石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (6)

2020-07-30 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
http://www.bp.com/en/global/corporate/energy-economics/statistical-review-of-world-energy.html

2.世界の天然ガスの生産量(続き)
(縮まるカタールとオーストラリアの差!)
(3)主な国の生産量の推移(2009~2018年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-2-G03.pdf 参照)
 2019年の天然ガス生産量が多い5カ国(米国、ロシア、イラン、カタール及びオーストラリア)について2010年から2019年までの過去10年間の生産量の推移を追ってみる。

 2010年の生産量はロシアが最も多く5,984億㎥であり、これに次ぐのが米国の5,752億㎥であった。しかし2011年にはトップが入れ替わり、以後米国の生産量はロシアをしのいでいる。しかも両国の差は2017年以降拡大しており、2019年の米国の生産量はロシアの1.4倍の9,209億㎥である。

ロシアの天然ガスはパイプラインで西ヨーロッパに輸出されており、備蓄が効かないパイプライン輸送は西ヨーロッパの好不況に左右されやすいと言える。このためロシアはシベリアから中国へのパイプライン輸出に力を入れ、また北極圏ヤマルから北極海を経由した極東あるいは西ヨーロッパへのLNG輸出を目指している。一方米国はシェールガス増産により輸出余力が生まれており、アジア、欧州向けのLNG輸出を模索している。今後しばらくは天然ガス輸出による米露両国のトップ争いが続きそうである。

 イランとカタールとオーストラリアの2019年の天然ガス生産量はいずれも2010年を上回っており、各国の増加率はそれぞれ1.7倍、1.5倍、2.8倍であるが、そこには各国特有の事情が見られる。イランの場合は経済制裁の為海外輸出が制約され、国内消費に向けられている。2010年以降の生産増は発電用燃料、自家消費などの増加によるものと考えられる。これに対してカタールはLNGの輸出国であり、早くにLNG年間77百万トンの輸出体制を整えたが、2005年にはLNG生産能力凍結(モラトリアム)を宣言している。この結果、2010年代のLNGの需要増に対応できずオーストラリアなど新たに天然ガス田を開発し、LNG輸出能力を高めた国に市場を奪われシェアは減少傾向にある(詳しくは後述する第4章天然ガス貿易を参照)。なおカタールは2017年にモラトリアム宣言を撤回、生産能力の増強に舵を切っており、LNG年産1.2億トン体制を目指している。

 オーストラリアは近年ガス田開発と液化設備の建設を積極的に行っている。2010年の生産量は540億㎥であったが、2017年にはついに1千億㎥を突破して2019年の生産量は1,535億㎥に達している。日本などとの長期契約によりLNGの販売体制を確立、LNGの生産出荷施設も相次いで建設されており今後生産量はさらに増加するものと考えられる。

 カタールとオーストラリアの格差はここ数年急速に縮まっており、2015年にはカタールの生産量はオーストラリアの2.3倍であったが、2019年の格差は1.2倍である。オーストラリアのLNG設備が続々と稼働し始めたため、今後数年で両国の生産量が逆転する可能性は高い。但しカタールも設備増強に着手しており、米、露、イランに次ぐ生産量4,5位争いは激しくなりそうである。

(天然ガス篇生産量 完)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601 
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石油と中東のニュース(7月30日)

2020-07-30 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(石油関連ニュース)
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