■2018年1月16日付で総務省情報公開・個人情報保護審査会事務局から、諮問番号:平成29年(独情)諮問第86号事件に関する、諮問庁の高専機構(実質は群馬高専)が提出した理由説明書とともに、意見書又は資料提出の通知が当会事務局に届きました。それによれば、意見書等の提出の場合は、提出期限が2月6日(火)とされています。そのため急きょ意見書をまとめて、本日1月19日に、簡易書留で審査会事務局あてに郵送しました。
↑意見書の簡易書留郵便物等受領証と領収書。↑
これまでの経緯は当会の次のブログ記事をご覧ください。
〇2017年10月13日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…群馬高専と高専機構の経理についてのレポート↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2436.html
〇2017年11月16日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…アカハラ情報不開示取消訴訟の弁護士費用がほぼ不開示とされる↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2462.html
〇2017年11月17日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…アカハラ隠蔽を受け継ぐ山崎現校長の弁護士費用不開示に審査請求↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2463.html#readmore
〇2018年1月16日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…「弁護士費用」部分開示の審査請求で高専機構が当会宛に諮問通知↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2528.html#readmore
〇2018年1月17日:アカハラと寮生死亡事件に揺れる群馬高専…「弁護士費用」部分開示審査請求で高専機構の理由説明書が届く↓
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/2530.html#readmore
*****総務省審査会への意見書*****PDF ⇒ 2018011900.pdf
意見書
平成30年1月19日
総務省 情報公開・個人情報保護審査会事務局 御中
審査請求人:
郵便番号 371-0801
住 所 群馬県前橋市文京町一丁目15-10
氏 名 市民オンブズマン群馬
代 表 小川 賢(65歳)
連 絡 先 TEL:027-224-8567
事務局長 鈴木 庸(66歳)
下記1の諮問事件について、諮問庁の理由説明書に対する審査請求人の反論および追加意見を、下記3、4の通り審査会に提出する。
1 諮問事件
諮問番号:平成29年(独情)諮問第86号
事件名:特定の訴訟に係る弁護士への報酬に関する特定年度支払決議書等の一部開示決定に関する件
2 開示請求に係る法人文書の名称
独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「諮問庁」という)が被告代理人として選任した弁護士の所属する法律事務所との委任契約等に関する文書で以下の情報
・諮問庁の会計歳出のうちどの部分から弁護士費用が捻出されているのかに関わる情報
・諮問庁の予算内から当該法律事務所に対してこれまでに支払われた、および支払われる予定の報酬等(着手金・日当・交通費等の一切)の総額およびその内訳が把握可能な全ての情報
・諮問庁と当該法律事務所との間に結ばれた契約内容のうち、報酬等に関わる部分
3 審査請求人の反論および追加意見
審査請求人は、平成29年10月11日付で、諮問庁に対して、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という)第4条第1項の規定に基づき、前項2の法人文書(以下「本件情報」という)について開示請求を行ったところ、機構は平成29年11月10日付で以下の処分1および2をなした(まとめて以下「本件処分」という)。
(処分1)群高専総総第212-1号「法人文書開示決定通知書」において、「平成28年度支払決議書」中情報のうち、審査請求人の求める情報も含め大半を不開示とした。
(処分2)群高専総総第212-2号「法人文書不開示決定通知書」において、「委任契約書」を不開示とした。
このため、審査請求人は平成29年11月17日付で審査請求を行い、それに対して平成30年1月16日付情個審第85号別添で諮問庁の理由説明書が送付されたため、ここに次のとおり審査請求人の反論および追加意見を述べる。
(1)諮問庁は、処分1に関し、起票部署を公にした場合には、当該業務に携わった担当者が他の情報と照合することにより、特定の個人を容易に推測されることになる旨主張する。しかしながら、
・部署名から直ちに特定の個人を「容易に推測」することは各部署の人数からして不可能である。
・常識的に考えて、組織内で会計業務や契約締結等を担当する部署というのは決まっている。
・そもそも部署から直ちに特定個人を突き止められるような「他の情報」は存在しない。
・上3つの事実を無視しても、当該業務は当然公務(加えて言えば、役職から当然想定されうる業務の範囲内)としてなされているものであって、仮に担当者が判明したところで当該人物に不利益が生じたり、事務の適正な遂行が妨害されることは考えづらい。
以上の理由により、諮問庁の主張は、当を得たものとは認めづらい。
(2)諮問庁は、支払決議書番号及び支払管理番を公にした場合には、当該校における支払業務に関わる件数から事業規模が明らかになると主張する。しかし、常識的に考えて「決議書番号」「件数」「事業規模」の三者はまったく無関係なものであり、率直に言って意味不明である。少なくとも、一般的に支払案件に対し順番に付与されていく決議書番号/管理番号から「事業規模」を明らかにする方法があるとは考え難い。
また、もし仮におおまかな事業規模が推測されたとしても、それにより即座に諮問庁ないし当該弁護士事務所の業務に悪影響を及ぼすという理屈はない。
(3)諮問庁は、摘要のうち内訳に該当する部分および品名/件名のうち内訳に該当する部分を公にした場合には、事務処理上の機微にわたり業務内容が容易に推測されることになる旨主張する。
この「業務」が諮問庁・当該弁護士事務所どちらの業務を指すのか判然としないが、どちらを指すとしても、契約相手が弁護士事務所であることから、一般的な弁護士任用の費用体系から言って着手金・日当・交通費・成功報酬といった品名しか有り得ないのであり、名称に多少の違いはあるにしても、弁護士業務という性格から通常想定されうる名目の範疇であると考えられる。したがって、特別に事務処理上の機微として扱われるべき情報とは言い難く、加えて名目を公開することによって「業務内容を容易に推測」し、それが「事務の適正な遂行」に支障を及ぼすことは考え難い。
