報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「迫り来る恐怖」

2017-01-14 20:51:18 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日18:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”1F食堂]

 大森:「宿泊客の皆様、食事の用意ができました。どうぞ、食堂までお越しください」

 館内に大森の放送が響いた。
 こういうペンションでも非常放送の機器は必要のようで、それを使って放送しているようだ。

 宗一郎:「おっ、お前やマリアさんも風呂に入ったのか」
 勇太:「一応ね。傷痕に効く温泉で良かったよ」

 勇太はマリアを見た。
 マリアは小さく頷いた。

 宗一郎:「そうか。それは良かった」

 宗一郎は笑みを浮かべると、食堂へ向かった。
 今日の宿泊客は稲生家とマリア、花の女子大生3人組、そしてあのスーツにサングラスの男だけのようだった。
 しかもそのスーツの男、他の宿泊客から離れたテーブルに1人で座り、相変わらずサングラスに帽子を被っていて、一切正体を明かすつもりは無いようだ。

 バイトA(男):「オーナー、元木様はまだ来てないんスか?」
 大森:「雪子、元木様は?」
 雪子:「まだ到着されてないよ」
 宗一郎:「まだ、他に予約の入ってる客がいるのかい?」
 大森:「ええ。お1人なんですけどね、吹雪で立ち往生とかされてたら大変ですよ」

 確かに外を見ると、雪は大雪となっていた。
 時折、強い風が吹いて窓をガタガタと揺らした。

 宗一郎:「それは心配だねぇ……」
 バイトB(女):「お客様、お飲み物に何になさいますか?」
 宗一郎:「おお、そうだった。やはり、山の幸には赤ワインがいいかな?大森君お勧めのワインは無いの?」
 大森:「ああ、それなら取って置きのを持ってきますよ」
 宗一郎:「おっ、そうこなくちゃな」
 大森:「小久保君、ちょっと私はワインセラーに行ってくるから、もしその間に元木様が到着されたら、すぐに夕食の用意をしてあげて」
 バイトA改め小久保:「了解っス!」
 雪子:「ワインセラーの鍵なら今、葵ちゃんが持ってるんじゃない?」
 大森:「篠原さん?」
 バイトB改め篠原:「あっ、鍵ならさっき、フロントに戻しておきました」
 大森:「そうか」
 勇太:「僕はビールでいいです」
 佳子:「私もそれでいいわ」
 篠原:「かしこまりました!」

 メインディッシュは米沢牛のステーキだった。

 宗一郎:「いやあ、料理も美味いし、酒も美味い!おまけに温泉付きと来て、手頃な値段だ。こりゃ、別荘代わりに毎年お世話になりたいくらいだよ」

 宗一郎はワイングラス片手にそう言った。

 大森:「恐れ入ります」
 篠原:「おかわりいかがですかぁ?」
 勇太:「あっ、すいません」

 勇太はグラスにビールを注いでもらった。
 マリアはワイングラスを口に運んでいる。

 佳子:「元気なコね。いくつなの?」
 篠原:「今年、21です。冬休みの間だけ、小久保君とバイトしてるんですよぉ」
 大森:「こら。小久保君の方が年上なんだから、もっと敬語で喋りなさい」
 小久保:「別に、カタいことは気にしてないっスよ」
 大森:「いや、でもねぇ……」

 大森は苦笑していた。
 恐らく、いつものことなのだろう。
 何でも小久保は大学を留年しているそうなので、実質的に勇太と年齢は同じくらいかもしれない。
 もっとも、いかにも文科系といった見た目の勇太に対し、小久保はスラッとした長身の色黒なスポーツ系なので、スキーをやる為にここでバイトしているのかもしれない。
 そんなこんなで夕食は、楽しく終わった。
 最も先に切り上げたのは、あのスーツの男。
 料理やアルコールを早食いするように平らげて、さっさと食堂を出て行ってしまった。
 大森が食後のコーヒーを勧めたが、迷惑そうに手を振って行ってしまったのである。

 勇太:「何だか、犯罪の臭いがするなぁ……」
 宗一郎:「まあ、疑わしきは罰せずというからねぇ……」

 花の女子大生組が宿泊しているトリプルの部屋(実際はツインなのだが、エキストラベッドを1つ増設でき、それで3人部屋にできる)にはテレビが付いているそうで、それで年末特番を見るそうだ。
 “笑ってはいけない”でも見るのだろうか。

 勇太:「マリアさん、また温泉に入りますか?」(斜字は英語で喋っていることを表す)
 マリア:「うーん……。いや、さっき入ったばかりだから、また後ででいい
 宗一郎:「私達の部屋にはテレビが無いからな。しょうがないから、談話コーナーのテレビで紅白でも見るか」
 勇太:「う、うん。(どうせなせ、“笑ってはいけない”を見たいなぁ……)」

[同日19:00.天候:吹雪 ペンション1F談話コーナー]

