ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「頭蓋骨のマントラ」 エリオット・パティスン

2006-11-24 12:31:22 | 
恐ろしげなタイトルですが、ホラー小説ではなく、推理小説(ミステリー)です。それもかなりの傑作だと思う。

共産中国の侵略の下に喘ぐチベットが舞台なのも異例ですが、探偵役の主人公が訳ありの囚人だというから面白い。

私はアメリカ人という連中は、他国の文化に対する理解が薄いと思っていますが、やはり中には例外があるようです。チベットというかなり特殊な文化・歴史を理解した上で書かれたことが、この作品に深みと広がりを与えていると思います。

ちなみに作者は、国際法務に携わる弁護士とのこと。ビジネス書などを書いて高い評価を得ている方のようですが、ミステリーは本作が初めて。処女作としては、きわめてレベルの高い作品に仕上がっています。

読んでいるうちにつくづく思ったのですが、やはり日本は共産中国に甘い。圧政下にあるチベットの惨状を、日本のマスメディアはほとんど報じようとしない。映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」などで知られているように、欧米は悲惨なチベットの状況に関心を払っていますが、日本ではほとんど話題にすら挙げられない。

もちろん欧米にも親・共産中国派はかなりいるのですが、だからといってチベットの惨状を無視したりはしない。共産中国に侵略され、その支配下で暮らすことの悲惨さを理解する上でも、本作はよきテキストになりそうなぐらい、よく書かれています。日本のマスメディアが報じない事実の一端を知るという意味でも、いい経験になったと思う晩秋の夜更けでした。
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最近の霞ヶ関

2006-11-22 12:14:22 | 社会・政治・一般
最近つらづら思うことがある。

戦後の日本の高度成長は、霞ヶ関の官僚たちの功績がきわめて大きいと思う。一言で言えば「加工貿易立国」とでも評したらいいのだろうか。原料を輸出して、国内で加工製品化して輸出してドルを稼ぐ。一方、衰退業種には時間を与え、緩やかに縮小させて、急激な影響が出るのを抑制する。

もちろん、主役は民間企業だ。行政はそれを誘導したに過ぎない。時にはミスリードもあった。また、行政の関与が既成利権と化して、談合や天下りの弊害を招いた点は看過しえないと思う。強力な力を持つが故に、副作用が出るのは必然であろう。

もちろん、失敗も多々あったと思う。それでも成功したと評すべきだ。現在、世界経済のけん引役の一端を担いつつある東アジア経済だが、その発展過程は日本を参考にしたものが多いのが、なによりの証明だと思う。

ところがだ、最近その霞ヶ関の様子がおかしい。

実は近年行われている改正法案には、抜き打ち的というか、不意打ち的なものが少なくない。予告なしに突然、法案に盛り込まれている。非公開の委員会などで一応審議したらしいが、その過程は不透明で、その出席者からも不満の声が漏れ聞こえる。

私は仕事柄、どうしても税法に注目しがちとなる。2年前の「不動産の譲渡損の通算制限」や昨年の「オーナー企業の役員給与の損金算入制限」などは、ほとんど唐突に法案に盛り込まれ、ろくに議論もされずに国会を通過している。

これらの改正は、一部の納税者に多大な影響を与えるにも関わらず、十分に審議されたとは言い難い。いや、審議をされるのを避けている印象が強い。事実、その改正自体知らない人が多数にのぼるのが実情だと思う。

更に嫌らしいと思うのは新聞やTVといった大手マスメディアの態度。ほとんど、霞ヶ関の広報誌と化している。おそらくは、記者クラブで配布される資料の丸投げ報道であろう。小泉前・首相への丸投げ批判が聞いて呆れる。

規制緩和と言われつつ、実際は提出書類は増え、手間がかかるようになっている。市民の声を聞くと言いつつ、実際はお手盛り、やらせの委員会審議が増えている。かつて、大平内閣の時の「グリーンカード導入」の際には、様々な意見が聞き取られ、霞ヶ関の抵抗も虚しく法案は消えたこともあった。しかし、近年そのような話は大幅に減っている。

ジワジワと、気が付いたら手取りの収入が減っているのも、いつの間にやら天引きされる社会保険が増えているからだ。皆さん、お気づきで?