(4)諮問庁は、当該弁護士事務所への報酬等金額を明らかにしない理由について、当該弁護士の今後の業務に影響を及ぼし、その権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるからという旨主張し、次いで援用する形で2つの答申例(平成29年度(行情)答申第76号、平成28年度(独情)答申第96号)を引用する。
しかしながら、答申の原文を読めばわかる通り、諮問庁(機構)の引用箇所は「審査会が確認したところの当該諮問庁の主張」であり、決して審査会の判断そのものではない。
(参考:平成29年度(行情)答申第76号より一部引用)
(4)不開示部分4について
ア 当審査会事務局職員をして、諮問庁に対して、当該部分の不開示理由を改めて確認させたところ、諮問庁は、おおむね以下のとおり説明する。
(ア)当該部分は、・・・(以下諮問庁引用部分と同じ)
(参考:平成28年度(独情)答申第96号より一部引用)
イ 等(ママ)審査会事務局職員をして、諮問庁に対し、文書1を不開示とした理由等について、改めて確認させたところ、諮問庁は、おおむね以下のとおり説明する。
(ア)法5条2号イ該当性について
文書1に記載された事項は、全て、委任した・・・(以下諮問庁引用部分と同じ)
このように、諮問庁の引用は、あたかも審査会が実際にそう意見したかのようにミスリーディングさせる非常に悪質なものであり、そもそもが「答申」の引用ではない。公機関である諮問庁がこのような稚拙な情報の切り取りを行うことは、決して許されることではなく、また審査会や答申への侮辱とすら形容してよいものである。
また特に、諮問庁が平成29年度(行情)答申第76号を援用していることについて、アイデア等が事業運営や競争の核心となる私企業と弁護士事務所を同列に、あるいは入札という形で競争を行う私企業と、競争なきままに選定理由も明らかとされず随意契約という形で任用される弁護士事務所を同列に扱うことは明らかに妥当ではない。
加えて、この答申例においても、競争上の不利益が生ずるとまではいえない費目については金額の開示が認められており、むしろ諮問庁自身が金額の不開示が妥当ではないことを証明する形となってしまっていることも特筆すべき事柄であろう。
(参考:平成29年度(行情)答申第76号より一部引用)
(エ)経費の内訳部分について
(・・・途中省略・・・)
c しかしながら、支出項目部分のうち原処分において既にその全てが開示されている支出項目名は、諸謝金、人件費、旅費といったごく一般的なものであり、それに見合う項目ごとの金額(計画額小計部分)を開示しても、詳細な積算単価・積算内訳が判明するものでもないため、競合他社との間で競争上の不利益が生ずるとまではいえず、法5条2号イに該当しないことから、開示すべきである。
また、当該計画額小計部分を開示することにより自ずと明らかになる事業計画書の 1枚目(10頁)の内訳欄及び同計画書の38枚目(47頁)の再委託金額欄の金額についても、法5条2号イに該当せず、開示すべきである。
(5)そもそも、争訟に関する弁護士任用にかかる費用というのは、その任用時に着手金(相場:20~30万円程度)が支払われ、裁判所への出廷時に決まった日当(相場:数万円程度)と交通費(実費)が支払われ、さらにかかった印紙・郵送代等が実費で支払われ、判決時にその勝訴の度合いに応じて報酬金が支払われる、という体系となっている。
つまり、諮問庁や当該弁護士がどんな訴訟方針や戦略を立てているか、具体的にどのような業務を行ったかに一切関わらず一定のルールに基づいて弁護士費用は支払われるものなのであり、この具体的金額のみをもって係争中事案の具体的事情を推測することは不可能である。
加えて言えば、具体的金額が開示されたところで、諮問庁ないしは当該弁護士事務所がかかる案件を難しいと評価してその価格をつけたのか、比較的簡単なものと評価してその価格をつけたのか、その他どのような評価をしてその価格をつけたのか、外部の人間は知るすべをもたない。
したがって、弁護士起用にかかった費用、特にその総額を開示することによって訴訟当事者である諮問庁や当該弁護士事務所の利益が阻害されることはありえないし、加えて、当該弁護士事務所は、依頼者が私人や私企業ではなく公的責任の大きな国家機関(諮問庁)であることを承知の上で当該案件を受注したのであるから、情報開示制度によって当該情報が開示されいささかの不快の念を覚えたとしても、それは受忍すべき限度の範囲内に留まると考えるのが妥当である。
4 本件処分が妥当でないことを示す答申例・判例等
本項では、本件情報について諮問庁がなした不開示処分が妥当でないことを示す答申例・判例等を、審査請求人によるコメントと引用を交えつつ列挙する。なお、これら答申例・判例については、本意見書末尾に一覧を別表として付記したうえで、写しを資料として添付する。
(1)総務省(旧内閣府)情報公開・個人情報保護審査会による答申例
審査請求書にも記した通り、平成15年度(行情)答申第41号(資料1)と平成15年度(独情)答申第16号(資料2)が存在する。
このうち平成15年度(行情)答申第41号については、総務省の公開する答申選に掲載されており(資料3および4)、選任弁護士の報酬額が法5条2号イおよび6号ロに該当しないことがすでに明記されている。
(参考:答申選掲載事件名一覧より一部抜粋)
58 答申15(行情)41「特定訴訟に係る国側代理人弁護士と国との間の訴訟代理等に関する文書の不開示決定に関する件」
・選任弁護士の報酬額について、法5条2号イ及び6号ロ該当性を否定
また、これと平成15年度(独情)答申第16号については、総務省行政管理局の作成した「情報公開法に係る主な答申等について」(資料5)においても掲載されており、訴訟代理人弁護士の報酬額は「公にすることにより、当該法人又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」ではないと明記されている。
これら答申例は、総務省自身が作成した答申選や主要答申の一角として挙げられていることから、その重要性・影響力・決定性においてはその他と一線を画すものであり、諮問庁がこれに従うべきであることは明らかである。
(2)地方自治体による答申例
地方自治体レベルにおいては、任用した弁護士の報酬に関わる情報の開示を妥当としている例は枚挙にいとまがない。むろん従うべきが法と条例という差異はあるものの、根本的な判断基準のところでその性質を異にするものではない。
例えば、神戸市平成14年答申74号(資料6)においては、弁護士の氏名、事務所の所在地、電話番号、報酬額について開示が妥当であると裁定されている。
(参考:神戸市平成14年答申74号より一部引用)
イ 争訟事件の処理を委任した弁護士の氏名、事務所の所在地、事務所の電話番号
