【416ページ】
「いらっしゃいませ!」
私はさっきと同じトーンで声をはりあげて会釈をし、かごを受け取った。
そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。
【418ページ】
暑い日はサンドイッチが売れ、寒い日はおにぎりや中華まん、パンがよく売れる。カウンターフーズも気温によって売れるものが違う。日色町駅前店では寒い日はコロッケがよく売れる。ちょうどセールもあるので、今日はコロッケをたくさん作ろうと、頭に叩き込む。
[ken] 「世界の部品になる」こと、それも「正常な部品」としての自分を確認できる喜びって、言われてみると案外大事な感情ですよね。「会社や組織の歯車になるのは嫌だ!」「単純繰り返し作業は人間性の冒涜だ!」という考え方もありますが、個人的には人間として無視できない感情ではないか、と前々から思っていました。直接、お客様と接することができる現場も嫌いではありませんし、若い頃、新宿のスナックの女店主から「きみは『小商人』がお似合いかも!」と指摘されたことがあり、なるほどと納得させられました。あいにく縁はありませんでしたが、ルーチン業務も大好きなことは今も変わりません。
また、418ページの心構えは素晴らしいですね。店長(コンビニオーナー)や正社員レベルの勤務対応であり、パート店員の模範といえましょう。普通のパート店員はここまでしないから、主人公はまさに「コンビニ人間」なのですね。(つづく)