どうも、最近の霞ヶ関のエリートさんたちは、自分達の意見が批判、批評されるのに耐えられないみたい。だから、不意打ちで改正法案を国会に提出する。おバカな改正法案が国会を通ってしまい、その結果苦しみ悶えるのは市井の庶民だけ。

霞ヶ関のエリートさんたちは、膨大な情報を握っている。答えが決まっている問題なら、どんなに複雑でも回答を導き出す。しかし、前例がない場合や、模範答案がまだ見つかっていない問題への対処は、圧涛Iに下手だ。それが官僚というものだ。

最近、特にヒドイのが医療法改正であり、介護保険法だと思う。すでにリハビリ難民が出ているのは、一部の報道で最近知られるようになったばかり。あまりにお役所任せにしていると、ひどい目に遭う事が多々ある典型となっている。官僚は万能ではない。だからこその三権分立なのだが、書いてて虚しくなる。

日本は基本的に行政主導型の国だと思う。だからこそ、そろそろエリート(キャリア官僚)の育成方法を見直すべき時期に来ていると、私は考えます。
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「悟空道」 山口貴由

2006-11-21 17:14:22 | 
孫悟空をモデルにした漫画は、けっこう多いと思う。古くは手塚治虫の「僕の孫悟空」があるし、諸星大二郎の「西遊妖猿伝」もなかなかに個性的だ。小島剛夕の華麗な筆が冴える「アクション・シルクロード」も侮りがたい。

最近、大いに楽しませてくれた孫悟空ものが、週刊少年チャンピオンに連載されていた表題の作品だ。この孫悟空は出来色だと思う。マッチョでワイルドで、ハードゲイばりの姿が目を惹く。腕っ節の強さで妖魔を束ね、天界に喧嘩を売って、お釈迦様に立ちションをかます悪たれぶりが、実に似つかわしい風貌だ。

絵柄もさることながら、科白にのけぞった。暴れる時の口上が「仏契切」(ぶっちぎり)である。お前は暴走族出身かと、思わず突っ込みたくなった。日本語というか漢字の使い方って、面白いと思う。

師匠の三蔵法師も個性的だ。女性なのはともかく、少年誌ギリギリの色っぽさ。当人に自覚はないが、まさに傾国の美女。人間も妖魔も惑わす、歩くフェロモン。あまりの艶っぽさに味方まで惑わすが、三蔵本人は至って真摯に仏の道を目指している。それにしても、妊娠出産シーンまで飛び出したのには仰天した。なんとも破天荒な三蔵法師だ。

そして、三蔵法師の行く手を遮る妖魔たちも、個性豊かな悪役揃い。彼等とのバトルも魅力だが、某○ャンプ誌のようにバトルを繰り返して連載を延ばすような手はとらず、すっきりとエンディングを迎えているのも好感が持てる。

最後の最後で、元不良(?)の悟空が、お釈迦様に向かって頼む我ままが、けっこう痺れる。「俺に寿命をくれ。このままじゃあ、師匠(三蔵)が先に行って(死んで)しまう。だから、俺にも寿命をくれ!」と。こんな一途で野放図な孫悟空も悪くないと思います。
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イルカのいじめ

2006-11-20 09:38:04 | 社会・政治・一般
子供の頃、好きだったTV番組に「わんぱくフリッパー」があった。出演していたイルカはバンドウイルカだと思う。キュルキュルと鳴く愛くるしさが魅力的だったと記憶している。

ところが、このバンドウイルカという奴は海の生態系の中では強者の部類に入る。極めて知能が高いだけでなく、相当な戦闘能力の持ち主で、成人した大人のバンドウイルカは、凶暴なホオジロザメでさえ、撃退することが出来る。

CS放送で「アニマル・プラネット」という一日中、動物などのドキュメンタリーばかりを流している番組がある。そのなかで幼い子供のバンドウイルカを襲おうとしたホオジロザメを、親イルカたちが撃退したシーンを見たことがある。