弁護士の氏名は、神戸市から争訟事件の処理を受任したことを示す情報である。これを公開しても、当該弁護士の依頼者に神戸市が含まれていることが明らかになるだけであり、これを非公開とする理由は認められない。また、事務所の所在地、事務所の電話番号についても、これを非公開としなければならない理由はない。
したがって、弁護士の氏名、事務所の所在地、事務所の電話番号は、(中略)非公開とした決定は妥当ではなく、公開すべきである。
ウ 弁護士に対して支払った報酬の額
(中略)
弁護士報酬の額が明らかになり、当該弁護士の他の依頼者が自己の支払う報酬額と異なることを知ったからといって、神戸市以外の依頼者から当該弁護士に不信、不満を抱き、信頼関係が損なわれ、当該弁護士の事業活動に支障が生じるとは認められない。
したがって、弁護士に対して支払った報酬の額は、改正前条例第7条第2号に該当せず、これを同号に該当するとして非公開とした決定は妥当ではなく、公開すべきである。
また、京都市平成20年答申第82号(資料7)においても、弁護士報酬を明らかにしたからといって当該弁護士の活動に具体的な支障が生じるとは認められないとして、開示が妥当と判定している。
(参考:京都市平成20年答申第82号より一部引用)
2 条例第7条第2号に該当することについて
(2)謝金の額については、評点を基に決定されるが、金額のみが明らかとなったとしても、その具体的な算定根拠までが明らかになるわけではない。
また、謝金の額については、最高裁平成8年7月19日判決以降、他都市において公開されている事例があり、それによって当該弁護士の活動に具体的な支障が生じているとは認められない。
さらに、弁護士の報酬については、弁護士法改正に伴い、個々の弁護士が自ら報酬に関する基準を整備し、かつ自己の報酬に関する情報を広く知らしめるよう努めることとなった。したがって、謝金の額が明らかになることによって、当該弁護士が、競業している弁護士、また、当該弁護士に依頼をしようとする第三者から、その能力についての誤解を受けるとは考えられない。
3 条例第7条第7号に該当することについて
ア 京都市が争訟事件を処理するにあたり弁護士へ支払う謝金の額については、他の公共事業に要する額と同様に公金の支出に関する情報であり、納税者に対する説明責任がある。
イ 他都市において弁護士の謝金が公開されていること、また、京都市が行う他の公共事業に要する額が公開されていることにより、特段の支障が生じているとは認められず、謝金の額を公開したとしても、京都市と弁護士との間の信頼関係が著しく損なわれ、今後の争訟事件の処理という京都市の事務事業の円滑な執行に著しい支障が生じるとは認められない。
さらに、千葉県平成15年答申第119号(資料8)を見ても、公機関が選任した弁護士の報酬額が明らかとなったとしても、その競争上もしくは事業運営上の地位に不利益を与えるものではないと判定されている。
(参考:千葉県平成15年答申第119号より一部引用)
しかしながら、公的機関が依頼者となる事件の弁護士報酬額は、予算の適正な執行という点からすれば、当該事件処理により確保される経済的利益の価額に基づいて客観的に決定されるべきもので、私人や会社が支払う弁護士報酬額よりも、より定型的に算出されているのが実態と考えられる。
本件についても、実施期間は、「千葉県企業庁争訟事件の報酬等に関する規定(内規)」に定めるところの経済的利益の額に対応する額の上限額を使用し、弁護士報酬額を決定したものである。
このようにして決定された弁護士報酬額が明らかになったとしても、事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えるものとまではいえない。
加えて、滋賀県平成29年答申第98~101号(資料9)においても、弁護士報酬は特定事案における契約状況の一端を示すにとどまるものであり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまではいえないと判断されている。
(参考:滋賀県平成29年答申第98~101号より一部引用)
確かに、弁護士との契約金額や委任契約の内容については、法律事務所報酬規程に基づき、事件の内容や難易度、依頼者の資力など事案毎の事情を考慮して決定されているものと考えられるところである。
しかしながら、当該非公開情報は、実施機関と弁護士との契約内容や契約金額そのものであると認められ、これを公にしたとしても、特定事案における契約状況の一端を示すにとどまり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは言えない。
当該情報が公金の支出に係る情報であることに鑑みれば、県民等に対する公開の要請が強いものと言うべきであり、実施機関の説明からは、非公開情報該当性を認めるべき具体的な理由は見当たらないものである。
(3)公機関の選任した弁護士の報酬を開示することが妥当とした判例
このような判例としては、大阪地裁平成8年(行ウ)118号(資料10)がある。この中で、大阪地裁は、公機関の支払う弁護士報酬は、私人や会社が支払う場合と異なり一定の基準に基づき客観的に決定されるものであり、さらにこのことを当該弁護士が承知した上で受任するものであるから、報酬額を開示しただけで当該事務所の営業上の内部方針等が明らかになったり、業務に影響を与えることはないと判定している。また、それまでにも公機関の選任した弁護士の報酬が開示されてきた事例が幾多あり、それによって具体的に当該弁護士の利益が損なわれたケースは存在しないという事実を理由として採用している。
(参考:大阪地裁平成8年(行ウ)118号中判決理由より一部引用)
1 本件条例六条三号本文該当性について
(三)しかしながら、本件情報は、(中略)、私人や会社が支払った弁護士報酬の場合とはやや趣が異なる。すなわち、地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、予算の適正な執行という点からも、日本弁護士連合及び各弁護士会が定めた報酬規定による基本報酬額や当該事件処理により確保した経済的利益の価額により、一定の基準に基づいてできる限り客観的に決められるべきものであり、依頼を受けた当該弁護士もそれを承知でこれを承諾するもので、その決定に当たって依頼を受けた弁護士との間の人間関係は考慮されるべきではない。このような意味において、地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、私人や会社が支払う弁護士報酬の額よりも、より定型的に算出される傾向があるといえる。このような弁護士報酬額及びその算定に当たって考慮された事項が明らかになったとしても、当該弁護士の他の依頼者が自己の支払った報酬額と比較するなどして、当該弁護士の事業活動上の内部管理に属する営業上の方針が明らかになって、当該弁護士と依頼者との信頼関係が損なわれるとは考えられない。
2 本件条例六条八号該当性について
