入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

「夏」 (15)

2015年07月07日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

一番左の牛のポーズ、笑う

 どこか遠くから人の声がした。こんな霧の深く立ち込めた雨の夕暮れに、歩いている人なぞいるはずもないから多分、あれは気のせいだったろう。時折こういうことがある。今日も雨はずっと降ったり止んだりを繰り返し、霧もそれにつれて濃くなったり薄くなったりという気まぐれを尽くし、一日がまた暮れようとしている。
 
 また「山の人」になることにしたが、ここの夜は長い。仕事が終われば管理棟でもささやかな「一日を閉じる祭り」をするが、酔えば身を入れて本を読むなどという気は起きてこない。ということは、何もすることがなくなってしまうということになる。時の経つのは遅くなり、その長い夜をしみじみと味わうこともあるが、もてあますこともある。部屋には古いテレビがあるが、とっくの昔に用をなさなくなっている。もともとテレビは見ない方だからそれで不自由なことはないのだが、下手に酔いに負けて寝てしまうと、トンデモナイ時間に目覚めてしまい、起きるべきか寝ているべきか長い思案に暮れなければならななくなる。今寝ている部屋は暗いため、起きると決めたらわざわざこの部屋まで移動してきて、新しい朝が来るまで残された夜と闘うということになるからだ。

 考えてみれば、いやそうするまでもなく、洞穴(ほらあな)の住人らにさえあっただろう家族の団欒を、遠くして生きてきた。こんな山奥で酒を飲みつつポツネンと、そんなことを思うことさえ罪深い気がするが、あのありきたりで単調な生活の積み重ねの中には、しかしいつもその人たちだけが分かち合える喜びや笑いや、怒りや失望があり、そんな暮らしが万年も続いてきたというのだ。その列に組しない者は、笠原の丘から眼下の伊那谷の煌めく夜景を眺めながら、その下で繰り広げられている家族の幸福な団居(まどい)だけを想像して、静かに黙って帰ればいい。

 宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましてはカテゴリー別の「H27年の営業案内」を、また星空に関しましては「入笠牧場の星空」をご覧ください。

 
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         Ume氏の入笠 「夏」 (18)

2015年07月05日 | 牧場その日その時

ヒオウギアヤメ           Photo by Ume氏

 この梅雨の時期にUme氏のドピーカンの写真を使わせてもらうのは、気分の上で少々ためらいがある。と言って、同じく彼が送ってくれた美しい花の写真は、花の名前に確信が持てないので、間違えてはと思うとこれまた悩ましい。今日の花は、Ume氏がちゃんと名前を記載してくれてあったので、安心している。昨日の花ぐらいは、誰でも分かると思って名前は省略したが、幾日か前に花の名前を記さず「お楽しみ」にしたのは、実はあの段階では最後のネジバナしか名前が分からず、いや今も不明で、いずれ大御所DNDさんに登場してもらいハッキリさせたいと考えている。それにしても美しい花の写真だ、いまの時期によく合う。

 花が屹度多くを語るだろうから、今日はこれにてご無礼いたします。

 宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましては、カテゴリー別の「H27年の営業案内」を、また星空につきましては「入笠牧場からの星空」をご覧ください。
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         「夏」 (14)