 勇太達が食堂を出ると、女子大生達が大慌てで階段から駆け下りて来た。

 勇太:「何かあったのかな?」

 するとそのうちの1人、島村真理愛が勇太にいきなり抱きついた。
 ビキッと怒筋を浮かべるマリア。

 勇太:「わあっ?!なに、どうしたの!?」
 大森:「どうかしましたか?」
 本田:「オーナー、大変です!覗きです!覗き!」
 大森:「覗き?」
 島村:「怖かったよぉ……!」
 勇太:「そ、そう?」
 マリア:「勇太カラ離レテ!」

 マリアは島村を勇太から引き離した。

 渋谷:「私は直接見ていないんですけど、窓から私達の部屋を覗き込んでいたヤツがいたそうです。そうでしょ?」
 本田:「そう!そうなんです!私はまだチラ見だったからだけど、たまたま窓の外を見ようとしていたしまむーがガチ見しちゃって!」
 宗一郎:「窓の外からだって!?こんな吹雪なのに!?」
 佳子:「何かの間違いじゃないの?」
 島村:「本当なんです!窓の外に金色の目に、青白い肌をした人が……!」
 大森:「動物か何かを見間違えたんじゃないのか?」
 島村:「動物だったら動物だって分かるよ!あれは絶対、幽霊か何かだって!」
 大森:「いい加減にしなさい、真理愛。客商売なんだから、他のお客さんを怖がらせるようなことは言わないでくれ!」

 マリアは一瞬、自分のことを言われたような気がしてビクッとした。
 宗一郎が真っ先にそれに気づいた。

 宗一郎:「おいおい、大森君。キミこそ、あまり大声を出さないでくれ。うちの娘になるかもしれないお嬢さんがビックリしちゃったじゃないか」
 大森:「も、申し訳ありません!」

 だが、勇太とマリアは宗一郎の意味深なセリフの意味を知って、勇太は照れたように落ち着きを無くし、マリアは俯いてしまった。

 渋谷:「オーナー、部屋を替えてもらうことはできますか?」
 本田:「それも、できればテレビのある部屋がいいです!」
 大森:「あいにくと塞がってまして……」
 島村:「えーっ!?」
 宗一郎:「私達の部屋じゃないところを見ると、あのスーツの人の部屋だろう」
 本田:「うへっ?あのヤバそうな感じの人?麻央っち、ちょっと交渉してきてよ」
 渋谷:「何で私が?私は直接見てないんだから、気にしてないし」

 結局、部屋を替えてもらうことは諦めたようだ。
 カーテンを閉めて、窓の鍵もしっかり掛ければ大丈夫だということになった。

 大森:「何かありましたら、すぐにお知らせください。ドアの横に内線電話がありますから」
 本田:「は〜い」
 渋谷:「ほら、真理愛、行くよ」

 女子大生3人組は階段を上がって行った。

 大森:「きっと、旅の疲れと酔っぱらっていて、幻でも見たんですよ。すいません、姪がお騒がせして……」
 宗一郎:「いや……」
 マリア:(あの霊感の無い女達の前にも現れた……?あの幽霊、何かこれからやろうとしているということか……。明らかに、良からぬことではないな)

 マリアはふと談話コーナーの窓に目をやった。
 するとそこには、2つの光が……!

 マリア:「わっ!?」

 人が集まる談話コーナーにも幽霊が現れた!?
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“大魔道師の弟子” 「女子大生3人組」

2017-01-13 21:01:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日17:00.天候:雪 ペンション“ビッグフォレスト”]

 マリアは温泉から上がると、脱衣所の洗面台の前で髪を乾かしていた。
 あえて入浴前に現れた幽霊の所を使っている。
 地縛霊というのがいるが、どうもこのペンションに現れるのは地縛霊ではないらしい。
 いや、このペンション内に括られていることは間違い無いだろうから、広義の意味では地縛霊になるのだろうが……。
 マップ移動すると現れなくなるのが狭義の地縛霊なら、意味は違ってくる。
 そして今は、マリアの前にはいないようだった。
 その幽霊は今のところ、マリアには用が無いらしい。
 だが、どこかで見られている気はした。
 直接的に用は無いが、何らかの理由で監視対象とはなっているのだろう。
 それは魔道師としての魔力だろうか。
 だがこの魔力を妖怪などに狙われても、幽霊に狙われる理由にはならないのだが(霊能者の持つ力は魔力では無い)。

 マリア:(よく分からないな。ある程度、何かの怨念は持っているようだ。ただ、それを私や勇太……引いては、ユウタの両親に向けるつもりはないらしい)

