Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

悲しき風景

2009年12月14日 | 東京
 夜遅く、駅のホームで電車を待つ。ふと、駅のベンチで涙を流している女性、その横でそんな女性には目を合わさずにボーッと何かを見つめている男性の二人連れの姿が目に映った。けんかをしたんだろうか、それとも別れ話でも切り出されたんだろうか……そんなことを考えながら、悲しすぎる二人のことを忘れようと、その場所から少し離れた場所に移動した。
 電車に乗り込み、ドア際に立った。ちょっと二人連れが気になって、さっと車内を見回したがその姿はなかった。終電まではあと一本。きっともう一電車分、あのベンチで時を過ごすのだろう。私はそんな二人のことを忘れて、ぼんやりドアの窓越しに向かいのホームを眺めた。ドアの向こうのホームのベンチでは、さっき見た二人とは対照的に、若い男女が楽しそうに話をしているようだ。
 夜の電車のドアは二つの風景を映し出す。一つは窓の向こう側の外の風景、そしてもう一つは鏡のように車内を映し出す風景である。電車のドアが閉まる瞬間、あの二人が電車に乗り込んできた。しかも、私が立っているすぐそばに。二人を直接見たわけではない。にもかかわらず、鏡のように窓が二人を映し出すのだ。若者と向かい合って立ちながら、男性の右袖をつかんで、かすかなすすり声とともに涙を流す女性、背の高い男性は、つり革につかまって電車の天井を黙って見つめる。悲しき風景……。どうすればいいんだ。この二人から目を逸らしているのに、窓には二人がくっきりと映っているのだ。見たくないよ。見たくない。だから、私は目を閉じた。降りるまでの5分もの間……。