石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

埋蔵量が増えても可採年数は減少:BPエネルギー統計2020年版解説シリーズ天然ガス篇 (2)

2020-07-22 | BP統計
BPが毎年恒例の「BP Statistical Review of World Energy 2020」を発表した。以下は同レポートの中から天然ガスに関する埋蔵量、生産量、消費量、貿易量及び価格のデータを抜粋して解説したものである。
 *BPホームページ:
https://www.bp.com/en/global/corporate/news-and-insights/press-releases/bp-statistical-review-of-world-energy-2020-published.html

1. 世界の天然ガスの埋蔵量と可採年数(続き)
(昔も今も中東とロシア・中央アジアが二大埋蔵地域!)
(3)地域別の埋蔵量推移(1990年~2019年)
(図http://bpdatabase.maeda1.jp/2-1-G03.pdf 参照)
 埋蔵量の推移を地域別に見ると、1990年は中東地域が世界全体の34%を占め最も大きく、次いでロシア・中央アジア地域が32%であり、この2地域で世界の埋蔵量の3分の2を占めていた。2000年以降この2地域の占有率は7割を超えており、2019年末はそれぞれ38%と32%である。1990年に比べると中東地域の占有率が4ポイント上がっている。

その他の地域では1990年のシェアはアフリカ9%、北米、アジア大洋州各8%、中南米及び欧州が各5%であった。2019年のシェアはアジア・大洋州9%、アフリカ、北米各8%、中南米4%、欧州2%であり、1990年に比べると欧州のシェアが大幅に下落、アジア・大洋州が1ポイント上がっている。北米の埋蔵量は1990年の9.2tcmから2019年には1.6倍の15tcmに増加しているが、世界に占めるシェアは8%で変化は無い。

1990年から2019年までの埋蔵量の伸び率はアジア・大洋州が2.1倍と最も高く、中東も2倍を超え、世界全体の伸び率1.8倍を上回っている。これに対して欧州の埋蔵量は1990年の5.2tcmから2019年には3.4tcmに減少している。過去30年間で埋蔵量が減少したのは欧州地域だけである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp

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見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(41)

2020-07-22 | その他
(英語版)
(アラビア語版)

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)

5.歴史に取り残されるパレスチナ問題

 ヒジュラ暦1400年(西暦1980年)前後から10年余りの間に、中東イスラーム世界ではエジプト・イスラエル平和条約及びホメイニ師によるイラン革命(共に1979年)、イラン・イラク戦争の勃発と終結(1980年、1988年)、ソ連のアフガニスタン侵攻と撤退(1980年、1989年)等々の大事件が続発した。そして世界の歴史も20世紀の終焉を控えて激動した。1980年代に入りソビエト社会主義体制に綻びが目立ち始めた。それは資本主義国家と踵を接する地域で表面化した。1987年にベルリンの壁が崩壊、2年後の1990年に東西ドイツが統一したことでソビエト体制の終焉は誰の目にも明らかになった。こうして1991年、ソ連は崩壊した。ソ連はヨーロッパで資本主義に敗退し、シルクロードでイスラームのジハード(聖戦)に敗れた。1917年のロシア革命で誕生し、いずれ社会主義が世界を支配すると豪語したソビエト社会主義共和国は80年足らずで歴史の舞台から消え去り、米国を頂点とする資本主義が世界を席巻する。

 激動する世界及び中東の歴史の中でパレスチナ問題は次第に影が薄くなっていった。第二次大戦後久しく中東問題と言えばパレスチナ問題であったが、アラブの盟主エジプトが1979年にイスラエルと単独和平を結んだことで問題に対する関心が急速に薄れた。ヨーロッパ諸国はサダトとベギンにノーベル平和賞を与えることでこの問題が永久に解決されたかのごとき幻想をふりまいた。しかし決してユダヤ人によるパレスチナの土地の占領という問題そのものが解決されたわけではなかった。

そもそもパレスチナの土地をユダヤ人に与えるというバルフォア宣言は、第一次大戦の勝利を金銭面で支援したユダヤ人に対する報酬であり、また歴史的なユダヤ人抑圧に対するヨーロッパ人の贖罪であった。と同時にバルフォア宣言はこれからもヨーロッパ白人社会を脅かしかねないユダヤ人を遠いパレスチナに厄介払いするというまさに一石三鳥の妙案だったのである。