 自分達に危害が及ばないなら放置OKが方針のイリーナ組である。
 但し、それを解決してくれというオファーが出たら別だが。
 もちろん、報酬は頂く。

 勇太:「あ、マリアさん」

 脱衣所の外に出ると、勇太が待っていた。

 マリア:「あ、ゴメン。待たせた?」
 勇太:「いえ、別に大丈夫ですよ」

 マリアは白いブラウスの長袖を捲っていた。
 さすがに風呂上がりで暑いというのがある。
 本当はニットのベストも脱いでも良かったのだが、それだと下着が透けて見えてしまう恐れがあった為、躊躇した。

 ???:「マリア……?」
 マリア:「!?」

 マリアは地の底から聞こえてくる、自分を呼ぶような声がしたので振り向いた。
 今、温泉には誰もいないはずだ。
 もちろん、人の姿は無かった。

 勇太:「何かあったんですか、マリアさん?」
 マリア:「気のせいか……」

 マリアは首を傾げた。

 大浴場からロビーへ戻る途中には厨房やスタッフルーム、そしてオーナーの部屋のある廊下を通らなくてはならない。
 厨房からは食欲をそそる良い香りが漂っていた。

 勇太:「お、誰か来てる」

 ロビーに戻ると、フロントから話し声が聞こえて来た。
 複数の女性達のようだ。
 今、到着した宿泊客だろうか。

 ???:「あっ!もしかして、稲生勇太君!?」

 フロントにいた宿泊客は3人。
 年代は勇太やマリアとあまり変わらない。
 そのうちの1人が勇太を見て、パッと顔を明るくさせた。

 勇太:「えーと……?」

 勇太が記憶の糸を手繰り寄せる。
 女友達の多くない勇太にとって、記憶のダウンロードは早目のはずだが……。
 ナウ・ローディングの状態でいると、フロントにいた女性が助け船を出してくれた。
 それは大森オーナーの妻で、雪子という。
 オーナーの大森次郎は食事の支度中なので、その間は妻の雪子がフロント業務に当たるとのこと。

 雪子:「高校生の頃、助けた女の子がいなかった?」
 勇太:「高校の頃……?」

 勇太はその時の記憶を辿ってみた。
 東京中央学園の現役生として、威吹や新聞部のメンバー達と怪奇現象に立ち向かった記憶しか無いが……。

 ???:「埼玉の彩の国女子学園の島村真理愛だよ。忘れちゃった?」
 勇太:「彩の国女子学園!?あの時か!」

 勇太は思い出した。
 東京中央学園新聞部の噂を聞きつけて、そこに除霊の依頼をしてきた女子高生達がいたのだ。
 しょうがないので、女子バスケ部の交流試合の取材にかこつけて向かった。
 ただ、場所が女子高である為、例え新聞部の取材であっても男子の入校は認められなかった。
 女子部員だけで向かったのだが、とても苦戦した為、仕方なく威吹が対応した。
 威吹は勇太の言う事しか聞かなかった為(逆に勇太の言う事なら何でも聞く)、勇太も行かざるを得なかった。
 何とかバレずには済んだものの……。

 島村:「化け物に捕まってて危うく死ぬ所だったのを助けてくれたんだよ」
 勇太:「そう、だったっけ?」

 確かにあの時、何人かの女子生徒が獲物として捕まっていたような気がする。
 ただ当時の勇太は、いかに女子校への侵入がバレないか、威吹がいかに迅速にカタを付けてくれるか、そればかりを気にしていた。
 なので、全員救出することはできたが、あとは逃げるようにして帰ったのである。
 そんな記憶しかない。

 島村:「ちゃんとした御礼を言えなくて……。あ、この友達2人も助けられたんだよ。こっちが本田倫、そっちが渋谷麻央」

 島村が黒のロングなのに対し、本田はショートで眼鏡を掛けている。
 渋谷はセミロングで茶色に染めていた。

 本田:「あの時はありがとう」
 渋谷:「ありがとう。逃げなくても上手く、私達から先生には誤魔化したのに……」
 勇太:「さすがに女子校に男2人がこっそり入ったこと自体が犯罪みたいなものですから……。それに、活躍したのは僕じゃないですよ。威吹って、僕の友達です。キミ達も見ていたと思うけど、あの銀髪に着物を着て、刀を持っていたヤツね。僕はただ威吹を学校に連れて行って、化け物の居場所まで誘導しただけです」
 島村:「でも、的確にアドバイスしてたじゃん!」
 渋谷:「うん。それに、刀持った人が戦っている隙に私達を助けてくれた作戦は良かったと思うね」
 本田:「化け物、すっかり刀の人に気を取られてたもんね!ナイス作戦だったよ!」

