石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計レポート2012年版解説シリーズ:天然ガス篇5 生産量(3)

2012-07-23 | その他

本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。

http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0233BpGas2012.pdf

 

(シェールガス革命で生産量が急増する米国!)

(4)主な国の生産量の推移(2000~2011年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-2-G03.pdf参照)
 天然ガス生産量世界1-3位の米国、ロシア、カナダに加えカタール(世界5位)、トルクメニスタン(世界14位)、英国(世界19位)及びオーストラリア(世界20位)の7か国について2000年から2011年までの生産量の推移を見てみる。

 2000年に生産量5,432億㎥で世界1位であった米国はその後じり貧状態となり2002年には世界一の座をロシアに譲った。しかし2005年を底に同国の生産量は急上昇し2009年にトップに返り咲いた後も年率8%の高度成長を続け、2011年の生産量は6,513億㎥に達している。2005年以降の米国の生産量が急速に増加したのはシェールガスの生産が商業ベースに乗ったことが大きな理由である。

 一方のロシアは2000年の生産量5,285億㎥はその後徐々に増加したが、2006年以降は6,000億㎥前後で停滞している。これは同国の輸出先である西ヨーロッパ諸国の景気が2008年のリーマンショック後現在も冷え込んでいることが最大の要因である。ロシアの天然ガスはパイプラインで西ヨーロッパに送られており、備蓄が効かないパイプライン輸送は末端の需要に左右されやすいと言える。一方需要側の西ヨーロッパ諸国にとってはエネルギー安全保障の観点からロシア依存の脱却及び調達ルートの多角化が喫緊の課題となっている。現在、ロシアは国内ガス田の開発に積極的に取り組んでいるが、最新技術を必要とする北極海の開発に必要な欧米の国際石油企業との合弁事業が遅れ気味であり、実際の生産に寄与するにはまだ時間がかかりそうである。ただいずれにしろ天然ガスの生産において米国とロシアは圧倒的な存在感を持っており今後もこの2カ国が世界の天然ガス生産をリードしていくことは間違いない。

 カナダは米国、ロシアに次ぐ世界第3位のガス生産国であるが2008年以降、生産量は大きく落ち込み2011年の生産量は1,605億㎥である。同国の生産量の減少は同時期の米国の生産量増加と軌を一にしたものである。即ち同国は生産したガスの多くをパイプライン網を通じて米国に輸出してきたが、上記のとおり米国では天然ガスの生産が急増し自給率が向上した結果カナダからの輸出が減少しているのである。但しカナダは豊富な埋蔵量を有しており十分な生産余力があると考えられる。従って今後はパイプラインだけではなくLNGとして日本など極東向けの輸出に力を注ぐことになろう。

 カナダと同様生産量が長期下落傾向にあるのが英国である。同国の2000年の生産量は1,084億㎥であったが、2011年には452億㎥に落ち込んでいる。同国の場合は北海油田が枯渇しつつあり、原油と共に産出される随伴ガスの生産量も減少しているためでありカナダの場合とは事情が異なる宿命的な問題と言える。同国はLNG受け入れ基地を建設しカタールから輸入を開始したほどである。

 これに対してカタールは近年生産が急増しカナダに肉迫している。同国の2000年の生産量は237億㎥でカナダの1/8に過ぎなかったが、2011年には1,468億㎥に達しカナダと肩を並べるに至った。カタールの場合殆どをLNGとして輸出している。LNG輸出には大規模な液化及び出荷設備が必要であるが、同国は積極的な設備投資を展開、年間77百万トンの輸出体制を整えており、これが生産急増の要因である。

 オーストラリアはカタールの後を追うように近年ガス田開発と液化設備の建設を行っており、また日本などとの長期契約によりLNGの販売体制を確立、今後生産量は順調に増加するものと考えられる。またトルクメニスタンはガス田の発見が相次ぎ埋蔵量は4年間で8倍に急増している(前章「埋蔵量」1-(4)参照)。同国は中央アジア内陸部にあるため輸出パイプラインの整備が課題であるが、中国が注目しており、今後輸出の条件が整えば生産量は更に増加することは間違いないであろう。

(天然ガス篇生産量 完)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
   Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
   E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

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BPエネルギー統計レポート2012年版解説シリーズ:天然ガス篇5 生産量(3)

2012-07-23 | その他

(シェールガス革命で生産量が急増する米国!)

