熱中症:高齢者、室内でも注意 気付かず重症化…気温上昇、脱水
2010年8月3日 提供:毎日新聞社
熱中症:高齢者、室内でも注意 気温上昇、脱水…気付かず重症化
自宅で熱中症を発症する人が増えている。室内は注意を怠りがちだが、特に高齢者や体が弱っている人には屋外と変わらない危険がある。注意点や発症した際の対処法などを専門家に聞いた。【野島康祐、清水優子】
◇28度、湿度70%超で冷房 こまめに水分補給を
独立行政法人・国立環境研究所のまとめでは、09年夏に熱中症で救急搬送された20都県市の2835人のうち、自宅での発症が591人(21%)で最も多かった。
三宅康史・昭和大准教授は「今の住宅は密閉性が高く風通しが悪く、窓を閉め切り冷房を使わないと、室内は外気温以上に上がる。また高齢化で、体温の調節機能が衰え熱中症になりやすい高齢者が室内にいる割合が高くなった」と説明する。
人間の体は暑さを感じると、皮膚に血液を多く流したり、汗を出して体温を下げる。血液には熱を運ぶ役割があり、皮膚を流れる血管を通る時に熱を外に出す。汗は体から蒸発する時に体の熱も一緒に放出している。
ところが、気温が高い状態が長く続くと大量に発汗して水分や塩分が失われ、血液中の水分を奪い、汗が出なくなったり臓器に流れる血流量に影響する。また、気温が30度を超えなくても湿度が高いと汗が蒸発せず皮膚の表面にたまり、熱もこもったままになる。こうしたバランスの崩れが熱中症の症状を引き起こす。
□
今夏の室内での死亡例を見ると、エアコンが作動していなかったケースが目立つ。
大阪市内のマンションでは7月26日、南側ベランダに面した寝室のベッドで妻(87)が、隣室との敷居辺りで夫(79)が亡くなっているのが見つかった。寝室は扇風機が1台作動し、窓は少し開いていたがエアコンはなかった。同24日にはさいたま市内で女性(81)が寝室ベッドで死亡。女性はエアコンが嫌いで日ごろからスイッチを切っていたという。
日本救急医学会が7月、救急搬送を受け入れる全国82の施設を08年6-9月に熱中症で受診した913人を調べたところ、屋内で発症した123人のうちエアコンを「停止中・設置なし」だった人は52%で、「使用中」は13%。高齢者や重症者ほど使わない傾向が高かった。
調査責任者の三宅准教授は「室内は決して安全な場所でないと肝に銘じ、湿度計付き温度計を置き、室温28度、湿度70%を超えたらエアコンを使ってほしい。例年患者のピークはお盆ごろまで。あと約2週間を乗り切って」と訴える。
□
室温調整とともに重要なのが水分補給だ。筑波メディカルセンター病院の管理栄養士、遠藤祥子(やすこ)さんは「のどの渇きを感じる前に、こまめに水分を取るよう心がけて」と話す。
遠藤さんによると、男性は体重の約60%、女性は約55%が水分。体重60キロの男性の場合は36キロ(36リットル)で、このうち汗や排せつなどで1日計2・5リットルが体外に出ているが、食事と飲料、体内で作られる代謝水で計約2・5リットルを補い、バランスを保っている。
水分補給は、室内で普通に生活したり軽く汗ばむ程度なら、水か甘くないお茶で十分。冷たすぎるとおなかを壊しがちだが、熱中症の発症後には効果的。吸収が速いうえ体温を素早く下げるからだ。利尿作用があるアルコールや糖分が多いジュース類は脱水を進めるため不向きという。
ただし発熱や下痢をしている人はかかりつけ医に相談しよう。水分はトマトやキュウリ、スイカ、みそ汁やスープ類でも補える。塩分や糖分の取り過ぎに気をつけ、上手に水分コントロールしたい。
□
消防庁消防・救急課によると、今年5月31日-7月25日の間に熱中症のため救急搬送された人は全国で1万5114人で、うち46・4%にあたる7014人が65歳以上だ。
高齢者が熱中症になりやすいのは、主に加齢による体の衰えが原因だ。気温の上昇に鈍感になり、脱水症状が始まっても自分で体の異変に気付きにくくなる。家族ら周囲も察知しにくく、救急搬送されるまで異変が分からないことも多い。また、高血圧や糖尿病など持病がある人も重症化しやすい。
もし屋内で家族が熱中症になったら、どう対処すればいいのか。傷病時のレスキュー法をまとめた日本赤十字社の「赤十字救急法講習教本」などによると、最初に涼しい所に移動させ、話しかけながらリラックスできる体勢を取らせる。首筋や脇の下、脚の付け根などを冷たいペットボトルで冷やすと太い血管を通る血液が冷やされ、体全体の冷却効果がある。
日赤健康安全課の鈴木隆則指導係長は「お年寄りの場合、体温が40度近くになると脳、心臓、腎臓、肝臓などの臓器不全を起こしやすい。だからといって流水をかけ続けたりして体を急に冷やすと、低体温症に陥る危険性がある」と適切な対応を呼びかける。
………………………………………………………………………………………………………
■熱中症の主な症状
1度(熱失神・熱けいれん、現場での応急処置で対応できる軽症)=めまい、失神、筋肉痛、こむら返り、大量の発汗
2度(熱疲労、病院搬送が必要な中等症)=頭痛、気分の不快、吐き気、嘔吐(おうと)、倦怠(けんたい)感、虚脱感
3度(熱射病、入院して集中治療が必要な重症)=意識障害、けいれん、手足の運動障害、体に触ると熱いぐらいの高体温
※日本救急医学会の資料から
………………………………………………………………………………………………………
◇家族が熱中症になったら
(1)涼しい場所に移し、衣服をゆるめてリラックスさせる
(2)首筋、脇の下、脚の付け根を冷やす
(3)顔が赤いときは頭を高く、青白ければ足を高くして寝かせる
(4)意識があり、嘔吐がなければ水分補給させる
(5)皮膚が熱ければ、風を送ったり熱い部分にぬれタオルを当てる
(6)皮膚が冷たければぬれタオルをしぼり冷たい部分をマッサージ
(7)意識がなかったり、急に体温が上がったらすぐ救急車を呼ぶ
※日本赤十字社への取材を基に作成