 勇太がいきなりチヤホヤされたもので、蚊帳の外に追いやられたマリアだった。

 マリア:「……勇太っ!」
 勇太:「あっ、はいっ!」
 マリア:「早く部屋に戻ろう!」
 島村:「勇太君、この外人さんは?」
 勇太:「えーと……何て説明したらいいのかな?……実は僕、大学出てから魔道……あ、いや、世界的に有名な占い師の先生の所に弟子入りすることになって、この人はマリアンナ・スカーレットさんって言って、その先生の弟子の先輩」
 本田:「お〜、しまむーと同じ名前じゃん!」
 渋谷:「いや、少し違うから。真理愛は真理愛。この人はマリアンナさん」
 マリア:「マリアンナ・ベルフェ・スカーレットだ。イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の1番弟子」
 本田:「イリーナ……?あっ、もしかして、ロシアのプーチン大統領の占いをした人!?」
 マリア:「その通り」
 島村:「じゃ、占ってください」
 マリア:「で、何を?」
 島村:「私と稲生勇太君との関係が上手く行くかどうか!」

 マリアのこめかみにピシッと怒筋が浮かんだ。

 渋谷:「あ、あのさ、そういうのはやめた方がいいと思うよ」

 この3人の中では渋谷が1番クールで空気解読が上手いらしい。

 マリア:「……最悪だという結果が出ている。あと、これからこのペンションで大きな災厄が訪れるということも。今のうちに去った方がいいだろう……!」
 勇太:「ま、まあまあ。それより、皆はどうしてこのペンションに?」

 勇太が話題を変えた。

 島村:「このペンションのオーナー、私の親戚の叔父さんなの」
 勇太:「そうだったんだ!」
 本田:「そう。で、冬休みを利用して、しまむーの帰省にくっついてきたってわけ」
 勇太:「帰省って、キミ達はいいの?」
 本田:「私も麻央っちも実家暮らしだから、たまには年末年始、旅行先で過ごすのも悪くないかなーなんて思ったってわけ。ペンションなら客として泊まれば、しまむーの帰省の邪魔にもならないしぃ!」

 本田はこの3人の中ではあっけらかんとしている。
 いずれにせよ、ダンテ一門の魔女達にはいないタイプだろう。
 勇太より2つ年下で、今は大学生とのこと。
 確かに、勇太が高校3年生の頃の話だ。

 勇太:「じゃあ僕達、ちょっと部屋に戻るから」

 勇太は不機嫌な顔をしているマリアの背中を押しながら言った。

 島村:「えっ、一緒の部屋!?」
 勇太:「いや、もちろん別」
 本田:「私達、209号室だから、いつでも遊びに来てね!」
 勇太:「どうもどうも」

 勇太はマリアの背中を押し、途中で手を引きながら階段を駆け登った。
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“大魔道師の弟子” 「ペンションであった怖い話」

2017-01-12 22:40:04 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日16:00.天候:雪 蔵王温泉郊外・ペンション“ビッグフォレスト”]

 異常な霊気さえ無ければ、アットホームな雰囲気のペンションである。
 しかし勇太が持ってきた水晶球は、何の警鐘も鳴らしていない。
 恐らく、付近にそれなりの霊力を持った幽霊はいるものの、いわゆる悪霊ではないということだ。
 勇太達に危害を加えるつもりは無いということである。
 と、その時、木製のドアがノックされた。

 勇太:「! はい!」

 勇太が後ろを振り向いて応えると、ガチャとドアが開いて、マリアが入って来た。
 室内の電球色の照明に、マリアの金髪が反射する。

 マリア:「ふーん……?私の部屋と同じだな」

 マリアの部屋は隣である。

 勇太:「そうですか?」
 マリア:「トイレと洗面所の配置が逆なくらいか。あとは、机とベッドの向き」
 勇太:「隣り合わせだと、どうしてもそういう配置になりますよねぇ……」

 マリアは空いているベッドに腰掛けた。
 まだ16時になったばかりだが、天気が悪いのと、冬季であることから、夕闇が迫ってくるのが早いと窓の外から見て取れた。
 勇太達が来た頃はまだライトを点けなくても大丈夫だったが、今車で走ろうとするならば、ライトを点けないと危険であろう。

 マリア:「ところで……勇太は気づいたか?」
 勇太:「この霊気のことですよね?」
 マリア:「そう。何だと思う?」
 勇太:「水晶球は何も反応していませんので、危険な幽霊ではないでしょう。ただ、東京中央学園に潜んでいた幽霊並みの霊気の強さですね。悪霊ではないものの、それがこの近くにいる。そこから漂ってくる霊気だと思います」
 マリア:「うん、無難な回答だな。師匠なら目を細めて褒めてくれるよ」
 勇太:「ありがとうございます。他に考えられませんものね」
 マリア:「まあね」
 勇太:「どうします?一応、正体について調査しますか?」
 マリア:「いや、余計なことはしなくていいと思う。そいつが悪霊で、私達に危害を及ぼす恐れがあるというのなら別だけどね」
 勇太:「分かりました」
 マリア:「勇太の水晶球には何の反応も無いって?」
 勇太:「そうなんです」

