リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

なぜニ短調調弦が残ったのか(3)

2022年06月13日 13時59分43秒 | 音楽系
バロックリュートのテンペラメントは、2コースと3コースの4度(完全4度)をどう合わせるかによって決まります。

どう合わせるかって?4度は4度じゃない?とおっしゃる方もいらっしゃるかもしれませんが、同じ4度(ここではレとラの音程)でも平均律、純正、キルンヴェルガーなどの鍵盤楽器で使われるテンペラメントそれぞれ皆音程幅が異なります。

ちなみにリュートはフレット楽器なので、鍵盤楽器用の古楽用テンペラメント(チューナーにそういったモードがあります)で合わせても絶対に合いません。一本のまっすぐなフレットを矛盾なく配置するのは不可能です。そうするためにはギザギザフレットが必要です。確かヤング(昔の鍵盤楽器用のテンペラメントのひとつ)を使っていたと思うのですが、ギザギザフレットのギターを弾いたことがあります。確かにギターでよく使う調に限れば綺麗なハーモニーが出ていました。

さてバロック・リュートの場合、その4度はどのくらいの幅が適切か、というのを悩むのは1か所だけなんですね。これさえ決めれば、あとはオクターブとユニゾンでスイスイ、というのがバロック・リュートの調弦なのです。もっとも弦の数が多いですから、1本5秒で合わせても、13コースだと2分かかります。3分台でできたら大手柄です。

ルネサンス・リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、ギターの場合はその悩むべき4度が4つもあり、それらをきちんとバランスを取って調弦するのはなかなか大変です。それに比べたらバロック・リュートのニ短調調弦のシステムははるかにシンプルだし、その分正確に調弦できます。もっとも弦の多い楽器だけに少しでも早く正確に調弦できるという要求があったのでしょう。

(チコちゃん流に言えば)ドンドン、ニ短調調弦が残ったのは、調弦し易いから。

ということになります。チコちゃんの画面右下には必ず「諸説あります」って出てますが、これも諸説あります。(笑)