読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

おじさんはなぜ時代小説が好きか ことばのために

2010年01月30日 | 読書

関川夏央「おじさんはなぜ・・・」
   
「おじさんはなぜ時代小説が好きか」
                                      関川夏央著岩波書店刊2006年2月
  関川おじさんは1949年生まれ。まだちゃんとしたものは読んではいないが、
 少なくとも芥川賞や直木賞系ではない。
 関川おじさんより10年歳をとった我輩なんぞは超おじさんで、当然時代小説が
 好きでおかしくない。

  時代小説は大衆文学に属し、自分のために純文学を書く作家と違って読者
 を如何に楽しませるかに意を用いる。従って往々にして他の大衆芸能とのコラ
 ボレーションが起こる。

  この本に浪曲の話が出てくる。明治17年に天田五郎が「東海遊侠伝」を書いて、
 これが次郎長伝説の水源。荒神山の出入りを題材に、吉良の仁吉を主役に講
 談に仕立てた初代神田伯山が一気に次郎長一家を全国に広めたそうだ。これ
 を浪曲版にしたのが広沢虎造。余談ながら明治時代の寄席芸人は講談が最上
 位で、次いで落語、浪花節はずっと格下だったそうだ。新国劇でも「東海遊侠伝」
 を取り上げたこともあって、浪曲師のステータスもぐんと上がり、三波春夫や村
 田英雄もこの時期浪曲師の世界に入っていった。
  我輩も幼少のころ、ラジオの前に胡坐をかいた親父が、なた豆キセルを咥えな
 がら、三門博の「唄入り観音経」とか広沢虎造の「清水次郎長伝」などに聞き入
 っていた姿が記憶に残っている。

  そもそもこの本は、6人の編集委員が企画した「ことばのために」シリーズの
 1冊で、主として若い編集者たちを相手にレクチャーしたものをまとめたもので、
 講演記録調なので頭に入り易い。
  山本周五郎、司馬遼太郎、吉川英治、藤沢周平、山田風太郎、長谷川伸など
 主として故人の時代小説、歴史小説作家の特徴が登場の時代背景、持ってい
 る世界観(価値観)も含め比較しながら解説してくれているので、実に楽しく読め
 る。

  本論の「おじさんはなぜ時代小説が好きか」といえば、主として描かれる江戸
 時代の文化・文政・天保年間に日本人の生活感覚の原型があって、現代ならな
 かなか小説にかけないことも、時代背景をこの時代に移せば書けるし現代人も
 すんなりと分かってくれるということらしい。それと時代小説作家は歴史の連続
 性を信じ、未来に予め失望することなく、未来に生きようとしたというのだ。
 
  山本周五郎がなぜ少し変わった人だったか、吉川英治も司馬遼太郎も「女性」
 というものが苦手らしく、小説の中でも男女間の機微に触れる話は余り出てこな
 いなど、面白い話しも随所にある。

  とにかく勉強になる本です。

                          
                          
    (以上この項終わり)
                          
                          



    

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