 勇太は机の上に置いた水晶球を手に取った。
 そして窓の方を向いているマリアの所に持って行く。
 その際、勇太は窓の方に背を向けることになるわけだが……。

 マリア:「Who are you!?」

 マリアの自動翻訳魔法が切れた為、そこはガチの英語になる。

 勇太:「えっ!?」

 勇太は驚いて振り向いた。
 マリアは窓の所へ駆け寄る。
 手には、いつの間にか魔法の杖を持っていた。

 勇太:「……誰もいないみたいですが……?」
 マリア:「……!」

 マリアは外開きの窓を開けた。
 但し、転落防止の為か、大きく開かないようになっている。

 マリア:「いない……」

 寒風が室内に入り込む。
 マリアは急いで窓を閉めた。
 バンッという音が室内に響いた。

 勇太:「マリアさんは何を見たんですか?」
 マリア:「目だ」
 勇太:「め……?……目ですか?」
 マリア:「そう。金色に光る目だ。動物なんかじゃない。窓の外に、動物がこちらを見れるような場所は無かった」
 勇太:「するとそいつは……?」
 マリア:「私達が感じている幽霊か何かだろうな」
 勇太:「それにしても、どうしてここにそれだけ強い霊気を持った幽霊がいるんでしょうねぇ?」
 マリア:「分からない。恐らく、私達がそんな噂をしているのを聞きつけて、様子を見に来たんだろうけど……」

 この時点でも、特に水晶球が警鐘を発することは無かった。

 マリア:「これだけの雪深い所だから、毎年遭難者が出てもおかしくはないだろうね。ただ、幽霊……それも、悪霊になるかならないかくらいの強い霊気を持った者というのは珍しい」
 稲生:「ですねぇ……。それよりマリアさん、夕食の前に温泉に入ってきませんか?サッパリしてから食べるのもいいですよ」
 マリア:「それもそうだな」

 ペンションなので、浴衣などは備え付けられていない。
 このまま、タオルなどを持って向かうことになる。

 勇太:「!?」

 階段を1階まで降りた勇太は、何とも怪しげな客を見た。
 受付でチェックインの手続きをしているようだ。

 大森:「こちらがルームキーです。そちらの階段を上がりまして、右手奥の201号室になります」
 男性客:「…………」

 異様な空気を放つ男だった。
 こういう場所に似合わないスーツ姿に黒いロングコートを羽織り、黒い中折れ帽を深く被っていた。
 180cmくらいはありそうな長針と、そのような恰好から男性客であるということは分かる。

 マリア:「……何だか怪しいヤツだな」
 勇太:「そうですね」

 2人はフロントの前を通った。
 そこにはオーナーの大森がいた。

 勇太:「温泉入れますか?」
 大森:「どうぞ。こちらの廊下の奥にあります」
 勇太:「どうも。ところでさっきの人、何か怪しい感じでしたね」
 大森:「まあ、珍しいお客さんですね」
 勇太:「何しに来たんでしょう?」
 大森:「一応、さっき書いてもらったシートには、『ビジネス』の所にチェックがされてるんですよ。でも、お客さんのプライバシーもあるんで、何の仕事かまでは聞けないですけどね」
 勇太:「ま、それもそうですね」

 もちろん、あの時点では単なる見た目が怪しくて無愛想な客というだけであり、それだけで宿泊を断れるものではない。
 客室に行った後は、再び出てきて何かするということでも無いようだ。

 大森:「夕食は6時からなんで、ゆっくり入ってきてください」
 勇太:「はい、ありがとうございます」

 勇太とマリアは廊下の奥へ歩いた。

 勇太:「さすがに、この霊気のことについては聞けませんでしたね」
 マリア:「仕方が無い。あのオーナーには霊感が殆ど無いようだし、面と向かって聞いたところで、変な顔されるのがオチだろう」
 勇太:「ですよねぇ……」
 マリア:「ところで、御両親は誘わなくていいのか?」
 勇太:「うちの両親のことだから、とっくに入ってると思いますよ」
 マリア:「なるほど」

 当たり前だが、男女で入口が分かれている。

 稲生:「じゃ、マリアさん、また後で」
 マリア:「ああ」

 マリアは赤い暖簾を潜って脱衣場に入った。

 マリア:(ここに来ても、変な霊気が漂ってるな……)

 マリアは警戒しながらブラウスを脱いで、スカートも脱いだ。
 ブラジャーのホックに手を回した時、背後に気配を感じた。

 マリア:「!?」

 バッと後ろを振り向くと、そこには洗面台があった。
 その鏡に一瞬だけ、女の姿が映った。
 そして、それはすぐに消えた。

 マリア:(またか。一体、何だっていうんだ……?)

 ただ一応、幽霊の性別が女だというところまでは分かった。
 複数の幽霊がいるというわけではない。
 漂う霊気の種類は1つだけだからだ。

 マリア:(もしかして昔、このペンションで誰か死亡者でも出たのか?)