(二)本件情報に係る弁護士報酬は、地方自治体が支払った弁護士報酬であって、その性質は、前判示のとおりである以上、本件情報(その額およびその算定に当たって考慮された事項)が公開されたとしても、それは、大阪市の予算執行の内容が公開されたもので、報酬額の決定が適正にされている限りにおいては、それによって、大阪市から依頼を受けた他の弁護士が大阪市に不信感を抱き、それによって、大阪市における同種の事件処理を行うにつき支障が生じる事態はあり得ないというべきである。
また、調査嘱託の結果によれば、大阪府、徳島県及び徳島市等の地方自治体においては、すでに事件処理の依頼により支払った弁護士報酬の額を公文書公開条例に基づく請求に応じて公開した例があり、そのうち大阪府の担当者は、その報酬は府が定めた一定の基準に基づきその額を支出するという定型的な処理をしており、公開することによる具体的な支障は生じないと判断していることが認められる。
(4)弁護士報酬等情報の公開の普遍性
上記の答申・判決等を見ても一目瞭然のとおり、すでにわが国の情報公開制度において公機関の選任した弁護士報酬等情報は長らく公開されてきていて、開示を妥当とする答申も蓄積されているものである。例えば橿原市が平成21年に受けた情報公開請求の内容一覧(資料11)を見ても、たった1つの市にたった1年で十数件もの弁護士費用に関する情報公開請求がなされており、しかも報酬等については問題なく開示されていることがわかる。
このように、弁護士報酬等情報(係争中の事案も含む)が幾多開示されてきたにも関わらず、諮問庁が主張するように、開示によって「業務に影響を及ぼし、当該弁護士等の権利、競争上の地位その他正当な利益が害された」具体的な事例は、皆無と断言してよいものである(仮にあったのだとすれば、それは諮問庁が立証しなければならない)。よって、そのようなおそれも、当然生じ得ないと考えるのが妥当である。
5 結言
かかる状況を、あらゆる観点から検討、分析、熟慮しても、諮問庁による本件処分には妥当な根拠がなく、その速やかな取消を求める。
6 付言
また、本件情報に関わる弁護士事務所の所属弁護士が、審査請求人と諮問庁との間で行われている係争の諮問庁側代理人であることは事実であるが、すでに本意見書提出時点で控訴審が終結間近であり、民事裁判において上告が受理されることが一般的に極めて困難であることを考えれば、本審査請求に対する答申が出て開示がなされるまでには係争はすでに諮問庁・当該弁護士事務所の訴訟方針を反映することが不可能な段階に達しているあるいは終結しているであろうことから、現在係争中であることは本質的な問題ではない。仮に係争中であることが不開示事由に加味されるとしても、係争が終わり次第開示することを確約すればよいだけだから、いずれにせよ本質的な問題ではない。
以 上
*****別表1*****
別表1 添付資料一覧
●資料番号:1
PDF ⇒ 20180119011.pdf
〇名称:平成15年度(行情)答申第41号
〇作成者:総務省
〇概要:選任弁護士の報酬額について、法5条2号イ及び6号ロ該当性を否定
●資料番号:2
PDF ⇒ 20180119022.pdf
〇名称:平成15年度(独情)答申第16号
〇作成者:同上
〇概要:同上
●資料番号:3
PDF ⇒ 20180119033.pdf
〇名称:答申選掲載事件名一覧
〇作成者:同上
〇概要:平成15年度(行情)答申第41号が答申選掲載案件であり重要かつ決定的な答申であることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(58番が該当箇所)
●資料番号:4
PDF ⇒ 20180119044.pdf
〇名称:答申選
〇作成者:同上
〇概要:同上
●資料番号:5
PDF ⇒ 20180119055.pdf
〇名称:情報公開法に係る主な答申等について
〇作成者:同上
〇概要:平成15年度(行情)答申第41号、平成15年度(独情)答申第16号が総務省自身認める主要答申例であり重要かつ決定的なものであることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(14頁目下部が該当箇所)
●資料番号:6
PDF ⇒ 20180119066.pdf
〇名称:神戸市平成14年答申第74号
〇作成者:神戸市
〇概要:弁護士の氏名、事務所の所在地、電話番号、報酬額について開示が妥当であると裁定
●資料番号:7
PDF ⇒ 20180119077.pdf
〇名称:京都市平成20年答申第82号
〇作成者:京都市
〇概要:弁護士報酬を明らかにすることで当該弁護士の活動に具体的な支障が生じるとは認められないとして、開示が妥当と判定
●資料番号:8
PDF ⇒ 20180119088.pdf
〇名称:千葉県平成15年答申第119号
〇作成者:千葉県
〇概要:公機関が選任した弁護士の報酬額が明らかとなったとしても、その競争上もしくは事業運営上の地位に不利益を与えるものではないと判定
●資料番号:9
PDF ⇒ 20180119099.pdf
〇名称:滋賀県平成29年答申第98~101号
〇作成者:滋賀県
〇概要:弁護士報酬は特定事案における契約状況の一端を示すにとどまるものであり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまではいえないと判断
●資料番号:10
PDF ⇒ 201801191010.pdf
〇名称:大阪地裁平成8年(行ウ)118号
〇作成者:大阪地裁
〇概要:公機関の選任した弁護士の報酬を開示することが妥当とした判決(判決要旨、主文、理由のみ抜粋)
●資料番号:11
PDF ⇒ 201801191111.pdf
〇名称:橿原市行政文書公開請求内容一覧表(平成21年度)
〇作成者:橿原市
〇概要:地方行政レベルにおいても、選任した弁護士の報酬等費用情報についての開示が問題なく行われていることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(99番から116番が該当箇所)
**********
■先日の「校報」人事情報不開示(諮問番号:平成29年(独情)諮問第71号)といい、今回の弁護士情報不開示(諮問番号:平成29年(独情)諮問第86号)といい、国立高専機構=群馬高専の情報秘匿体質は異常なほど際立っています。
そのため、当会ではそうした体質を改善させるために2件の審査請求手続きを執っています。2018年1月16日に総務省の審査会事務局(TEL03-5501-1760)に確認したところ、2件の審査請求手続きの進捗状況は次のとおりだということです。
**********
①校報:平成29年(独情)諮問第71号
既に意見書を頂いており、写しを機構にも送って、審査会で審議の段階にある。審査会の開催履歴と、協議対象事案は総務省のHPに掲載している。
ただし、書類の整った順番に審査にかける上に、行政手続法で定める回答期限というものも決められていないので、いつまでに必ず答申するという確約はしていない。こうして電話で問い合わせいただければ、ファイルの検索に少し手間取るが、個別にお答えさせていただいている。
