ちょっと前のことだけど、それからというものの、何度も思い出しては笑ってしまう話なので、書きとめておこうと思う。
6月のとある週末に、一泊二日で家を空けなければならなかった我々は、空と海の世話を息子夫婦にお願いした。
家を出発してから2時間ぐらいが経った頃、息子たちがうちの家の合鍵を持たずに出かけてしまったことがわかった。
どこかに合鍵を隠してあるかと聞かれたが、最近はそういうことはせずにご近所さんに合鍵を預けていたので、その人たちに連絡をした。
ところがどの家も外出していて、息子たちが駅に到着する時にはまだ戻らないことがわかったので伝えると、じゃあ映画でも観に行って時間を稼ぐと言う。
そこで思い出したのが、息子のこれ。
『我が家のスパイダーマン』
クライミングの上級者である彼にとって、レンガ造りの家の壁などお茶の子さいさい。
もしかして、鍵がかかっていない窓があるかもしれない。
すると夫が、僕の2階の寝室の一つが開いていると思う、と言うではないか。
さっそくそのことを息子に伝えると、とりあえず登れるかどうか見てみる、と言う。
けれども万が一の落下に備えて敷くマットも、クライミング用の靴も、滑り止めの粉も無く、しかも今回は鍵がかかっていないとはいえ、窓はしっかりと閉められている。
うちの1階は地面から半階高くなっているので、2階も当然その分高い。
そんな高さの、足場が極めて不安定な状態で、普通でも開けるのに一苦労する窓をどうやって開けられるのか。
そんなことをやってるうちに、バランスを崩して落ちたらどうするのか?
言ってしまったものの、良いような悪いようなアイディアに、わたしの心は壊れたやじろべえみたいにグラグラ揺れていた。
15分ほど経って…。
"What the fuck!"
「なんじゃこれ!」
「壁をよじ登って窓から部屋に入ったんやけど、俺が家の中から玄関ドアのとこまで降りてったら、ドアの鍵がかかってなくてすでに開いてたし。しかも鍵穴に鍵が刺さったまんまやったし」
という、ことの次第に呆れ返った彼の怒りのメッセージと共に、冒頭の写真が送られてきたのだった。
最新のiPhoneで撮ったにも関わらずピントが合っていないのは、彼のショックの大きさを表している。
彼らはただ何もせずに、玄関のドアをスルッと開けて入れたのだ、鍵穴に差し込まれたままの鍵を抜いて…。
なのに苦労して壁をよじ登って、とても重くて開けにくい窓をなんとか開けて…。
ああ、これ以上にピッタンコな『WTF』がこの世に存在するだろうか。
彼はこの罵声言葉を何万回でも叫ぶ資格がある。
しばらくはごめんごめんごめんと謝りまくったのだけど、申し訳なさと共に妙な感動がムクムクとわいてきて、その場面の息子の顔と声を想像するとやたらと可笑しくなってきて、運転中の夫と一緒に涙を流しながら大笑いした。
鍵をかけた(つもりでいた)のは夫だったので、全ては彼の大ボケが発端だったのだけど、一つ間違えば近所の人に泥棒と勘違いされて通報されていたかもしれないし、バランスを崩して大怪我を負う可能性だってあったわけで、
そう考えると笑っている場合ではないのだが、まあ何事もなく無事に済んだから笑えるわけで、無駄骨を折らされた息子には申し訳ないが、この話は誰にしても大ウケで、みんなで腹を抱えて笑わせてもらっている。
というわけで、ちょっとお裾分け。