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【“正しさ”では救えない領域へ―――】荻野純「透明人間の骨」 感想(ヤングジャンプ 2016年31号)

2016-06-30 | 荻野純
透明人間の骨/荻野純(YJ No.31より)

色々書きたい事はあるんですが、
っていうか今日はこれの感想を書く為に生きてた感があるんですが
取り敢えず、読んだのが朝キオスクでヤンジャン買って通勤途中の電車の中だったんで
会社に向かう途中とか、会社に着いてからしばらくはずっと殺伐した、ダークな気分で過ごしてました
とても冷徹というか、凍てついた空気感が支配する作品だったのでその分読み終えた後の衝撃というか
影響力が半端なくて、端的に書くと物凄く夢中で作中観にのめり込んでしまうような作品だった・・・という事です
あくまで個人的な評価ですが、はっきりいって待っただけの甲斐はある、想像を越えてきた傑作であった、と思います。断言します。





世の中の全てを「正しさ」で図ろうと、解決しようとすると
そこには必ず無理が生じるような感覚が個人的にはあります
そりゃ、「正しい」事は素直に偉いと思うし、尊いとも思うけれど
その逆・・・「間違っている」事が誰かにとっての“救い”になる事だってあるんだ。。という事が
本作を読み終わってまず頭に浮かんだ感想でした

父親の命を奪った、
文字通り命を懸けて奪った、
本当は、「良い思い出」もあった
単純に「悪いだけ」の人間ではなかった
ただ、彼をそのままにしておいたら、必ず壊れてしまうものがあった・・・。
それだけの話です。
それだけの話を、美談にも肯定にもせず、ただただそのままに、無添加に描き切った本作は
他の作品にはない確かなオリジナリティがあり、物悲しくも美しい雰囲気にも酔い痴れられる良さがあり、、、と
「正しさ」では救えなかった“何か”を100%過不足なく描き切っている傑作だと個人的に思うのです
物事はすべて一面的ではない、
失った代わりに、
心から救われた「誰か」がいた・・・
ただ、それだけで十分だった。
結局、花がした事が全部正しかったとは言い切れない
だけど、母親が自殺を選ばずに生きているのは紛れもなく花が自ら動いたお陰だ
その意味合いでは、ある意味命を救った。とも言い切れる訳で、完全にハッピーエンドなお話ではなかったけれど
その分、深く読者の心にモヤモヤを、傷跡を残して去っていくような趣のある作品に仕上がってたと思います
花は父親の優しかった時を想って悲しんだり、人殺しの感覚に嘔吐したりもしたけれど
そんな「罪」も背負って生きていくのがこれからの彼女の人生なんでしょう
だけど、彼女のお陰で間違いなく守られた「何か」があって―――

この感覚、是非伝わって欲しいです
いち荻野純ファンとして感嘆の声を漏らさずにはいられない、
正しい/正しくないを越えたカタルシスを感じさせてくれた名作だったと思います
こういう良い意味でしこりが残る作劇は大好物でもあるので、その意味合いでもそういうのが好きならば是非読んで何かを感じて欲しい
個人的には、大手を振って、這いつくばってでも「大好きです。」って懸命に叫びたくなる、そういう類の読切でした。100%支持します。





また、先述の通り、ダークで冷徹な作中観が実にイイですね
「死にたい」というニュアンスの言葉を嘆く母親、
完全に冷め切った心情を見せつける主人公の花、
周りを囲むロクでもない人々・・・
いじめられてる人が、全然良い人でもない。という現実や
主人公が殺人を犯す。といったセオリーを真っ向から破ったギミックの数々がとても刺激的に映りましたし
「型にハマってたまるか」という荻野純さんの確かな美意識も感じられる事が出来てとっても良かったです

個人的に、一番といって良い程大嫌いなのが「心の通わない上辺だけのやりとり」だったりするので
その意味でもそんなものばかりの世の中に絶望している花の気持ちにシンクロ出来たりもしちゃったんですよね
逆に言えば、周りが徹底的に動かない、傷を負わないからこそ
わざわざそこに踏み込んでいった花の行動が際立つ作劇にも(結果的に)仕上がっていますが・・・
そんな誰よりも凍てついた心で、
誰よりも冷徹で、
誰よりも批評的で、
誰よりも悲観的で
誰よりもか弱くて、
そして、
誰よりも「本当」を求めている・・・
そういう花が個人的に大好きだった。という事も断言しておきます





