佐世保の事件の加害少女は精神科にかかっていたそうです。精神病院に入院させようという動きもあったようですが、入院は実現しませんでした。
ここで多くの方は「入院さえさせていれば今回の事件は防げた」と思われたのではないでしょうか?
ところが私は、メディアの論調から別の感想をもちました。それは、社会の基底には「変な奴は精神病院に閉じ込めてしまえ!」という発想がまだあるのだな、ということです。
精神病院は患者の治療をする場所であって、収容所ではありません・・・といくら言っても世間は受け入れてくれません。
近い将来、犯罪を犯すかもしれない人をあらかじめ拘束することを「予防拘禁」と言います。現在の日本では「予防拘禁」はできません。人を殺してみたいと言っている人を、言っているだけで捕まえることは、検察にも警察にもできません。
検察にも警察にもできないことを精神病院に求める傾向が世の中にあります。でも、繰り返しますが精神病院は収容所でも刑務所でもありません。
私が精神科医になってから40年、精神病院に対する一般の人の捉え方は、ほんの少ししか変わっていないのだな、と慨嘆するのみです。
※1)最近は「精神病院」と言わずに「精神科病院」と言います。「外科病院」とか「産婦人科病院」と同じだ言いたいからです。
※2)稀有な犯罪だと、実行者イコール精神病という粗雑な図式が描かれます。そういう犯罪を犯す奴はアタマがおかしい。だから、「精神科で診てもらえ」というステロタイプは完全に間違っています。(犯罪者は病気ではありません。)
※3)「心神喪失」で殺人者が無罪になるのはおかしいという考えを、多くの人がもっていることは知っています。ですが、ここでそのことについて論じると、今回の事件の議論と錯綜して誤解を生むだけなので、別の機会に論じます。