(当会注:ちなみに「校報」人事情報不開示の審査請求は、第5部会で審議中です。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/jyouhou/kaisai.html
また、第1回目の審議は2017年11月22日に開催されており、次の議事の項目等(4)番に本件事件について記述があります。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000518776.pdf )
②弁護士費用:平成29年(独情)諮問第86号
12月25日に諮問のあった事案。ちょうど1月16日の本日付で理由説明書を審査請求人(市民オンブズマン群馬)あてに郵送したばかりなので、まもなく受領できるはずなので、確認いただきたい。
なお、①に比べて②が相対的に遅れている理由は、年末年始にかかり、その分、業務多忙のしわ寄せの影響をうけてしまい、結果的にお待たせいただくことになり申し訳ない。
**********
■今回、上記②の弁護士費用等情報不開示審査請求にかかる当会の意見書を審査会ではどのように評価するのでしょうか。読者会員の皆様と注視してまいりたいと存じます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
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*****総務省審査会への意見書*****PDF ⇒ 2018011900.pdf
意見書
平成30年1月19日
総務省 情報公開・個人情報保護審査会事務局 御中
審査請求人:
郵便番号 371-0801
住 所 群馬県前橋市文京町一丁目15-10
氏 名 市民オンブズマン群馬
代 表 小川 賢(65歳)
連 絡 先 TEL:027-224-8567
事務局長 鈴木 庸(66歳)
下記1の諮問事件について、諮問庁の理由説明書に対する審査請求人の反論および追加意見を、下記3、4の通り審査会に提出する。
1 諮問事件
諮問番号:平成29年(独情)諮問第86号
事件名:特定の訴訟に係る弁護士への報酬に関する特定年度支払決議書等の一部開示決定に関する件
2 開示請求に係る法人文書の名称
独立行政法人国立高等専門学校機構(以下「諮問庁」という)が被告代理人として選任した弁護士の所属する法律事務所との委任契約等に関する文書で以下の情報
・諮問庁の会計歳出のうちどの部分から弁護士費用が捻出されているのかに関わる情報
・諮問庁の予算内から当該法律事務所に対してこれまでに支払われた、および支払われる予定の報酬等(着手金・日当・交通費等の一切)の総額およびその内訳が把握可能な全ての情報
・諮問庁と当該法律事務所との間に結ばれた契約内容のうち、報酬等に関わる部分
3 審査請求人の反論および追加意見
審査請求人は、平成29年10月11日付で、諮問庁に対して、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という)第4条第1項の規定に基づき、前項2の法人文書(以下「本件情報」という)について開示請求を行ったところ、機構は平成29年11月10日付で以下の処分1および2をなした(まとめて以下「本件処分」という)。
(処分1)群高専総総第212-1号「法人文書開示決定通知書」において、「平成28年度支払決議書」中情報のうち、審査請求人の求める情報も含め大半を不開示とした。
(処分2)群高専総総第212-2号「法人文書不開示決定通知書」において、「委任契約書」を不開示とした。
このため、審査請求人は平成29年11月17日付で審査請求を行い、それに対して平成30年1月16日付情個審第85号別添で諮問庁の理由説明書が送付されたため、ここに次のとおり審査請求人の反論および追加意見を述べる。
(1)諮問庁は、処分1に関し、起票部署を公にした場合には、当該業務に携わった担当者が他の情報と照合することにより、特定の個人を容易に推測されることになる旨主張する。しかしながら、
・部署名から直ちに特定の個人を「容易に推測」することは各部署の人数からして不可能である。
・常識的に考えて、組織内で会計業務や契約締結等を担当する部署というのは決まっている。
・そもそも部署から直ちに特定個人を突き止められるような「他の情報」は存在しない。
・上3つの事実を無視しても、当該業務は当然公務(加えて言えば、役職から当然想定されうる業務の範囲内)としてなされているものであって、仮に担当者が判明したところで当該人物に不利益が生じたり、事務の適正な遂行が妨害されることは考えづらい。
以上の理由により、諮問庁の主張は、当を得たものとは認めづらい。
(2)諮問庁は、支払決議書番号及び支払管理番を公にした場合には、当該校における支払業務に関わる件数から事業規模が明らかになると主張する。しかし、常識的に考えて「決議書番号」「件数」「事業規模」の三者はまったく無関係なものであり、率直に言って意味不明である。少なくとも、一般的に支払案件に対し順番に付与されていく決議書番号/管理番号から「事業規模」を明らかにする方法があるとは考え難い。
また、もし仮におおまかな事業規模が推測されたとしても、それにより即座に諮問庁ないし当該弁護士事務所の業務に悪影響を及ぼすという理屈はない。
(3)諮問庁は、摘要のうち内訳に該当する部分および品名/件名のうち内訳に該当する部分を公にした場合には、事務処理上の機微にわたり業務内容が容易に推測されることになる旨主張する。
この「業務」が諮問庁・当該弁護士事務所どちらの業務を指すのか判然としないが、どちらを指すとしても、契約相手が弁護士事務所であることから、一般的な弁護士任用の費用体系から言って着手金・日当・交通費・成功報酬といった品名しか有り得ないのであり、名称に多少の違いはあるにしても、弁護士業務という性格から通常想定されうる名目の範疇であると考えられる。したがって、特別に事務処理上の機微として扱われるべき情報とは言い難く、加えて名目を公開することによって「業務内容を容易に推測」し、それが「事務の適正な遂行」に支障を及ぼすことは考え難い。
(4)諮問庁は、当該弁護士事務所への報酬等金額を明らかにしない理由について、当該弁護士の今後の業務に影響を及ぼし、その権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるからという旨主張し、次いで援用する形で2つの答申例(平成29年度(行情)答申第76号、平成28年度(独情)答申第96号)を引用する。
しかしながら、答申の原文を読めばわかる通り、諮問庁(機構)の引用箇所は「審査会が確認したところの当該諮問庁の主張」であり、決して審査会の判断そのものではない。
(参考:平成29年度(行情)答申第76号より一部引用)
(4)不開示部分4について
ア 当審査会事務局職員をして、諮問庁に対して、当該部分の不開示理由を改めて確認させたところ、諮問庁は、おおむね以下のとおり説明する。
(ア)当該部分は、・・・(以下諮問庁引用部分と同じ)
(参考:平成28年度(独情)答申第96号より一部引用)