(4)主な国の生産量の推移(2000~2011年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maeda1/2-2-G03.pdf参照)
 天然ガス生産量世界1-3位の米国、ロシア、カナダに加えカタール(世界5位)、トルクメニスタン(世界14位)、英国(世界19位)及びオーストラリア(世界20位)の7か国について2000年から2011年までの生産量の推移を見てみる。

 2000年に生産量5,432億㎥で世界1位であった米国はその後じり貧状態となり2002年には世界一の座をロシアに譲った。しかし2005年を底に同国の生産量は急上昇し2009年にトップに返り咲いた後も年率8%の高度成長を続け、2011年の生産量は6,513億㎥に達している。2005年以降の米国の生産量が急速に増加したのはシェールガスの生産が商業ベースに乗ったことが大きな理由である。

 一方のロシアは2000年の生産量5,285億㎥はその後徐々に増加したが、2006年以降は6,000億㎥前後で停滞している。これは同国の輸出先である西ヨーロッパ諸国の景気が2008年のリーマンショック後現在も冷え込んでいることが最大の要因である。ロシアの天然ガスはパイプラインで西ヨーロッパに送られており、備蓄が効かないパイプライン輸送は末端の需要に左右されやすいと言える。一方需要側の西ヨーロッパ諸国にとってはエネルギー安全保障の観点からロシア依存の脱却及び調達ルートの多角化が喫緊の課題となっている。現在、ロシアは国内ガス田の開発に積極的に取り組んでいるが、最新技術を必要とする北極海の開発に必要な欧米の国際石油企業との合弁事業が遅れ気味であり、実際の生産に寄与するにはまだ時間がかかりそうである。ただいずれにしろ天然ガスの生産において米国とロシアは圧倒的な存在感を持っており今後もこの2カ国が世界の天然ガス生産をリードしていくことは間違いない。

 カナダは米国、ロシアに次ぐ世界第3位のガス生産国であるが2008年以降、生産量は大きく落ち込み2011年の生産量は1,605億㎥である。同国の生産量の減少は同時期の米国の生産量増加と軌を一にしたものである。即ち同国は生産したガスの多くをパイプライン網を通じて米国に輸出してきたが、上記のとおり米国では天然ガスの生産が急増し自給率が向上した結果カナダからの輸出が減少しているのである。但しカナダは豊富な埋蔵量を有しており十分な生産余力があると考えられる。従って今後はパイプラインだけではなくLNGとして日本など極東向けの輸出に力を注ぐことになろう。

 カナダと同様生産量が長期下落傾向にあるのが英国である。同国の2000年の生産量は1,084億㎥であったが、2011年には452億㎥に落ち込んでいる。同国の場合は北海油田が枯渇しつつあり、原油と共に産出される随伴ガスの生産量も減少しているためでありカナダの場合とは事情が異なる宿命的な問題と言える。同国はLNG受け入れ基地を建設しカタールから輸入を開始したほどである。

 これに対してカタールは近年生産が急増しカナダに肉迫している。同国の2000年の生産量は237億㎥でカナダの1/8に過ぎなかったが、2011年には1,468億㎥に達しカナダと肩を並べるに至った。カタールの場合殆どをLNGとして輸出している。LNG輸出には大規模な液化及び出荷設備が必要であるが、同国は積極的な設備投資を展開、年間77百万トンの輸出体制を整えており、これが生産急増の要因である。

 オーストラリアはカタールの後を追うように近年ガス田開発と液化設備の建設を行っており、また日本などとの長期契約によりLNGの販売体制を確立、今後生産量は順調に増加するものと考えられる。またトルクメニスタンはガス田の発見が相次ぎ埋蔵量は4年間で8倍に急増している(前章「埋蔵量」1-(4)参照)。同国は中央アジア内陸部にあるため輸出パイプラインの整備が課題であるが、中国が注目しており、今後輸出の条件が整えば生産量は更に増加することは間違いないであろう。

(天然ガス篇生産量 完)

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