2015年07月04日 | 牧場その日その時

  背後の電波塔の見える山が(名無しの)権兵衛山、標高1960M

 雨催いの天気が続く。今日も重苦しい灰色の空が頭上を圧し、今にも泣き出しそうだ。囲い罠に入れておいた牛は今朝行ってみたら、全頭が第4牧区へ移動していた。昨日、草も大分少なくなってきたので、思い切って第4に通ずるゲートを解放しておいたのだ。まだ給水タンクの防錆処理が終わっていないため、しばらくは囲い罠内の水タンクまで通わせようと境のゲートは開けてある。こちらの思惑通りうまくいくかと案じていたが、牛は三々五々古巣の囲い罠に戻り水を飲んで、また隣の牧区に戻る様子が見える。ただ今後この広い牧区に、今年の牛たちはどのように展開するのかは、まだ分からない。
 昨日の夕暮れ時に第1牧区へ塩を持っていったら、三角点の丘のいつもの草地から牛たちは寝場所を求めて移動中で、いくら呼んでも来ようとしない。またその移動の仕方が、まるで自分の順番が決まってでもいるかのように1頭づつ、ある一定の間をおいて立ち上がり、例のノロノロとした足取りで順繰りに森の中へと姿を消していった。ならばと、塩鉢にはわずかの塩を置いてきただけだったが、先ほど行ってみれば、こちらが行く前にあるだけの塩は舐めつくされていて、もっとよこせと待っていた。
 牛はこちらの意図が通ずるときもあれば、まったくダメなときもある。そういうことの繰り返しを夏の始めから秋の中頃までの4か月、一人で、1800メートルの高地にある牧場で笑ったり、怒ったりしながら過ごす、幾晩も長い山の夜を体験しながら。

 また霧が降りてきた。もう権兵衛山はスッポリと深い霧の中に隠れてしまった。今夜は里に下る。Chiyさん、「海のおうち山のおうち」今度の方が断然いいんじゃないですか。

 入笠牧場の山小屋「農協ハウス」及びキャンプ場の営業に関しましては、4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。また、入笠牧場からの星空に興味のある方は5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。カテゴリー別で見ることもできます。

 
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        Ume氏の入笠 「夏」 (17) 

2015年07月03日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など

 Photo by Ume氏

 下からはまだ何も言ってこないが、今日の草刈と布団干しはこの雨で中止になっただろう。梅雨の真っ最中だ、仕方ない。
 
ウグイスの声がしたと思って外に目をやったら、いつの間にか雨が止んで深い霧が立ち込めていた。ここから見える物といったら薄ぼんやりとした1本の小梨の木だけで、鳥の声でもしなければ音もない、縦、横、高さの次元すら曖昧な、空白の中に放り込まれてしまうような気がする。時折もの憂げななカッコーの声が霧の奥の方から聞こえてきても、それで白い静寂(しじま)が破られるというよりか、逆にここの模糊とした空白は深まるばかりのようだ。



 ところがあの人たちは来た、来てくれた。この雨の中さすがに布団干しはできなかったが、女性職員はその整理をしたり、小屋の片付けや清掃に甲斐がいしく働いてくれた。写真のような大型トラックターを自走させて来てくれたK氏、所長を始め男性職員は雨の中草刈に精を出してくれた。
 今日は畜産課からも牧担のF君やコンサルタントのY氏も来たり、地元の公民館が主催する「歩こう会」の下見にはTDS君他2名、そしてCM撮影のロケハンも来たりと慌しかったが、ようやく今は一人、止まらないピーナツバターをほうばっている。夕暮れとともに霧はますます深くなっていくようだ。
 追加の罠を新たに仕掛けて戻ってきたら途中で、久しぶりにまたあの野良猫に出会った。去年の冬なくした川上犬のキクも、あんなふうでもいいから、生きていてくれればいいのだが。

 NKZさんありがとう、喜んで遣わせて貰います。TDS君、差し入れ申し訳ない、ありがとう。テイ沢の草刈、今年も済まないがよろしく。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また、入笠牧場の山小屋「農協ハウス」及びキャンプ場の営業に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。
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        Ume氏の入笠 「夏」 (16)

2015年07月02日 | 牧場その日その時





                                              Photo by Ume氏(3点とも)

 今夜はUme氏のドキッとするような美しい花の写真を3点紹介して、あまり語らず静かに、山の夕暮れに埋没したい。花の名前は次回までお楽しみに。
 
 かんとさん、入笠牧場から眺める星空についてはお蔭さまで、徐々に多方面で注目されつつあります。かんとさん、TBIさん、そしてUme氏を忘れてはエライことになる、お三方のご支援には、本当に感謝しています。また3人で前回のように、「無窮の遠(おち)」へと旅立ってください。NKZさん二夜連続で会うなんて驚きでした。

 入笠牧場からの星空に興味のある方は、5月25,26,27日のブログにアクセスしてください。また、入笠牧場内の宿泊施設及びキャンプ場の営業に関しましては4月26日のブログをご覧ください(日付をクリック)。

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