 だがパレスチナ人にとってはエジプトとイスラエルが和平条約を締結し、サダトとベギンがノーベル平和賞を受賞しても問題は何も解決したことにならなかった。ユダヤ人たちがパレスチナ帰還のために掲げたスローガン「土地無き民に、民なき土地を」の後段「民なき土地を」と言うのはあまりにも身勝手な発想であった。2千年前にユダヤ人がディアスポラ(大離散)でヨーロッパ各地に移住して以降もその地に住み続けてきたパレスチナ人の歴史を完全に無視したものだったからである。

 パレスチナ人たちはイスラエル独立後も土地の返還を求めパレスチナ国家建設のため戦った。アラブ諸国はパレスチナ人を積極的に支援し軍事行動まで起こした。しかしそれも1973年の第四次中東戦争までだった。エジプトが単独和平で支援の輪を抜け、他のアラブ諸国はエジプトを非難したが、パレスチナに新たな手を差し伸べる国はなかった。パレスチナは大転換する世界と中東の歴史の中に取り残されたのである。

 もちろんパレスチナ人たちは黙って手を拱いていたわけではない。レバノン南部のイスラエル国境近くに本拠を構えたPLO(パレスチナ解放機構)はレバノン政府が内戦で機能不全に陥っているのを幸いにイスラエルに対して国境を越えた執拗な攻撃を繰り返した。これに対してイスラエルも戦闘機によりパレスチナ難民キャンプにあるPLO司令部を爆撃した。軍事作戦ではPLOは到底イスラエルにかなわない。1982年、とうとうPLOはレバノンを撤退しチュニジアに逃れた。

 ヨルダン川西岸やガザ地区に住むパレスチナ人たちは先の見えない状況に置かれた。それでも彼らはイスラエルに対する抵抗運動を止めなかった。わずかな武器弾薬のほかに何も持たないパレスチナ人たちが抵抗の証に手にしたのは「石つぶて」であった。彼らはデモ鎮圧を図るイスラエル兵士と戦車に向かって石を投げて抵抗の意思を示したのである。それは「牛車に歯向かう蟷螂(カマキリ)」のたとえ通り絶望的な抵抗運動であったが彼らに残された手段はそれしかなかった。それが1987年に始まった「(第一次)インティファーダ」である。石つぶてで圧制者に抵抗するパレスチナ人と、これに最新兵器で立ち向かうイスラエルの争いは国際世論の目を引き、イスラエル非難の声があがった。

 ノルウェーが調停に乗り出し1993年、イスラエルとPLOはオスロ合意を締結、両者が相互を承認するという歴史的な成果を上げた。これにより翌1994年、PLOのアラファトおよびイスラエルのペレスとラビンはノーベル平和賞を受賞するのである。ただし結論から先に言えば、翌年右翼のユダヤ人によりラビンが暗殺され両者の平和は結局幻に終わるのである。それは1978年にエジプトのサダトとイスラエルのベギンがノーベル平和賞を受賞したとき、3年後にサダトが暗殺された事件の再現であった。「ノーベル平和賞」は中東和平に関する限り、恒久的な平和がもたらされたからではなく、世界の人々、特にヨーロッパの知識人たちの中東の平和に対する期待感によるものでしかなかったのである。

(続く)

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
荒葉一也
E-mail; areha_kazuya@jcom.home.ne.jp
携帯; 090-9157-3642

第5章:二つのこよみ(西暦とヒジュラ暦)

荒葉 一也
E-mail: areha_kazuya@jcom.home.ne.jp

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石油と中東のニュース(7月22日)

2020-07-22 | 今日のニュース
(参考)原油価格チャート:https://www.dailyfx.com/crude-oil
(コロナウィルス関連ニュース)
・オマーン、7/25-8/8まで全国でロックダウン。Eid休暇の集会は禁止

(石油関連ニュース)
・原油価格着実に回復、Brent $44.89。4月の底値の2倍に、中国が旺盛な買い付け
・イラク、7月原油輸出増加。OPEC+の協調減産枠を超える水準

(中東関連ニュース)
・サウジ、7/31日にEid holiday開始、公共部門は7/24-8/8、民間部門は7/30-8/2まで休日
・サウジアラビア:サルマン国王、胆嚢炎手術で入院、経過良好の模様
・イラク首相、就任後初の外国訪問。イラン・ロウハニ大統領と会談
・サウジ、キング・サルマン・エネルギー・パーク(SPARK)第一期工事60%完成。横河など15社が進出
・S&P:GCCの今年の公的負債、1,800億ドル、1,000億ドル借入、800億ドルは資産取り崩し
・国連E-GovtランクでUAEが飛躍的な順位向上、アラブ地域ではトップ



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