
Photo by Ume氏
午後3時、気温25度。きょうは昼ごろからあまり気温は変わらない。牛たちは喉が渇いたのか、いつもなら夕方なのに水を飲みに下りてくるのが早かった。ついでに塩も欲しかったらしく、あまり品のよくない声が聞こえてきた。どうもあの牛の群れには塩をせがむ役がいるらしく、古ぼけた汽笛のように聞こえる咆哮の主は毎回同じ気がする。
水場に行ってみると、ホルスも和牛も全頭らしく、その中の何頭かの和牛が近寄ってきて、いつもの警戒心の強い和牛2頭は群れの外へ出ようと浮足立つ様子を見せた。数えてみたら1頭足りない。もう一度数え直してもやはり結果は変わらなかった。念のため、全頭を耳に付けている牧場の管理番号を記録しながら確認しても依然として1頭足りない。
近くのコナシの林の中を流れるちょっとした沢に行ってみても、牛の姿はない。1頭だけが確認できないなどということは滅多にはないから、当然、何らかの事故の可能性が強まる。折角、きょうは頭数確認が簡単に済むと思っていたのに、どこにいるのか分からない牛、その段階ではすでにホルスだと分かっていた、を探して小入笠を頂点にした三角形の放牧地を歩き回らなければならない。そう思ったら、急に疲れを感じ、目の前の急な斜面がうらめしく思えた。
きょうは朝から東部支所に出掛け、さらに1週間ぶりに草だらけの家まで足を伸ばし、そして再び牧場に戻ってきた。走行距離は100㌔近くになっていたし、途中の山の中でも余計なお節介仕事までしてきたからバテ気味であった。
仕方なく塩袋を車に戻し、代わりにいつもの仕事道具を持ってヨロヨロと歩き出した。群を探すよりか、1頭のはぐれ牛を探すのは何倍も大変だが、それでもともかく無事にいてくれることを願うしかなかった。
きょうは三角形の底辺のほぼ真ん中から頂点の頭を目指すことにした。いつもの調子がでないまま、しばらく登った。そして何気なく見上げたら、帯状に残るコナシの樹々の間に何かが動いた。目を凝らすと、白いものが動き、さらに食い入るように見たら、案じていたホルスタインだった。
ああいうふざけた行動する牛はすぐに分かった。No.3の未経産のデブで、いつだったかも小入笠の中腹で電牧を切って牧区外に出て、憎ったらしいほど悠然と草を食んでいた牛だ。しかも、電流に触れたはずなのに、他の牛の確認を終えて戻ってきたら自分で勝手に牧区内に戻っていた。人もそうだが、牛も分からないのが時々上がってくる。
遠くで雷鳴がする。空気も心なしか冷えてきた。一雨来るかも知れない。本日はこの辺で。