鼎子堂(Teishi-Do)

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美青年のいる文学史⑬『近代能楽集・弱法師:三島由紀夫・著』

2012-08-08 22:54:36 | Weblog
湿度が低く、凌ぎやすい乾いた晴天。少し秋めいて。


このところ、少し間が空いてしまいましたが、久々の『美青年のいる文学史』。

「僕ってね、……どうしてだか、誰からも愛されるんだよ。」
俊徳の最後の科白(セリフ)。

5歳のとき、戦火の中で、両親とはぐれ、失明した俊徳ですが、彼が最後にみた風景は、戦火に染まる紅蓮の炎。
たぶん・・・太陽の沈む前の激しい夕焼けの色。

盲人の俊徳ですが、育ての親、そして、本当の両親を奴隷のように扱います。
たぶん・・・彼には、そうして奉仕してもらうのが、当然の人生。

裁判所の調停室で、二組の実の親と育ての親の親権を争う場で、調停役の桜間級子は、俊徳と面談しますが・・・彼女さえ・・・。

俊徳を愛してしまったようです。

三島由紀夫の描く独特の世界。
私は、この世界観を表現する言葉を知りません。
文字だけで綴られたこの短い短編の中で、形容できない世界。

しいていうなら、三島由紀夫が、割腹自殺したときに、発した稲垣足穂の発言。
『生きていた時から、首がないような気がしていた。』
・・・そのひとことにつきるような気がします。

文字であるにも関わらず、何故か、明瞭にヴィジュアル化(これは、私に限ったことなのですが)できるし、イメージも極めて明確なのに、どうしても、言葉にできない・・・深淵に潜む形容のしがたい何か・・・。たぶん、これは、私に表現力がないためなのだと改めて思うのですが・・・。

・・・どうしてだか、誰からも愛される僕・・・。
そう言い放つ俊徳は、たぶん、誰をも、愛さないし、愛せない。
愛されるけれど、愛さないし、愛せない・・・。

美青年は、それでいいのです。
それだからこその文学の中の美青年であり続けられるのです(・・・ってホントかよ?)。

最近の舞台では、岡本健一さんの俊徳が、印象的でしたね。