 マリアは怪訝な顔をしながら一糸まとわぬ姿になると、大浴場に向かった。
 尚、やはり正体は女の幽霊で間違い無さそうということで結論づいた。
 後で勇太に聞いてみると、男湯に入ったらかなり霊気が弱まっていたということだ。
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“大魔道師の弟子” 「ペンション到着」

2017-01-11 21:43:11 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日15:00.天候:曇 山形県山形市蔵王]

 バスは道路をぐんぐん登って行く。
 タイヤにはチェーンを巻いているが、そうでないと登れないと思う程の急坂もあった。
 そんな中をバスは突き進み、ようやく蔵王温泉バスターミナルに到着した。

 勇太:「マリアさんの屋敷の周りみたいだなぁ……」
 マリア:「何だか、もう帰って来たみたいだ」
 勇太:「た、確かに……」

 そんなことを話しながらバスを降りる。
 乗車券と整理券を運賃箱に放り込む。

 勇太:「ここから近いの?」
 宗一郎:「いや、まだ結構掛かるぞ」
 勇太:「どうやって行くの!?」
 宗一郎:「ペンションから迎えが来ることになってる」

 ターミナルの中はさすがに暖房が効いて暖かい。
 スキー客が大勢いる中、温泉だけに来た稲生家は何だか浮いている。
 外国人のマリアはどうなのかというと、やっぱり浮いていた。
 いや、外国人もいることはいた。

 マリア:(あの黒人達、アメリカ人か?英語の訛りがヒドいな……。カリブ辺りからの移民だろうか?……なワケないか)

 マリアも生粋のイギリス人から見れば移民の1人である。
 出身国のハンガリーは英語圏の国ではない為、それがイジメ加害者達からの恰好のネタにされた。

 宗一郎:「おっ、あの車だ」

 宗一郎が指さした。
 ターミナルの外側に、1台のRV車が止まった。
 シルバーのデリカであり、車体の横に『ペンション ビッグフォレスト』と書かれていた。
 その運転席から降りてくる1人の壮年の男。
 年代は宗一郎と同じくらいだ。

 宗一郎:「よお、大森君」
 大森:「お待たせしました。稲生専務」
 宗一郎:「おいおい。キミが会社を辞めた時は、お互い常務だっただろう?本当は私が座っている席はキミが座るはずで、私がキミに頭を下げる立場になっていたはずだよ?」
 大森:「とにかく、どうぞ乗ってください」

 大森はスライドドアを開けた。

 勇太:「ここから遠いんですか?」
 大森:「雪が無かったら20分と掛からないんだけど、この季節だとねぇ、30分くらいは見てください」
 勇太:「そうですか」

 稲生家とマリアは車に乗り込んだ。
 大森が運転席に乗り込んでから、後ろを振り向いて言う。

 大森:「あ、申し遅れました。私、ペンション“ビッグフォレスト”のオーナーで大森次郎と申します。よろしくお願いします」
 勇太:「オーナーさん自ら迎えに来てくれるなんて……」
 大森:「ハハハ……。アルバイトはいるんですけど、お部屋の準備で忙しいものでね。それでは出発します」

 車がターミナルを出ると、小雪が舞い始めてきた。

[同日15:40.天候:雪 蔵王温泉 ペンション“ビッグフォレスト”]

 圧雪している道を進む車。
 当然、冬タイヤ着装であるはずだが、よく滑らずに走れるものだと勇太は感心した。
 時々、固くなっている雪の上を走るのか、ガタガタと車が大きく揺れることがあった。
 それでもオーナーとしては走り慣れた道なのだろう。
 涼しい顔をしてハンドルを握り、宗一郎と話をしていた。
 大森オーナーは昔からペンションを経営するのが夢だったらしい。
 それが今、こうしてそれを実現させたわけだ。
 会社の常務にまで出世するほどのエリートが、自分の夢を叶える為と称して突然離職したのだから、それはもう会社中が大騒ぎになったらしい。
 ただ、宗一郎だけは前々から彼の夢を聞いていたこともあり、想定内だと思ったという。

 宗一郎:「実家が山形だとは聞いていただけど、まさかこんな山奥とは……」
 大森:「山をいくつか持っていたから、そのうちの1つを相続したんだ。温泉を引くことができて良かったよ」
 勇太:「山をいくつも!?」
 大森:「ハハハ……。野生動物が出没するだけの、何の資産価値も無い山ですよ」
 勇太:「いやいや、温泉出てるじゃないですか!」
 宗一郎:「日本は温泉大国だからな、東京23区内ですら温泉が出るくらいだろう?温泉が出るくらいでは、資産価値が上がるわけではないんだよ」