流線型の姿に相応しく、素晴らしい速さでサメに突進して、その鋭い鼻先で体当たりを繰り返し、凶暴なホオジロザメを追い払う姿に驚いたものだ。しかも、一族のバンドウイルカたちが、巧みなチームワークで子供を守り、サメを遠ざける様は知能の高さを伺えた。

しかし、違う番組でとんでもない場面を見ることが出来た。なんと愛くるしい姿で人気の高い、このバンドウイルカが、他の小型のイルカを苛めている。巨体を活かして突っつきまわし、最後にはいじめ殺してしまったから驚いた。カワイイ容姿のくせに、なにするねん?

実のところ、知能が高く、集団生活を営む動物には、このようなイジメを行う習性があることは、以前から動物学者などの報告にあった。チンパンジーはもとより、ニホンザルにも見られるようだ。もちろん、生存領域(なわばり)を守るために、他の動物どころか血縁の同種でさえ殺してしまうことがあるのは、虎や熊などにもしばしばある。

しかし、イルカはどうもそのような生存領域を守るとか、配偶者を巡る戦いとかで殺すのではなく、娯楽として他の種族のイルカを殺したように見えた。同様な例に、オルカ(シャチ)がアザラシなどを追いかけ、突きまわし、宙に放り投げて、やがて殺してしまうことがある。しかも食べるわけではない。

どうもイジメという行動は、知能が高く集団生活を営む動物には、普通に生じるものであるらしい。おそらく、人間もそうなのであろう。そりゃ、イジメはなくならないはずだ。

イジメを無くすことは出来ないと思うが、止めることは出来ると思う。止めて、イジメの原因を探り、イジメられる子、イジメる子双方に改善を促すことは出来ると思うし、やるべきだ。誰が?やはり先生だろう。学校とは、単に知識を学ぶ場所ではなく、社会における適切な行動を学ぶ場所でもあるはずだ。

私は教師に対する不信感が相当に強いが、それでも教師の役割の高さを認めている。実際、いじめを止めさせた先生を見ているし、断固たる覚悟があれば出来ると思う。ただ、最近の先生は、鉄拳制裁はもとより、怒鳴ることさえ出来ないらしい。子供の躾けも満足に出来ない親が、教師にその役割を押し付けることも、けっこうあるらしい。

安倍首相が掲げる、教育再生とは、まず先生と親の双方が改める事だと思う。間違っても、慎重な判断を要するとか言って、問題の先送り、現状維持をしてはいけないと思う。
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やらせ質問で思い出したこと

2006-11-18 14:18:55 | 社会・政治・一般
最近、国会を賑わすタウンミーティングでの「やらせ質問」。盛んに野党は攻撃しているが、私は思い出してしまったよ。

90年代のことですが、「やるっきゃない!」と勇ましく消費税廃止を訴えて大幅に議席数を伸ばしたのが旧・社会党でした。しかし、なにもやらずに任期を終えて、次の選挙で大幅に議席数を減らしてしまいました。党首の土井たか子は、大いに悩み初心に帰って、市民の生の声を聞くと宣して、全国を巡り回りました。

しかし、驚いたことに社会党に対する非難の声は、まったく聞かれず、むしろ励ましの声ばかり。そんな市民の姿に、大いに気をよくした土井党首は、「私たちは間違っていなかった」と確信して、選挙での大幅な議席数減少を反省することなく、中央政界に戻り、次の選挙では壊滅的議席減少となって、ついに社会党は消滅して現在の社民党に至ります。

実は土井・社会党党首の全国巡りは、熱烈な土井ファンである書記らによって仕組まれたものでした。出席者はいずれも土井ファンばかり。質問もまた土井党首を励ますものばかり。市民の生の声をきくはずが、「やらせ応援」ばかりを聞かされたわけですから、土井党首が勘違いするのも無理ありません。

正しい情報が伝わらず、ついには消滅に至った愚かしさの良き前例となった訳です。その前例をどう思ったのか、政府が真似したわけで、それを批判している野党の面々は何を思っているのやら。

え?真似したわけではない。昔からやってた?そりゃ失礼。
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