リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

テオルボあれやこれや(4)

2007年08月02日 11時51分35秒 | 音楽系
割とわかりやすいテオルボはドイツ・テオルボだと思います。これはヘッドの形状が他の地域・時代のテオルボとは少々異なり、何より調弦システムがバロック・リュートと同じのいわゆるニ短調調弦でした。でもこの時代のドイツでも「古い」イタリアンタイプの楽器も存在しましたし、ドイツ・テオルボのタイプの楽器がフランスで使われていたこともあったようです。

バッハがいくつかのカンタータや受難曲でリュートをオブリガート楽器として指定していますが、これは多分ニ短調調弦のドイツ・テオルボだった可能性が一番あるような感じですが、曲によってはそうとも言えないものもあります。バッハの声楽作品でリュートが指定されているものはそう多くはなく、198番、ヨハネ、マタイ、そして失われたマルコ受難曲の中のアリアとかアリオーゾなど何曲かに過ぎず、どういう調弦がふさわしかったかは結論を出すのが難しいです。

私の直感では、ニ短調調弦の楽器が全ての作品で想定されていたとは言えない感じがします。マタイ受難曲(初稿)の57曲目のアリア「来たれ、甘き十字架」のオブリガートは書法から言ってニ短調調弦の楽器である確率は高いですが、ヨハネ受難曲の19曲目のアリオーゾはニ短調調弦の楽器ではとても弾きにくいです。一音あげると結構弾きやすくなることから、「ハ短調調弦」が存在していたのかも知れないし、昔ながらの調弦のテオルボで演奏することを想定していたのかも知れませんが、決定的な結論は出すことができません。(なお、マタイ受難曲は現代では初稿で演奏されることは少なく、件の曲のオブリガートはヴィオラ・ダ・ガンバで演奏されることが圧倒的に多いです)