入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’21年「夏」(30)

2021年07月06日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

Photo by Ume氏

 午前7時、雨は止んで薄日が射している。つい先ほどまではわずかだが青空も見えていた。これからさらに天候は回復するのか、それとも悪化するのか、雲の動きが気になる。どうも午前中は何とか今の状況が続いても、午後になるとまた雨になりそうだ。
 
 雨が降っても、牛が草を食むのが仕事であるように、こちらは最低牧柵の保守と、全頭の牛の様子だけは見ておかなければならない。昨日などわずか1日留守にしただけで電牧は5,6か所も切断され、また牛は行動の範囲を第4牧区Aの全域に拡大するようになり、そのために頭数の確認にも手間取るようになった。
 雨はその間もしつこく降り続け、牧柵を切った犯人は鹿だと思うが、仮にそれが牛だったとしても脱柵はしてはいないという牛への信頼にすがるようにして、電牧の補修を行った。
 この縦線と呼んでいる小入笠の頭までの電牧には5か所の中継点を設けてあり、修理中は区間の電流を切らなければならないから最寄りの中継点まで下りて電流を遮断し、それから切断箇所まで上り直し修理をし、済んだら中継点まで下りて断線してあった線を再び接続し、さらにまた下って次の中継点で電流を切り、修理箇所まで登り直してまた修理する、こういう厄介なことを繰り返しながら横線との合流点まで下りてくる。
 
 深い霧の中を一人の登山者が小黒川林道の方へと向かっていった。こんな天気であっても、本人にしたら存外気分はいいだろう。たまに聞こえてくる小鳥の声以外に物音がしない、静まり返った森の中で孤独の甘味が濡れそぼる衣服を通して伝わってくる。湿った大気が疲労感を忘れさせ、路傍のクリンソウが元気をくれる。
 彼は白い飛沫を上げて流れ下るテイ沢に時を過ごし、流れの中の岩に育った緑の苔に興味を覚え、きっと手にしたカメラでそれを撮るだろう。あの岩の上の石仏にも気が付いただろうか。痛みかけた丸太橋や、歩きづらい岩の道には不安を覚えつつ・・・、いや、山慣れた彼は確実に歩を進め、どこかで今ごろ一服しているだろう、こんな天気でも来て良かったと思いながら。

 単独行といえば、きょうのような雨催いの天気の記憶が何故か多い。会社勤めを初めて同時に再開した山となった八ヶ岳、雨ばかりに祟られた南アの縦走、両腕を伝って雨が身体に流れ込む烏帽子凹状の登攀、槍は避け天上沢を下り湯俣に下りた気紛れ、蓬峠を越えて土樽へ下った晩秋の単独行の記憶など、思い出せばまだまだある。どれもいまだに印象深く思い出す。
 
 さてさて、昨日応急で直したアルミ線の張替えに出掛けねば。きょうのUme氏のPH、鹿が幾頭も写っているのが分かりますか。本日はこの辺で。
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