ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

ビブリア古書堂の事件手帖 三上延

2013-10-15 12:03:00 | 

本が読みたかった。

それも学校の図書室に置いてないような本が読みたかった。ところが近所には公立の図書館がまだなく、福祉会館や公民館の図書コーナーでは物足りなかった。

家にも母の本がけっこうあったが、私の食指を動かすような本はほとんど読んでしまっていた。さりとて小遣いは飲食優先で使ってしまっているので、とても本を買う余裕はない。

しかし、日本には古本屋があった。祖父が大の古本好きであったので、古本屋の存在自体は知っていたが、どこにあるかは知らなかった。祖父に聞いたら神田ではなく、早稲田か高円寺に行ってみたらどうかと教わった。

早稲田がどこにあるか知らなかったので、私は自転車を漕ぎ漕ぎ高円寺にいってみた。するとあった、あった。そこの店頭にあるワゴンには3冊100円とあった。私は文字通り小躍りしてワゴンを漁った。

古本屋と言う奴は、日ごろ目立たないが、いざその気になって探すと、実はけっこうあることが分かった。当時私が住んでいた三軒茶屋には3軒あることも分かった。現在のハデハデの看板を掲げた新古書店とは異なり、古本屋は街の片隅にひっそりと店を構えているので、今まで気が付かなかったのだ。。

ただ、古本屋という奴は小さい店舗が多く、3坪くらいしかない狭い店に本が山積みされていることが多い。私が読みたい本が必ずある訳でもなく、見つけ出すためには一日に何軒も捜し歩く必要があった。

ちょっと思い出しても、下北沢に3軒、祐天寺に2軒、上馬に1軒、五本木に1軒。この辺りの店を週末に自転車で駆け巡り、欲しい本を日がな一日探し求めていたのが10代の頃の私であった。

読みたい本を安く入手できるからこその古本屋であった。だから稀覯本とか初版本などには一切興味がなかった。その意味では、古本屋にとってありがたい客ではないと思う。

だから90年代くらいから急増してきた新古書店に対する偏見は一切ない。むしろ普通の古本屋で高値が付く本が、格安で売られていることをありがたく思っているくらいだ。

価値ある古本には興味はないと書いたが、例外はある。その代表が早川書房がかつてイラスト付きで刊行していた早川SF文庫だ。故・依光画伯はもちろん武部画伯の珠玉の挿絵なくして初期のSFは語れない。なかでも漫画家を起用しての挿絵は革新的でさえあり、SFを世に広めんと志した早川書房編集部の熱い想いが感じられる。

松本零士、石ノ森章太郎、藤子不二雄、バロン吉元といった漫画家たちが挿絵に健筆をふるったあの頃のSF文庫は、想像力を掻き立てる素晴らしい作品に仕上がっていた。それなのに早川はなにを勘違いしたのか、SFの高級化路線に挿絵は相応しくないと判断して廃止してしまった。

挿絵を廃止しただけでなく、スペースオペラのような幼稚な作品を絶版にしてSFを大人の読み物に仕立てようと画策した。ただし売れ筋のローダン・シリーズはしっかり残す当たりのあざとさが、長年のSFファンから軽蔑されるとは思わなかったらしい。

幾度も書いているが、大人の娯楽としてスペースオペラを排することが、SFのメジャー化に貢献したかどうかは微妙だが、間違いなく古参のSFファンが早川離れ、早川嫌悪を引き起こしたことだけは間違いない事実である。

おかげで現在、挿絵付きの往年の早川SF文庫は、古本屋ではお宝と化している有様だ。実に嘆かわしいことである。致し方なく私は神田神保町はもちろん、早稲田、高円寺、西荻窪、吉祥寺を自転車で漕ぎまわり古本屋を探索することに明け暮れた。

さすがに最近は仕事が忙しくなかなか出来ないが、それでも郊外に多い新古書店に立ち寄る機会があれば、必ず文庫本のコーナーを捜し歩くことは止められない。新古書店は、本の価値を今売れる、売れないだけで判断するので掘り出し物が多い。

ただし、そこの店員たちは本に関する知識は必要とされていないので、訊いても無駄である。自分で探すしかないのが難点だ。往年の小さな古本屋の店主たちなら、訊くだけですぐ分かるのとは雲泥の違いである。

ただこの古狸たちは一癖二癖ある個性的な人が多いので、訊いても素直に答えてくれない難しさもあるが、それはそれで一興でもある。ただこの業界も高齢化が進み、馴染みの店主も次第に数を減らしている。

その一方でインターネット上に古書店を設けてのネット販売は飛躍的に増えた。これはこれでかなり便利で、私はネット販売を使って長年探していたマキャモンの「スワンソング」の下巻を入手できた。たしかに便利だ。

便利は便利であるが、反面昔私がドキドキしながら古本屋を巡り歩いたあの楽しみがないことに、やはり一抹の寂しさを感じざるを得ない。

表題の作品は、古本屋の店主にはまったく似つかない美少女が座して、古書を巡る謎や事件を解決していく変り種のミステリー。一応ライトノベルに属すると思いますが、なかなかの快作であり、ライトノベルらしくない作風でもあり、是非一度は手に取って気軽に楽しんで欲しいと思います。

先ほど読み終えたばかりですが、もう続編が読みたくて仕方ありません。今夜にでも新古書店を漁ってみますかね。

コメント (2)
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