生かしても、その結果ということだ」
 勇太:「だから結局、明日は丸々1日過ごせるってわけ」
 宗一郎:「なら今日は早く休んで、明日に備えるか。ホテルは市街地にあるから、夕食なども場所には困らないだろう」

 快速電車は取りあえず、山形市内を北に向かって走行した。
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