イ 等(ママ)審査会事務局職員をして、諮問庁に対し、文書1を不開示とした理由等について、改めて確認させたところ、諮問庁は、おおむね以下のとおり説明する。
(ア)法5条2号イ該当性について
文書1に記載された事項は、全て、委任した・・・(以下諮問庁引用部分と同じ)
このように、諮問庁の引用は、あたかも審査会が実際にそう意見したかのようにミスリーディングさせる非常に悪質なものであり、そもそもが「答申」の引用ではない。公機関である諮問庁がこのような稚拙な情報の切り取りを行うことは、決して許されることではなく、また審査会や答申への侮辱とすら形容してよいものである。
また特に、諮問庁が平成29年度(行情)答申第76号を援用していることについて、アイデア等が事業運営や競争の核心となる私企業と弁護士事務所を同列に、あるいは入札という形で競争を行う私企業と、競争なきままに選定理由も明らかとされず随意契約という形で任用される弁護士事務所を同列に扱うことは明らかに妥当ではない。
加えて、この答申例においても、競争上の不利益が生ずるとまではいえない費目については金額の開示が認められており、むしろ諮問庁自身が金額の不開示が妥当ではないことを証明する形となってしまっていることも特筆すべき事柄であろう。
(参考:平成29年度(行情)答申第76号より一部引用)
(エ)経費の内訳部分について
(・・・途中省略・・・)
c しかしながら、支出項目部分のうち原処分において既にその全てが開示されている支出項目名は、諸謝金、人件費、旅費といったごく一般的なものであり、それに見合う項目ごとの金額(計画額小計部分)を開示しても、詳細な積算単価・積算内訳が判明するものでもないため、競合他社との間で競争上の不利益が生ずるとまではいえず、法5条2号イに該当しないことから、開示すべきである。
また、当該計画額小計部分を開示することにより自ずと明らかになる事業計画書の 1枚目(10頁)の内訳欄及び同計画書の38枚目(47頁)の再委託金額欄の金額についても、法5条2号イに該当せず、開示すべきである。
(5)そもそも、争訟に関する弁護士任用にかかる費用というのは、その任用時に着手金(相場:20~30万円程度)が支払われ、裁判所への出廷時に決まった日当(相場:数万円程度)と交通費(実費)が支払われ、さらにかかった印紙・郵送代等が実費で支払われ、判決時にその勝訴の度合いに応じて報酬金が支払われる、という体系となっている。
つまり、諮問庁や当該弁護士がどんな訴訟方針や戦略を立てているか、具体的にどのような業務を行ったかに一切関わらず一定のルールに基づいて弁護士費用は支払われるものなのであり、この具体的金額のみをもって係争中事案の具体的事情を推測することは不可能である。
加えて言えば、具体的金額が開示されたところで、諮問庁ないしは当該弁護士事務所がかかる案件を難しいと評価してその価格をつけたのか、比較的簡単なものと評価してその価格をつけたのか、その他どのような評価をしてその価格をつけたのか、外部の人間は知るすべをもたない。
したがって、弁護士起用にかかった費用、特にその総額を開示することによって訴訟当事者である諮問庁や当該弁護士事務所の利益が阻害されることはありえないし、加えて、当該弁護士事務所は、依頼者が私人や私企業ではなく公的責任の大きな国家機関(諮問庁)であることを承知の上で当該案件を受注したのであるから、情報開示制度によって当該情報が開示されいささかの不快の念を覚えたとしても、それは受忍すべき限度の範囲内に留まると考えるのが妥当である。
4 本件処分が妥当でないことを示す答申例・判例等
本項では、本件情報について諮問庁がなした不開示処分が妥当でないことを示す答申例・判例等を、審査請求人によるコメントと引用を交えつつ列挙する。なお、これら答申例・判例については、本意見書末尾に一覧を別表として付記したうえで、写しを資料として添付する。
(1)総務省(旧内閣府)情報公開・個人情報保護審査会による答申例
審査請求書にも記した通り、平成15年度(行情)答申第41号(資料1)と平成15年度(独情)答申第16号(資料2)が存在する。
このうち平成15年度(行情)答申第41号については、総務省の公開する答申選に掲載されており(資料3および4)、選任弁護士の報酬額が法5条2号イおよび6号ロに該当しないことがすでに明記されている。
(参考:答申選掲載事件名一覧より一部抜粋)
58 答申15(行情)41「特定訴訟に係る国側代理人弁護士と国との間の訴訟代理等に関する文書の不開示決定に関する件」
・選任弁護士の報酬額について、法5条2号イ及び6号ロ該当性を否定
また、これと平成15年度(独情)答申第16号については、総務省行政管理局の作成した「情報公開法に係る主な答申等について」(資料5)においても掲載されており、訴訟代理人弁護士の報酬額は「公にすることにより、当該法人又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」ではないと明記されている。
これら答申例は、総務省自身が作成した答申選や主要答申の一角として挙げられていることから、その重要性・影響力・決定性においてはその他と一線を画すものであり、諮問庁がこれに従うべきであることは明らかである。
(2)地方自治体による答申例
地方自治体レベルにおいては、任用した弁護士の報酬に関わる情報の開示を妥当としている例は枚挙にいとまがない。むろん従うべきが法と条例という差異はあるものの、根本的な判断基準のところでその性質を異にするものではない。
例えば、神戸市平成14年答申74号(資料6)においては、弁護士の氏名、事務所の所在地、電話番号、報酬額について開示が妥当であると裁定されている。
(参考:神戸市平成14年答申74号より一部引用)
イ 争訟事件の処理を委任した弁護士の氏名、事務所の所在地、事務所の電話番号
弁護士の氏名は、神戸市から争訟事件の処理を受任したことを示す情報である。これを公開しても、当該弁護士の依頼者に神戸市が含まれていることが明らかになるだけであり、これを非公開とする理由は認められない。また、事務所の所在地、事務所の電話番号についても、これを非公開としなければならない理由はない。
したがって、弁護士の氏名、事務所の所在地、事務所の電話番号は、(中略)非公開とした決定は妥当ではなく、公開すべきである。
ウ 弁護士に対して支払った報酬の額
(中略)
弁護士報酬の額が明らかになり、当該弁護士の他の依頼者が自己の支払う報酬額と異なることを知ったからといって、神戸市以外の依頼者から当該弁護士に不信、不満を抱き、信頼関係が損なわれ、当該弁護士の事業活動に支障が生じるとは認められない。
したがって、弁護士に対して支払った報酬の額は、改正前条例第7条第2号に該当せず、これを同号に該当するとして非公開とした決定は妥当ではなく、公開すべきである。
また、京都市平成20年答申第82号(資料7)においても、弁護士報酬を明らかにしたからといって当該弁護士の活動に具体的な支障が生じるとは認められないとして、開示が妥当と判定している。