 それはさすがに失礼ではないかと思うのだが、宗一郎はその後に続けて言った。

 宗一郎:「それを資産価値であるペンションにしてしまうんだから、やはりキミには商才があるんだよ」
 大森:「いやいや……」

 そんなことを話しながら、車はペンションに到着した。
 その頃には、雪は本降りになってきた。
 ペンションと称するからには当然洋風な造りなのは当たり前だが、マリアの屋敷みたいな洋館というよりは、もっとカジュアルなログキャビン風になっていた。

 宗一郎:「ほお、これはまたオシャレな外観だねぇ……」
 大森:「どうもどうも。さ、到着しましたよ。足元に気を付けて」
 勇太:「ありがとうごさいます」

 稲生家とマリアは車から降りた。

 マリア:「……?」

 マリアはこのペンションに対し、何か違和感を覚えた。

 勇太:「どうしました、マリアさん?」
 マリア:「いや……」
 勇太:「何かあるんですか?」
 マリア:「いや、現時点ではまだ何とも言えない」
 勇太:「えっ?」

 中に入ると、2階吹き抜けのロビーが現れた。
 ソファやテーブルが置かれた談話コーナーを兼ねているロビーがあり、オーナーの部屋と繋がったフロントもある。
 開放的な造りで、圧迫感など微塵も無い。

 宗一郎:「ここで待ってて。チェック・インの手続きをしてくる」
 勇太:「うん」

 宗一郎がフロントへ向かい、残りの3人はソファに座る。
 暖炉を模したガスストーブが赤々と燃えている。
 温度も雰囲気も暖かいのだが、やはりマリアには違和感があった。

 マリア:「誰かにどこかで見られてる気がしないか?」

 マリアは勇太に耳打ちした。

 勇太:「えっ?いや、別に……。防犯カメラとかじゃないですか?」
 マリア:「なワケないだろう」
 勇太:「イリーナ先生や他の魔道師さんが、僕達の動向を見ているとか?」
 マリア:「いや、それとは違う。……何だろう?あの時みたいな……」
 勇太:「あの時?何ですか?」

 しかしそこへ宗一郎が戻ってきた。
 ルームキーを持った大森も来る。
 大森はペンションの概要などを説明した。
 食堂が1階にあり、今夜の夕食や明日の朝食はそこで出るという。
 また、フロント脇の通路の奥へ行くと大浴場があり、そこで温泉にも入れる。
 部屋に関してはオートロックにはなっていない。
 また、ペンションでは客室にトイレすら付いていない場合が多いが、ここでは部屋によってはシャワーが付いている部屋もあるという。
 あいにくと、勇太達に割り当てられた部屋には無いようだが。
 尚、客室はツインと、それにエキストラベッドを加えたトリプルがある。
 シングルは無い。
 勇太の両親は問題無いが、まだそういう関係ではない勇太とマリアは別々にされた。

 勇太:「僕の部屋はここですね」

 吹き抜けの階段を上がり、稲生は205号室に入った。

 勇太:「205系だ」

 マリアとは隣り合わせの部屋であるが……。

 勇太:「…………」

 部屋に入った時、勇太もまた違和感を覚えた。
 部屋にはトイレと洗面台がある。

 稲生:(何か、肩が重いなぁ……。ま、部屋を替えてもらうほどのものではないか)

 試しに洗面台の鏡を覗いてみたり、トイレの個室を覗いてみたが、その時点で変なモノが現れることは無かった。

 稲生:(なるほど。マリアさんが言ってたのはこのことか。でもまあ、ここにはいないみたいだな……。この霊気を放つ者はどこか別の場所にいて、そこから漂って来てるって感じか……)

 稲生は空いているベッドの横に荷物を置き、ライティングデスクの上には水晶球を置いた。
 今のところ、水晶球が何か警鐘を発することはない。
 なので、特段気にする必要は無いのだろう。
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“大魔道師の弟子” 「家族旅行当日」 2

2017-01-10 21:14:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日13:44.天候:雪 JR山形駅]

 大宮からでも3時間以上掛かる山形駅。
 雪国育ちのマリアにとって、雪景色はけして物珍しいものではなかった。
 ただ、こんな中を雪煙を上げて高速列車が走行していく車窓が珍しかった。
 尚、ダンテ一門の多く占めるロシア系達にとっては珍しいことだという。
 真冬のシベリアが極寒なのは言わずもがな、しかし雪は降らない。
 ガッチガチに凍るだけ。
 マリアを“魔の者”からなるべく遠ざける為と称して、極東の国・日本まで来たイリーナだったが、最初は雪を珍しがっていたものの、そのうち嫌になってロシアに帰ろうか迷ったくらいだそうである。
 結局、“魔の者”(の手先)は日本にまでやってきた為、あまり意味が無かった。
 今は原点回帰なのか何だか分からないが、再びヨーロッパにいる魔女にスポットを当て直したもよう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、山形です。山形新幹線、大石田、新庄方面、山形線、仙山線、左沢(あてらざわ)線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 勇太:「やっと着いた。てか、雪だぁ……」
 宗一郎:「そりゃそうだよ」

