リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

テオルボあれやこれや(5)

2007年08月03日 01時32分11秒 | 音楽系
リュートの最晩年期、すなわち18世紀第2、第3四半期頃は結構たくさんリュートを含んだ室内楽曲が作られました。ここでいうリュートを含んだ室内楽曲というのは、リュートを通奏低音楽器として扱うのではなく、メロディを弾く楽器として扱っている曲という意味です。通奏低音にリュートが参加するのは、17世紀ではごく一般的、18世紀のドイツの時代にあってもやや衰退しつつあったとはいうもののまだまだ現役でした。でも「メロディ」を弾く楽器としてのリュートはルネサンスやそれ以前のころ以来のことで、なんでそうなってしまったんでしょうね。

そういうジャンルは、コハウト、ファルケンハーゲン、ハーゲン、クロプフガンスなどヴァイスの次の世代の人が佳曲を残しています。例えばコハウトのリュート協奏曲ヘ長調を見てみますと、ヴァイオリン2、チェロ1とリュートという編成です。これに通奏低音楽器が入っていたかも知れません。リュートとしては、これだけお相手がいるともう音量的にギリギリというところです。ここで使われている楽器は恐らく指盤上の弦長が80cm近いニ短調調弦のドイツテオルボでしょう。この位の大型の楽器だと結構余裕が出てきます。私が今年の2月に行ったリサイタルでは、クロプフガンスの協奏曲を演奏しましたが、70cmの楽器ということもあり、バランス面ではとても苦労しました。

これらの曲の録音の場合大概はリュートがえらく音量的に持ち上げられていることが多いです。昔のジュリアン・ブリームのギターによるコハウトのヘ長調協奏曲の録音なんか、こんなにギターが聞こえるはずはないわな、って感じの録音でしたし、(でも逆にいうとこのくらい聞こえているといいなって願望でもありましたが・・・)最近のリュート奏者による録音でも妙にリュートが持ち上げらていまして、バランスとしてはいいんですが不自然といえば不自然です。こんな中でホプキンソン・スミスの録音(ハイドン、コハウト、ハーゲン、ファシュの作品を録音)は非常に自然なバランスで(つまりあまりリュートは大きな音ではない)かつリュートはよく聞こえているというある意味相反することが実現されている希有な録音です。ライブで聴いた場合に最も近い録音だと言えます。