(参考:京都市平成20年答申第82号より一部引用)
2 条例第7条第2号に該当することについて
(2)謝金の額については、評点を基に決定されるが、金額のみが明らかとなったとしても、その具体的な算定根拠までが明らかになるわけではない。
また、謝金の額については、最高裁平成8年7月19日判決以降、他都市において公開されている事例があり、それによって当該弁護士の活動に具体的な支障が生じているとは認められない。
さらに、弁護士の報酬については、弁護士法改正に伴い、個々の弁護士が自ら報酬に関する基準を整備し、かつ自己の報酬に関する情報を広く知らしめるよう努めることとなった。したがって、謝金の額が明らかになることによって、当該弁護士が、競業している弁護士、また、当該弁護士に依頼をしようとする第三者から、その能力についての誤解を受けるとは考えられない。
3 条例第7条第7号に該当することについて
ア 京都市が争訟事件を処理するにあたり弁護士へ支払う謝金の額については、他の公共事業に要する額と同様に公金の支出に関する情報であり、納税者に対する説明責任がある。
イ 他都市において弁護士の謝金が公開されていること、また、京都市が行う他の公共事業に要する額が公開されていることにより、特段の支障が生じているとは認められず、謝金の額を公開したとしても、京都市と弁護士との間の信頼関係が著しく損なわれ、今後の争訟事件の処理という京都市の事務事業の円滑な執行に著しい支障が生じるとは認められない。
さらに、千葉県平成15年答申第119号(資料8)を見ても、公機関が選任した弁護士の報酬額が明らかとなったとしても、その競争上もしくは事業運営上の地位に不利益を与えるものではないと判定されている。
(参考:千葉県平成15年答申第119号より一部引用)
しかしながら、公的機関が依頼者となる事件の弁護士報酬額は、予算の適正な執行という点からすれば、当該事件処理により確保される経済的利益の価額に基づいて客観的に決定されるべきもので、私人や会社が支払う弁護士報酬額よりも、より定型的に算出されているのが実態と考えられる。
本件についても、実施期間は、「千葉県企業庁争訟事件の報酬等に関する規定(内規)」に定めるところの経済的利益の額に対応する額の上限額を使用し、弁護士報酬額を決定したものである。
このようにして決定された弁護士報酬額が明らかになったとしても、事業を営む個人の競争上若しくは事業運営上の地位に不利益を与えるものとまではいえない。
加えて、滋賀県平成29年答申第98~101号(資料9)においても、弁護士報酬は特定事案における契約状況の一端を示すにとどまるものであり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまではいえないと判断されている。
(参考:滋賀県平成29年答申第98~101号より一部引用)
確かに、弁護士との契約金額や委任契約の内容については、法律事務所報酬規程に基づき、事件の内容や難易度、依頼者の資力など事案毎の事情を考慮して決定されているものと考えられるところである。
しかしながら、当該非公開情報は、実施機関と弁護士との契約内容や契約金額そのものであると認められ、これを公にしたとしても、特定事案における契約状況の一端を示すにとどまり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまでは言えない。
当該情報が公金の支出に係る情報であることに鑑みれば、県民等に対する公開の要請が強いものと言うべきであり、実施機関の説明からは、非公開情報該当性を認めるべき具体的な理由は見当たらないものである。
(3)公機関の選任した弁護士の報酬を開示することが妥当とした判例
このような判例としては、大阪地裁平成8年(行ウ)118号(資料10)がある。この中で、大阪地裁は、公機関の支払う弁護士報酬は、私人や会社が支払う場合と異なり一定の基準に基づき客観的に決定されるものであり、さらにこのことを当該弁護士が承知した上で受任するものであるから、報酬額を開示しただけで当該事務所の営業上の内部方針等が明らかになったり、業務に影響を与えることはないと判定している。また、それまでにも公機関の選任した弁護士の報酬が開示されてきた事例が幾多あり、それによって具体的に当該弁護士の利益が損なわれたケースは存在しないという事実を理由として採用している。
(参考:大阪地裁平成8年(行ウ)118号中判決理由より一部引用)
1 本件条例六条三号本文該当性について
(三)しかしながら、本件情報は、(中略)、私人や会社が支払った弁護士報酬の場合とはやや趣が異なる。すなわち、地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、予算の適正な執行という点からも、日本弁護士連合及び各弁護士会が定めた報酬規定による基本報酬額や当該事件処理により確保した経済的利益の価額により、一定の基準に基づいてできる限り客観的に決められるべきものであり、依頼を受けた当該弁護士もそれを承知でこれを承諾するもので、その決定に当たって依頼を受けた弁護士との間の人間関係は考慮されるべきではない。このような意味において、地方公共団体が支払う弁護士報酬の額は、私人や会社が支払う弁護士報酬の額よりも、より定型的に算出される傾向があるといえる。このような弁護士報酬額及びその算定に当たって考慮された事項が明らかになったとしても、当該弁護士の他の依頼者が自己の支払った報酬額と比較するなどして、当該弁護士の事業活動上の内部管理に属する営業上の方針が明らかになって、当該弁護士と依頼者との信頼関係が損なわれるとは考えられない。
2 本件条例六条八号該当性について
(二)本件情報に係る弁護士報酬は、地方自治体が支払った弁護士報酬であって、その性質は、前判示のとおりである以上、本件情報(その額およびその算定に当たって考慮された事項)が公開されたとしても、それは、大阪市の予算執行の内容が公開されたもので、報酬額の決定が適正にされている限りにおいては、それによって、大阪市から依頼を受けた他の弁護士が大阪市に不信感を抱き、それによって、大阪市における同種の事件処理を行うにつき支障が生じる事態はあり得ないというべきである。
また、調査嘱託の結果によれば、大阪府、徳島県及び徳島市等の地方自治体においては、すでに事件処理の依頼により支払った弁護士報酬の額を公文書公開条例に基づく請求に応じて公開した例があり、そのうち大阪府の担当者は、その報酬は府が定めた一定の基準に基づきその額を支出するという定型的な処理をしており、公開することによる具体的な支障は生じないと判断していることが認められる。
(4)弁護士報酬等情報の公開の普遍性
上記の答申・判決等を見ても一目瞭然のとおり、すでにわが国の情報公開制度において公機関の選任した弁護士報酬等情報は長らく公開されてきていて、開示を妥当とする答申も蓄積されているものである。例えば橿原市が平成21年に受けた情報公開請求の内容一覧(資料11)を見ても、たった1つの市にたった1年で十数件もの弁護士費用に関する情報公開請求がなされており、しかも報酬等については問題なく開示されていることがわかる。
