ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「もう一つ別の広場」 金曜PIM

2006-11-28 12:33:31 | 
中学、高校の頃は、ラジオの深夜放送に夢中だった。

ニッポン放送ならオールナイトニッポン、文化放送ならセイヤング、そしてTBSならパックイン・ミュージックだった。なかでも木曜深夜の金曜パック(通称、金パ)が一番のお気に入りだった。表題の本は、この番組のなかで取り上げられたリスナーからの投稿をセレクトしたものだ。

DJは、声優の野沢那智と白石冬美だった。野沢氏は声優の草分け的存在の一人で、アラン・ドロンの吹き替えで有名だ。個人的には「エースを狙え」の宗方コーチ役と、「チキチキマシン猛レース」の実況アナウンサー役の吹き替えが印象に残っている。白石女史は、頭のてっぺんから声が出ているのか、と思えるほどの高音で一度聞いたら忘れられない声質だ。やっぱりアニメ「怪物君」が忘れがたい。

番組の内容は、リスナーからのリクエストの音楽を流すことと、投稿を読み上げることだ。投稿の大半は、概ね若いリスナーの喜怒哀楽を綴ったもので、今も昔も若さから来る未熟さや、新鮮な感性は笑いと共感を誘うものです。

プロの声優だけに、読みの技術はさすがで、下手なタレントよりもはるかに上手く読み上げていた。私が金曜パックを好んでいたのは、単に楽しい投稿や可笑しい投稿だけでなく、厳しくも哀しい現実を書き綴った投稿がしばしば取り上げられていたからだ。原爆被爆症に怯える少女の悲痛な叫びや、差別に苦しむ在日朝鮮人の青年の悩み、社会の厳しい現実に直面した若者の嗚咽。これらの投稿を、野沢氏は淡々と、それでいて微妙な力加減で読み上げていく。

番組の終了が近づくと、レイモン・ルフェーブル楽団の「シバの女王」のBGMが悲しくも美しい旋律を奏でる。実に絶妙なタイミングで投稿を読み終える野沢氏が、情に流される事なくコメントを添えて番組が終わる。深夜3時の静寂が、その余韻を深く心に刻んでいく。

ラジオの前で、笑い、肯き、そして泣いた。今はもう終了した番組ですが、本を読むと当時の思い出が蘇ってきます。私の感受性は、案外ラジオの深夜放送で培われたものかもしれません。残念ながら、表題の本は古本屋でしか入手できません。たしか9冊ほど刊行されていたはずです。


コメント (4)
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