 父親の宗一郎が息子の感想に苦笑いした。
 荷棚から荷物を下ろす。
 勇太はマリアの分も下ろした。

 マリア:「アリガトウ」
 勇太:「いえいえ」

 マリアは自動翻訳魔法を切っていた。
 日本語では硬い表現となって勇太の耳に入るマリアの言葉。
 マリアとしてはそんなに硬い表現をしているつもりはないのだが、どうも直訳される場合が多いらしく、場合によってはイメージダウンになる恐れがある。
 そこでマリアは、勇太の両親の前では素の英語または自力で(少し勇太も教えた)学んだ片言の日本語を使うようにしている。

 列車は切り欠きホームの1番線に入線した。
 これは行き止まりのホームになっており、山形駅止まりの列車が使用する。
 そしてまた今度は山形駅始発の上り列車として運転されるわけである。

〔やまがた、山形、山形。ご乗車、ありがとうございました。……〕

 県庁所在地の駅なので、周辺の駅と比べれば規模は大きい。
 だが、そこは地方の駅。
 大規模というわけではないが、それでも駅構内が賑やかなのは、ディーゼルカーも発着しているからだろう。
 列車を降りた乗客達は、冷たい風の歓迎を受けることになった。

 勇太:「父さん、駅からは何で行くの?」
 宗一郎:「バスだな。駅から蔵王温泉までのバスが出ていると聞いた」
 勇太:「あんまり本数は多く無さそうだなぁ……」
 宗一郎:「スキーシーズンなんだから、それなりにあるだろう」
 勇太:「どうかなぁ……?」

 勇太は首を傾げた。
 そして、その予感は当たっていたのである。

 勇太:「……だろうねぇ……」

 山形駅の正面は東口。
 その駅前にバスプールがある。
 そこの1番乗り場から蔵王温泉行きのバスが出ているのだが、本数は1時間に1本ほど。
 次のバスは14時20分である。

 宗一郎:「これは何という……!」
 勇太:「取りあえず、乗車券買ってこよう。てか父さん、そこの案内所の中で休めるんだけどね」
 宗一郎:「なにっ?よく知ってるなぁ……」
 勇太:「冬休みに大学の合宿で行ったからね」
 宗一郎:「そんなこと聞いてないぞ?」
 勇太:「うん、言ってないもん」
 マリア:「プッ……!」

 マリアは稲生親子の会話に吹き出してしまった。

 マリア:「あっ、ごめんなさい!つい……
 宗一郎:「いいんだよ。低レベルの会話で申し訳ない

 宗一郎は勇太に向き直る。

 宗一郎:「言ってないとはどういう……あれ?どこ行った?」
 佳子:「案内所にバスのキップ買いに行ったよ」
 宗一郎:「逃げ足の速いヤツだ。ったく、誰に似たのやら……」
 マリア:(いいなぁ……。私の両親も、あんな感じだったら……今頃、魔道師なんかやってなかっただろうに……)

[同日14:20.天候:曇 JR山形駅前パスプール→山交バス車内]

 ようやくバスが来たが、明らかな旅行客は意外にも少なかった。
 スキー客は温泉利用と兼ねているだろう。
 そんな観光客は、こんな中途半端な時間に向かおうとは思わないだろう。
 午前中には現地に到着して、1日スキーを楽しみ、夕方に宿泊先に入るのがベタな法則であろう。
 だから稲生家+αのように、温泉だけ向かうという例は少ないのかもしれない。
 その代わり、多かったのは地元の利用者だ。
 いくら特急バスと銘打ったところで、特急料金を取るわけではないし、それなりに途中のバス停にも止まるわけだから、地元の利用者も多いのである。
 しかし、そこは乗車券も発行される特急バス。
 使用車両は一般の路線型ではなく、トイレの無い高速バスタイプだった。
 乗車券は持っているが、運賃後払いの為、整理券も取ってしまった勇太。
 まあ、SuicaやPasmoを当てようとしなかっただけマシか。
 乗り込んで後ろの方の席に座る。
 席順は新幹線の時とだいたい一緒。
 荷物は再び荷棚に乗せる。
 乗客の8割方は地元民っぽいと思われる中、バスは再び小雪が舞ってきた中を出発した。
 車内は暖房が効いているので、マリアはローブを脱いだ。
 その代わり、これを膝の上に置いて膝掛け代わりにする。
 ストッキングははいているが、下がスカートなのでやはり足元が寒いのだろう。

 マリア:「どのくらいで着くの?」

 マリアが勇太にそっと耳打ちした。
 その吐息が耳に掛かった勇太は少しドキッとしながらも、

 勇太:「だいたい、40分くらいです」

 と、答えた。
 バスは除雪されている市街地の中をまずは突き進んだ。
コメント (5)
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