(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー (前田高行論稿集)」で一括ご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0231BpOil2012.pdf
(中国は石油の自給率が年々低下、一方米国は改善の兆し!)
(5)石油自給率及び輸出余力の変化(1985年~2011年)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/1-3-G04.pdf 参照)
石油生産国の中でも人口が多く産業規模の大きな国は同時に多くの石油を消費する。例えば米国と中国はそれぞれ世界3位と5位の産油国であるが、米国は1965年以前から既に石油の輸入国であり、中国は1990年代前半に輸入国に転落している。米国の場合2011年は生産量784万B/Dに対して消費量は1,884万B/Dであり、差し引き1,100万B/Dの需要超過で石油自給率は42%となる。1965年に78%であった米国の石油自給率は年々低下し1990年代には50%を切り、そして2000年代は40%を割るなどほぼ一貫して低下してきた。しかし同国の自給率は2007年の33%を底に改善しつつあり、2010年は39%、2011年には40%を超え42%にまで上昇していることは注目に値する。
中国の場合、1992年までは生産量が消費量を上回り自給率100%であったが、その後純輸入国に転じている。しかも生産と消費の不均衡は年々広がり、2000年に151万B/Dであった需給ギャップは2011年には567万B/Dに拡大している。この結果2000年には68%であった自給率も急速に悪化し、2007年に50%を割り、2011年は42%となっている。これは上記に示した米国の自給率と同じである。
ブラジルは米国、中国と同様常に生産量が消費量を下回っており石油の輸入国である。しかし同国は深海油田の開発に成功し埋蔵量が大幅にアップしており(第1章3項「8カ国の石油埋蔵量の推移」参照)、これに伴って生産量も急増している(第2章4項「主要産油国の生産量の推移」参照)ことから自給率は大幅に改善されている。即ち20世紀末までの同国の自給率は50%を切っていたが、2005年以降の自給率は80%を超え、2011年は83%である。深海油田の開発生産が軌道に乗ればブラジルは近い将来石油輸出国の仲間入りをすることはほぼ間違いないであろう。
米国、中国、ブラジルに比べ同じ産油国でもサウジアラビア、ロシア及びイランは生産量が国内消費量を上回り輸出によって外貨を稼いでいる国である。これら3カ国の2005年の生産量と消費量のギャップ(生産-消費ギャップ)はそれぞれサウジアラビアが906万B/D(生産:1,103万B/D、消費:197万B/D)、ロシア682万B/D(同944万B/D、262万B/D)、イラン249万B/D(同418万B/D、170万B/D)であった。これは各国の生産量の82%、72%及び59%に相当する(以下「輸出比率」)。その後3カ国は対照的な歩みを見せており、サウジアラビアの生産-消費ギャップは年々上がり2005年には906万B/Dに達しその後徐々に低下して2011年は831万B/Dとなっている。なおこの間の輸出比率は70%台を維持し続け、2011年のそれは74%である。
ロシアはソビエト革命以後の1990年代に生産が大幅に落ち込んだ。その後生産は徐々に回復し2005年以降は生産-消費ギャップが革命前の水準に戻り輸出比率も71~73%で推移し、サウジアラビア(上記)と同じ水準である。
イランの生産と消費のギャップは1995年以降ほぼ250万B/Dで推移している。しかし輸出比率は1995年~2000年までは60%半ばであったが、2005年以降は60%を切り、2011年のそれは58%であった。これはこの間の同国の生産量の増分が国内消費に食われていることを意味している。またイランの輸出可能量が250万B/Dで横這いしていることは毎年の歳入が油価に左右されることを意味している。同国がOPECの中で強硬派と呼ばれ石油価格を高値に誘導しつつ、一方では割当生産枠を超えて生産する協定破りの常習犯であるのはこのような石油の生産と消費に関する同国の国内事情があるためである。なお同国は核開発疑惑を巡る石油禁輸措置により7月以降の輸出が大幅に減少しているが、今回のレポートは未だその影響が現れる以前のものである。
(石油篇完)
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