ウィンザー通信

アメリカ東海岸の小さな町で、米国人鍼灸師の夫&空ちゃん海ちゃんと暮らすピアノ弾き&教師の、日々の思いをつづります。

またまた歯のお話と、ちょこっとホタル

2023年08月20日 | 日本とわたし
多分、日本で暮らし続けていたら、ここまで深く後悔しなかったかもしれない。
日本なら国民健康保険があるし、国民健康保険ならほとんどの治療の支払いを補ってくれる。
ここみたいに歯と目は含まれてません、などと無情なことも言わない。
しかも全国津々浦々、どこの病院でも医者でもオッケーで、救急車に15万円の請求が送られてきたりもしない。
アメリカは歯科治療技術の最先進国と言われているらしいけれど、治療のために年に50万から80万円もの大金を払わねばならないことが、どう考えても納得できない。
そもそも、一体なぜ、耳と鼻は保険適応で、歯と目は適応外なのか。
こんな馬鹿げたことを、いつ、どこの誰が決めたのか?

50歳を過ぎたあたりから、わたしの歯は悪化し始めた。
エナメル質の部分は屈強なのに、象牙質の部分は脆弱。
だからなのか外見だけだと全く問題がなさそうに見えるので、よほどこちらから訴えないと医者が相手にしてくれない。
しかもレントゲンにも引っかからないステルス虫歯がわたしの歯にはあるらしい。
経済的に厳しい時期は、めまいがするほどの痛みも、正露丸を潰したのを詰めて誤魔化しながら耐えた。
耐える期間が1ヶ月近く続くこともあった。
息子たちが自立してからぼちぼちと治療を受け始めたのだけど、誤魔化していた間にしっかりと悪化してしまっていた虫歯の治療は、どれもこれもが大掛かりなものになった。

後悔先に立たず。
そもそもどうしてこんな不健康な歯になったのか。
高校時代に、コーラの1リットルボトル全部とマクビティの胚芽ビスケットの一袋全部を、毎日のように食べていたからか?
長男くんがお腹の中で育っていた時、産む直前まで、常時のど飴を口の中に入れていた(そうしないと吐きそうになるからだった)からか。
物語を熱心に書いていた時、Trader Joe'sの特大板チョコ(500g)を、制限なく食べていたからか。
手指の関節炎に悩まされてからは、チョコレート(白砂糖)とカフェインとアルコールを断ち、食の事情はすっかり変わったけれど、ここ10年はオーガニック専門の韓国食品店のゆず茶にハマり、季節に関係なくしょっちゅう飲んでいたからか。
それでも毎日の歯磨きは欠かしたことがないし、フロスもウォーターフロスを含めしっかりやってきたのに…。
わたしの母は88歳で虫歯はゼロ、32本とも全部自分の歯である。
それとは逆に父の歯はしっかりしていなかったような覚えがあるが、はっきりしたことはわからない。
もうすぐわたしは父が亡くなった年と同い年になる。

