院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

日本医師会の現状(わが国の産業利権構造-5-)

2014-08-15 06:02:51 | 医療
 行政への抵抗勢力としての日本医師会について述べるに当たり、それがどんなものか予め知識が必要です。少し見ておきましょう。

 日本医師会(以下、単に医師会)は形としては学会です。学術雑誌と業界雑誌も出しています。(学術雑誌は誰も読みませんが。)しかし、むかしから圧力団体と世間ではみなされており、事実そうした面が大きいです。また、医者同士の互助会機能もあります。私は開業直後、経営資金として医師会関連の金融機関から何百万円か無担保で借りられました。利息はわずか年1%で、ありがたかったです。

 医師会にはすべての医者が加入していると思われがちです。確かに形式上、勤務医も混ざっています。でも、勤務医は会費(年40万円ほど)を支払っていません。医師会が開業医だけの団体に矮小化して見られるのを、勤務医を無償で加入させて防いでいる形です。

 名前だけでも医師会に加入している勤務医は、それでも勤務医の一部です。さらに、都市部では開業医さえ医師会に加入しなくなりました。かつて有名な医師会長、故武見太郎氏は25年間にわたり医師会に君臨し、影の厚生大臣と呼ばれたほどですが、彼亡きあと医師会は凋落の一途をたどっています。


(1982年の対談。武見太郎氏(左)と日野原重明氏(右)。医学書院のHPより引用。)

 武見氏は日本の医療の未来を考えていた人で、金儲けばかりを考えていた人ではありません。そのため「開業医の3分の1は強欲だ」と批判したり、精神病患者を収容だけして治療がおろそかな精神病院のオーナーを「牧畜業者」と痛罵しました。

 医師優遇税制というのが、むかしありました。これは収入の確か70%くらいを最初から無条件に控除されるという、医者にたいへん有利な制度でした。当時、勤務医だった私は、君は税金が優遇されていいなぁ、と非医師の友人に言われました。でも、それは誤解で、勤務医は普通のサラリーマンと同じ税制です。医師優遇税制が適用されたのは開業医だけだったのです。(厳しく批判されて医師優遇税制は規模はとても小さくなりましたが、収入が少ない開業医向けに実はまだ存在しています。)

 医師会はボランティア的な仕事をたくさんやっています。学校医、住民健診、集団予防接種、乳幼児検診、介護保険認定、休日急病診療所などです。無給のボランティアではありませんが、それだけの労力をさくならば、普通の診療をしていたほうが楽だとは言えます。

 ですから、医師会の協力なくしては地方自治体の健康行政は成り立ちません。地方自治体が地元医師会に頭が上がらない理由はここにあります。

 医師会がいつも行政と綱引きをするのは、健康保険制度です。わが国の国民皆保険制度はじつは医師会が医師会としてまとまる最大の要素なのです。これについては、次回に述べましょう。