ヌマンタの書斎

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プロレスってさ ヘイスタック・カルホーン

2013-10-02 11:59:00 | スポーツ

デカイから強い。

これがアメリカ人の単純にして素朴な信念であるらしい。その典型とも云うべきプロレスラーが「人間空母」「お化けカボチャ」と呼ばれたヘイスタック・カルホーンである。

とにかくデカイことはデカイ。なにしろ公称体重は280キロである。初来日の際、バスに乗れずにトラックの荷台で羽田から京王プラザホテルまで運ばれた御仁である。もちろん、それはプロレス流のギミックであり、宣伝を狙ったものに他ならない。

でも、当時小学生であった私は、プロレス雑誌に載ったグラビアに興奮したものだ。なんだ、このデブは。デブはデブでもデカすぎだろうと呆れ果てたものだ。

興味深かったのは、そのコスチュームである。普通、プロレスラーは短パンか、レスリングパンツを履いてリングに上がる。しかし、カルホーンはTシャツの上にジーンズの紐吊り型のズボンをまとってリングに上がっていた。

当時は首を傾げたが、口の悪い友達の「デブの裸なんて恰好悪いからだろう」との一言に納得してしまった。実際は、アメリカ西部の素朴で力強い農夫をイメージしたコスチュームであったらしい。

実際、信じがたいことにアメリカのリングではベビーフェイス(善玉)として活躍していたのだ。さすがにシングルは無理だが、タッグ・チャンピオンになったこともあるのだから、相当な人気レスラーであったことは間違いない。

ただ、日本ではいささか事情が異なった。格闘技志向が強い日本のプロレス界では、カルホーンは既定外の巨漢デブみたさの観衆を呼び込む撒餌に過ぎなかったように思う。

実際、カルホーンにレスリングの技術は乏しく、ただ巨体を駆使しての相手を押しつぶす技だけが見ものであった。その意味で、しょぼいレスラーであるのだが、私が観ていて一番驚いたのが踏み付け。

ただ相手を踏みつけるだけなのだが、300キロ近い体重で踏むので、それだけで相手レスラーはのたうちまわる。それと意外と俊敏であったことだ。巨漢レスラーらしく、堂々ゆったりと動くのだが、瞬間的に素早く動いていいポジションをとる。

だから、なかなか倒れない。リングの中央でカルホーンがふんぞり返ると、それだけで絵になる男でもあった。来日回数が少ないのは、レスリングが上手くないので、日本のマット事情に合わなかったのだと思っていた。

正直強いレスラーとの印象はないが、あの桁外れのデブぶりは、実際に対戦したら嫌だと思う。なにしろほとんどの打撃が効かないはずだ。あの分厚い脂肪に打撃の衝撃が吸収されてしまうからだ。

しかも、カルホーンは意外なほど筋肉質であったようで、単なるデブではなかった。更に気が強いレスラーでもあったらしく、ラフファイトから乱闘に及ぶ荒れた試合も少なくない。これは見かけ唐オのデブでは出来ない。

実はカルホーン以外にも巨漢デブ・プロレスラーはけっこういる。しかし、常に第一線で試合に出て活躍していた奴はそれほど多くない。プロレスとは、対戦相手があってこそ成立する舞台であって、肉体のぶつかり合いこそが華である。単なるデブでは、そのぶつかり合いに耐えられず、十分な筋力がなければ、すぐに怪我をしてしまう。

今だから分かるのだが、カルホーンが日本のマットに馴染めなかったのは、彼とのぶつかり合いに耐え得る日本人レスラーがほとんどいなかったからだと思う。確かにカルホーンにはレスリングの技術はなく、打撃の才も乏しく、関節技もなかった。つまり日本人向けの相手ではない。

しかし、あの巨体を活かすぶつかり合いには向いていた。そのド迫力ゆえに、アメリカでは人気があったのだと思う。ちなみに試合では、腹の押し出しだけで対戦相手を吹き飛ばすというパフォーマンスをよくやっていたが、おそらく本領は、あの巨躯での押し潰しであろう。

プロレスを格闘演劇だと捉えて楽しんでいた私にとって、いささか邪道な存在ではあったが、忘れがたい存在感でした。

コメント
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