とにかくわたしは今後もずっと、モグラ叩きのように、ひょこひょこと顔を覗かせてくる虫歯を、大金を払ってやっつけていかなくてはならないのだろう。

というわけで、先週の木曜日はインプラントの中間治療に出かけて行った。
3月のはじめに古いインプラントの歯と支柱を撤去し、膿んでいた部分を徹底的に掃除し、骨移植をした。
その手術の翌日に、アホなわたしは友人たちとダイナーに行って、熱々のスパイシーなスープを飲み、熱々のフライドポテトを食べてしまったので、術後で弱っていた上顎を火傷して、治癒を大幅に遅らせてしまった。
目の前で美味しそうな料理を食べる友人たちに嫉妬して、柔らかな食べものならオッケーだからと、スープとポテトを頼んだのだけど、スープにはびっくりするほど唐辛子が入っていた。
そんなこんなで、6月だったはずの人工歯根の挿入日が延びに延びて一昨日になったわけだけど、またまた問題が発生した。
治療は朝の10時半から始まった。
やたらと痛い麻酔の注射針が5回、いつもだったら3回目あたりから痛みが軽減していくのに、今回のは5回ともぎゃ〜っと心の中で叫ぶほどの痛みだったが、これさえ我慢したらあとは痛みから解放されるのだからと言い聞かせた。
40分ぐらい口を開けていたが、今回は顔全体が細かく揺れるような削り作業もなく、傷口を縫う時の不快感も前回よりはマシだった。
治療後にいつもの禁止事項の説明を受け、いざ帰らんという時に、「次は2週間後に来院してください」と言われ、「え?それは無理です、今夏の最初で最後の旅行に行くので」と答えると、助手の人がぽかんとした顔になった。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ドクターに聞いてきますから」と言って、パタパタと治療室から出ていく後ろ姿を見ていると、どんどん嫌な予感が湧き上がってきた。
「本当は9月に入ってから予後の確認をしたいのだけど、仕方がないので26日に来てくださいとのことです」
「すみません、予後のことまで全く考えていなくて」
「あ、それと、今日から2週間以内は飛行機に乗らないでくださいね」
「え?12日後に飛行機に乗る予定なんですが…」
「ドクターに聞いてきます」と、2度目の退室。
「まあ、多分大丈夫でしょうということです」

そんなこんなの、不安な雲がモクモクと立ち込めてくる会話だったが、今更旅行の変更はできないのだから仕方がない。
帰る途中にあるTrader Joe'sやWhole Foods Marketに寄ろうと思っていたのだけど、出血がけっこう多くて、傷口に詰めたガーゼがすぐにボタボタになってしまい、さらに麻酔が切れるにつれて顔全体がガンガンと痛み始めたのでやめた。
家に戻り、レッスンが始まるまでに3時間近くあったので、ゆっくりと休めばなんとかなるだろうと思っていたら、2時過ぎに歯科医から電話がかかってきた。
「今日の6時にもう一度来院して欲しい」と言う。
なんで?
「6時はレッスンが入っているので無理です」と言うと、「じゃあ今からでもいいから来られるか」と言う。
「どうしてですか」と聞くと、「あなたが帰ってから考えていたんだけど、旅行でいろいろと予定が押されてしまうので、もう少し徹底的にしておきたいことがある」と言う。
「どうしても今日でないとダメなんですか?」「はい」
なんのこっちゃと思ったけれど、ついさっき治療をした本人が頼んでいるのだから、それを聞かないわけにはいかないではないか。
でも、レッスンまであと1時間半しかない。
病院までの往復に1時間強かかるので、なにをするつもりなのかはわからないが、30分弱で終わってくれないと困る。
その日は夫の休みの日だったので(休みといっても漢方薬の調合を何人分もしなくてはならないのだけど)、気分転換にもなるからと運転を買って出てくれた。
2度目もまたまた激しく痛い麻酔の注射をブスブスと打たれ、閉じた部分を開き、人工歯根を抜き、素人の想像ではあるけれど、さらに深く何かを削り、また人工歯根を挿入して傷口を縫った。
なんだかなあ…という気分で、しかもようやく治りかけていた痛みが戻ってきて、けれども今回は夫がくれた止血の漢方薬を飲んでいたからか出血はほとんど無く、帰りの車の中ではずっと目を閉じて休んでいた。
結局最初の生徒だけ翌日に移動してもらい、残りのレッスンをなんとかこなし、熱くもなく辛くもない卵粥を食べ、抗生物質のカプセルを飲んでその夜は寝た。

そして今日は2日目。
禁止されていた激しい運動とやらも解禁になり、痺れや痛みもほとんどなくなった。
また当分、好物のおかきもナッツも熱々のスープも豆腐チゲも食べられないけど、とにかく飛行機に無事乗りたいので我慢する。
今回が初めてでもないのに、こういう大掛かりな治療の2週間後は経過観察を徹底しないといけない、という常識がスポンと抜けていたことがなかなかに情けない。
けれども過ぎたことをクヨクヨ考えても何も変わらないし仕方がない。
なのでとにかく自己免疫力を高められるよう、よく寝てよく食べる(柔らかなもの限定だけど)、これを自分に言い聞かせて実行しようと思う。

時々紛れ込んでくるホタルさん。
今回もそおっと外に逃がした。