このように、弁護士報酬等情報(係争中の事案も含む)が幾多開示されてきたにも関わらず、諮問庁が主張するように、開示によって「業務に影響を及ぼし、当該弁護士等の権利、競争上の地位その他正当な利益が害された」具体的な事例は、皆無と断言してよいものである(仮にあったのだとすれば、それは諮問庁が立証しなければならない)。よって、そのようなおそれも、当然生じ得ないと考えるのが妥当である。
5 結言
かかる状況を、あらゆる観点から検討、分析、熟慮しても、諮問庁による本件処分には妥当な根拠がなく、その速やかな取消を求める。
6 付言
また、本件情報に関わる弁護士事務所の所属弁護士が、審査請求人と諮問庁との間で行われている係争の諮問庁側代理人であることは事実であるが、すでに本意見書提出時点で控訴審が終結間近であり、民事裁判において上告が受理されることが一般的に極めて困難であることを考えれば、本審査請求に対する答申が出て開示がなされるまでには係争はすでに諮問庁・当該弁護士事務所の訴訟方針を反映することが不可能な段階に達しているあるいは終結しているであろうことから、現在係争中であることは本質的な問題ではない。仮に係争中であることが不開示事由に加味されるとしても、係争が終わり次第開示することを確約すればよいだけだから、いずれにせよ本質的な問題ではない。
以 上
*****別表1*****
別表1 添付資料一覧
●資料番号:1
PDF ⇒ 20180119011.pdf
〇名称:平成15年度(行情)答申第41号
〇作成者:総務省
〇概要:選任弁護士の報酬額について、法5条2号イ及び6号ロ該当性を否定
●資料番号:2
PDF ⇒ 20180119022.pdf
〇名称:平成15年度(独情)答申第16号
〇作成者:同上
〇概要:同上
●資料番号:3
PDF ⇒ 20180119033.pdf
〇名称:答申選掲載事件名一覧
〇作成者:同上
〇概要:平成15年度(行情)答申第41号が答申選掲載案件であり重要かつ決定的な答申であることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(58番が該当箇所)
●資料番号:4
PDF ⇒ 20180119044.pdf
〇名称:答申選
〇作成者:同上
〇概要:同上
●資料番号:5
PDF ⇒ 20180119055.pdf
〇名称:情報公開法に係る主な答申等について
〇作成者:同上
〇概要:平成15年度(行情)答申第41号、平成15年度(独情)答申第16号が総務省自身認める主要答申例であり重要かつ決定的なものであることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(14頁目下部が該当箇所)
●資料番号:6
PDF ⇒ 20180119066.pdf
〇名称:神戸市平成14年答申第74号
〇作成者:神戸市
〇概要:弁護士の氏名、事務所の所在地、電話番号、報酬額について開示が妥当であると裁定
●資料番号:7
PDF ⇒ 20180119077.pdf
〇名称:京都市平成20年答申第82号
〇作成者:京都市
〇概要:弁護士報酬を明らかにすることで当該弁護士の活動に具体的な支障が生じるとは認められないとして、開示が妥当と判定
●資料番号:8
PDF ⇒ 20180119088.pdf
〇名称:千葉県平成15年答申第119号
〇作成者:千葉県
〇概要:公機関が選任した弁護士の報酬額が明らかとなったとしても、その競争上もしくは事業運営上の地位に不利益を与えるものではないと判定
●資料番号:9
PDF ⇒ 20180119099.pdf
〇名称:滋賀県平成29年答申第98~101号
〇作成者:滋賀県
〇概要:弁護士報酬は特定事案における契約状況の一端を示すにとどまるものであり、当該弁護士の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとまではいえないと判断
●資料番号:10
PDF ⇒ 201801191010.pdf
〇名称:大阪地裁平成8年(行ウ)118号
〇作成者:大阪地裁
〇概要:公機関の選任した弁護士の報酬を開示することが妥当とした判決(判決要旨、主文、理由のみ抜粋)
●資料番号:11
PDF ⇒ 201801191111.pdf
〇名称:橿原市行政文書公開請求内容一覧表(平成21年度)
〇作成者:橿原市
〇概要:地方行政レベルにおいても、選任した弁護士の報酬等費用情報についての開示が問題なく行われていることを示す。なお、表紙と該当箇所のみ抜粋(99番から116番が該当箇所)
**********
■先日の「校報」人事情報不開示(諮問番号:平成29年(独情)諮問第71号)といい、今回の弁護士情報不開示(諮問番号:平成29年(独情)諮問第86号)といい、国立高専機構=群馬高専の情報秘匿体質は異常なほど際立っています。
そのため、当会ではそうした体質を改善させるために2件の審査請求手続きを執っています。2018年1月16日に総務省の審査会事務局(TEL03-5501-1760)に確認したところ、2件の審査請求手続きの進捗状況は次のとおりだということです。
**********
①校報:平成29年(独情)諮問第71号
既に意見書を頂いており、写しを機構にも送って、審査会で審議の段階にある。審査会の開催履歴と、協議対象事案は総務省のHPに掲載している。
ただし、書類の整った順番に審査にかける上に、行政手続法で定める回答期限というものも決められていないので、いつまでに必ず答申するという確約はしていない。こうして電話で問い合わせいただければ、ファイルの検索に少し手間取るが、個別にお答えさせていただいている。
(当会注:ちなみに「校報」人事情報不開示の審査請求は、第5部会で審議中です。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/singi/jyouhou/kaisai.html
また、第1回目の審議は2017年11月22日に開催されており、次の議事の項目等(4)番に本件事件について記述があります。
http://www.soumu.go.jp/main_content/000518776.pdf )
②弁護士費用:平成29年(独情)諮問第86号
12月25日に諮問のあった事案。ちょうど1月16日の本日付で理由説明書を審査請求人(市民オンブズマン群馬)あてに郵送したばかりなので、まもなく受領できるはずなので、確認いただきたい。
なお、①に比べて②が相対的に遅れている理由は、年末年始にかかり、その分、業務多忙のしわ寄せの影響をうけてしまい、結果的にお待たせいただくことになり申し訳ない。
**********
■今回、上記②の弁護士費用等情報不開示審査請求にかかる当会の意見書を審査会ではどのように評価するのでしょうか。読者会員の皆様と注視してまいりたいと存じます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】