気にしなきゃいい事まで気にして、
上辺だけのすぐに消えてしまう感情に傷付いて、
それでもやっぱり拭い切れない「母親が好き」という気持ちに正直に生きていて・・・
彼女は完全に「正しい」行動は取れなかったけれど、実は誰よりも「正しさ」を求めていたのが花だったのかもしれません
冷め切った感情で世の中を皮肉っていた彼女が、自分から行動を起こす様になるまでの物語。。と考えると
これはこれで“成長”なのかもしれなかったですね
その冷徹に振り切った作風も好みだったし、
実際にこんな感じで自分もあの頃生きてたのかな・・・って想起させるリアリティのある雰囲気もまた素敵でした
周りの人間が何もやらないのであれば、自分が矢面に立って、やるだけ。
そんなメッセージ性なんかも内包されていたのかもしれません。
世界が変わらないのであれば、
世界を変えるのは、私だ。
ただ、それだけの事で
ただ、それだけに絞っていたからこそ
余計なものが一切ない、伝えたい焦点だけにピントがあった傑作として成り立ったのかもしれません
それは、戻るようですが確実に清廉潔白と言える様な「正しい」行動ではなかった
それでも、それで確実に「変わった世界」がそこにはあって。。
肯定も否定もしない。ただただ、その相様を徹底的に描く。
そんな荻野さんのスタイルに美しさとこだわりが感じられた、久々の新作ですが、個人的には健在どころか更に研ぎ澄まされた新作になっていたかと
それは自分が荻野純さんのいちファンだから、というお世辞の様な話ではなく
本心から思っている事。。だと、付け加えておきます

どうしようも出来なかった現実、
それをどうにかした少女の儚くも、しなやかで、(実は)愛が籠っていた作品・・・
最終的には、そんな風に思いました。花には、逞しく生きていって、母親を幸せにしてやって欲しい。
そう思います。
ありがとうございました。

















無表情に徹していたからこそ、こういう表情が際立つ。「巧さ」もある作品です。


それにしても、「γ―ガンマ―」完結以来超久々に荻野純さんの作品を読んだ訳なんですが
やっぱり良いなあ、好きだなあ。って思いましたよね(笑
シャープでクールな絵柄で、でもしっかりと可愛い。と思える女の子のセンスや(花、大好き!!)
哀愁漂うストーリーライン、一面的ではない人間の描き方。。などなど
本当に自分のツボにハマる作品を描かれる方だなあ、って心から思いました

去年、何の音沙汰もない時期にファンレターを出したりしたのですが
今となって思えば、本当に出して良かった。というか
そこまでするほどの作家さんだ。って
確実に思えました
それと、ファン想いなトコロも素敵で、この方の人間性含めて大好きなんだな、って。
改めてそう感じられたのが何よりも嬉しかった部分ですかね
花を見ていると、
まるで自分の中の側面の一つを見ているかのようで
個人的に物凄くシンパシーの高い作品になっていましたね
美麗なカラーイラストも、現物はもっときれいなので是非見て欲しい

冷徹に振舞う彼女にも、拭い切れない「感情」があって
そんな本音が零れるシーンの数々がどうしようもなく人間らしくて好きだった
そして、あの透明人間の骨は、これからの展開を示唆してたのかもしれない・・・と
思うと、中々複雑な気分にもなる読切でした
続きも気になりますけど、
これはこれで趣ある形で終われている気がするので
これで終わっても別に良い気はしています

ただ、勿論アンケは1位で必ず出させて頂きます(笑
とても感情が揺さぶられる、感じるものの多い作品でした。最高です。荻野純さんの漫画は、やっぱり(自分にとっては)格別です。
それを伝えたくてこの感想を書きました。
好きになってくれたら、(ファンとして)とても嬉しいです。
傍観者から、当事者へと変わる瞬間を―――。




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