石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 ― 中東の戦後75年(59)

2023-10-02 | 中東諸国の動向

(英語版)

(アラビア語版)

 

(目次)

 

第2章 戦後世界のうねり:

 

059第三次中東戦争とナセルの死(3/3)

ナセル大統領は敗戦の責任を取って6月9日夜あらゆる公職からの辞任を表明した。しかしエジプト国民のナセルに対する思いは敗戦で消えるどころか、むしろエジプトを救えるのはナセルしかいないという熱思いが噴出した。辞任表明の直後からカイロ市民はナセルの翻意を求め街頭に繰り出してデモ行進を始めた。真っ暗な灯火管制の中で巨大な群衆の渦が生まれた。辞任表明からわずか3時間半後、ナセルは問題を国民議会の決定に委ねるとの声明を発表した。翌10日早暁、国民議会はナセルに国家元首としてとどまるよう要請し、ナセルは大統領職を続けることになったのである。

 

8月、アラブ諸国はスーダンのハルツームでアラブ首脳会議を開き、三つのノー(No)と呼ばれるイスラエルに対する強硬路線を採択した。すなわち「ユダヤ人国家は承認しないというNO」、「イスラエルとは交渉しないというNO」、そして「アラブとイスラエルの和平はNO」と言う居丈高な宣言であった。実はエジプトもヨルダンも米国を仲介役とする話し合いでイスラエルから領土を取り戻したいと願っていたが、虚勢としか言いようのないアラブ各国首脳の掛け声に押し流されたのである。

 

ナセルはその後3年近く大統領の座を保ったが、本人自身がレームダック(死に体)であることを最も良く理解していたに違いない。1970年8月、イスラエルとの停戦を実現すると、その翌月現職大統領のまま52歳の若さで心臓発作により急死したのであった。

 

(続く)

 

 

荒葉 一也

E-mail: Arehakazuya1@gmail.com

 

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グローバルサウスに傾斜する中東北アフリカ諸国(MENAの多国間関係)(15)

2023-10-02 | 中東諸国の動向

4. 経済・金融連携

 

(ドル一極支配の打破を狙うが理念倒れ!)

4-5. ACU(アジア決済同盟)

 アジア決済同盟(Asian Clearing Unit, ACU)は、1974年にイラン、インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパール及びスリランカの南西アジア6カ国で結成された多角的貿易決済機構である。その後、ブータン、モルディブ及びミャンマーが参加し、イランがリーダーである。

 

 ACUの理念は(1) 域内貿易の拡大,(2) 加盟国間の外貨の節約,(3) 域内通貨の使用促進と加盟国間の金融協力の促進にあり、世界金融がドル一極支配となっている現状を打破しようとする姿勢が強い。加盟各国の中央銀行は,イラン中央銀行に設置されるクリアリング・ハウス(Clearing House)に自己勘定を開設し,輸出入の決済を自国通貨で記帳し,定期的 (4週間の決済期間) に清算する仕組みである。

 

 イランは米国の経済制裁でドルによる国際決済方式(SWIFT)から排除され、非ドル現地通貨の決済手段を導入することに懸命である。今年5月にイランのテヘランで開催されたACU中央銀行総裁会議でイラン中央銀行ファルジーン総裁は、会議の中心議題は米ドルの排除である、と明言している。但し加盟国の反応は乏しくACUそのものは機能不全に陥っていると言えそうである。

 

(続く)

 

 

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