「医学部新設には反対」、日医・原中会長
2010年10月06日
「今から新しい医科大学(医学部)を作ることには、私たちも、厚労省も反対している。ここ数年で医学部の定員は約1200人増えた。新設すれば、教官が必要になる。これだけ厳しい時に、地域の病院の部長クラスが教官として招かれるのは大変なこと。また医師は卒業するまでに6年、さらに10年程度の研修が必要になるが、今後日本の人口は減っていく」
10月4日に開催された、みんなの党の国会議員、川田龍平氏の「いのちの対談」にゲストとして招かれ、こう語ったのは原中勝征・日本医師会会長。9月29日、厚労省の「必要医師数実態調査」が公表され(『勤務医の不足数は2.4万人、地域差、診療科別の差も、厚労省調査』を参照)、文部科学省が医師養成のあり方に関する検討会の設置準備を進めているとされている折、医学部・医科大学新設に原中氏は改めてクギを刺した格好です。
約2時間にわたる対談は、司会と川田氏、原中氏、一般参加者との質疑応答の形で進められ、テーマは混合診療、医療費の問題、社会保障のあり方、雇用の問題まで多岐に渡りましたが、メーンは医師不足。
原中氏は、医師不足の理由として、医療費抑制政策と訴訟問題、さらには臨床研修必修化などを挙げました。
「 “医療費亡国論”(1983年の当時の厚生省保険局長の発言)と言われ、医療費削減のために医師数、病床数の削減、さらには診療報酬の引き下げなどが行われた。2008年には日本の医療費は108兆円にも上ると推計されたが、実際には34兆円程度にとどまっている。国民の危機感をあおって医療費削減を誘導してきたのが大きな間違い。また医療訴訟が増え、産婦人科、外科などに学生が行かなくなったという問題もある。従来は、『○○病院はうちが責任を持つ』という形で大学医局は医師派遣機能を持っていたが、臨床研修の必修化でその機能がなくなった」
医学部新設に反対する代わりに、原中氏が提案した医師不足対策の一つが、地域の開業医が基幹病院を支援する仕組み。「茨城県でも、県立こども病院で医師不足になり、地域の開業医が外来や当直などの手伝いに行っている。こども病院には大学から若手医師が来ているが、開業の先生方が彼らに教えている」と語る原中氏は、「ぜひ皆さんに知っていただきたい。日本の開業医のレベルは世界一」と訴えました。
さらに、「初期2年と後期2年、この4年間の研修を何とか2年にしてほしい、初期の2年の研修内容を医学教育の中でマスターできるようにと、大学医学部の方と話し合っている」と原中氏。後期研修は年限が決まっているわけではなく、なぜ2年としたのかは不明ですが、このような研修体制の見直しのほか、女性医師対策、さらには医学部における地域枠の拡大も提言。
「世界的な研究を手がける医師の養成も確かに必要だが、“一県一大学”で医学部・医科大学を作ったのは、地域医療に従事する医師を養成するため。卒業後も地域に残るよう、少なくても半分くらいは“地域枠”とする必要があるのではないか」(原中氏)
対談中、原中氏が、英国医療の待ち時間の長さや米国の医療費の高さなどを引用しながら、何度か言及したのは日本の医療制度のすばらしさ。
とはいえ、「原中先生の言うことはもっともだが、なぜ様々な改革が実現しないのか」「会長に就任し、どんな変化があったのか」などの参加者からの質問には、「最大の問題は医療費削減を決めてしまったこと。それを実行するために医師を悪者にしているという悲しい現実がある。全く医療とは関係ない学者、現場を全然知らない人たちを中心に委員会を作り、現場の意見を聞かずに決めてしまっている」「これまでの日医と同じ主張をしているのは、それまでの主張が正しかったから。ただ今までは医師会がどんな視点で活動しているか、それが国民に分からなかったのではないか。私たちは国民に知ってもらうよう努力している。そこが違う」と述べただけで、今一つ明確な答えは得られませんでした。
2010年10月06日
「今から新しい医科大学(医学部)を作ることには、私たちも、厚労省も反対している。ここ数年で医学部の定員は約1200人増えた。新設すれば、教官が必要になる。これだけ厳しい時に、地域の病院の部長クラスが教官として招かれるのは大変なこと。また医師は卒業するまでに6年、さらに10年程度の研修が必要になるが、今後日本の人口は減っていく」
10月4日に開催された、みんなの党の国会議員、川田龍平氏の「いのちの対談」にゲストとして招かれ、こう語ったのは原中勝征・日本医師会会長。9月29日、厚労省の「必要医師数実態調査」が公表され(『勤務医の不足数は2.4万人、地域差、診療科別の差も、厚労省調査』を参照)、文部科学省が医師養成のあり方に関する検討会の設置準備を進めているとされている折、医学部・医科大学新設に原中氏は改めてクギを刺した格好です。
約2時間にわたる対談は、司会と川田氏、原中氏、一般参加者との質疑応答の形で進められ、テーマは混合診療、医療費の問題、社会保障のあり方、雇用の問題まで多岐に渡りましたが、メーンは医師不足。
原中氏は、医師不足の理由として、医療費抑制政策と訴訟問題、さらには臨床研修必修化などを挙げました。
「 “医療費亡国論”(1983年の当時の厚生省保険局長の発言)と言われ、医療費削減のために医師数、病床数の削減、さらには診療報酬の引き下げなどが行われた。2008年には日本の医療費は108兆円にも上ると推計されたが、実際には34兆円程度にとどまっている。国民の危機感をあおって医療費削減を誘導してきたのが大きな間違い。また医療訴訟が増え、産婦人科、外科などに学生が行かなくなったという問題もある。従来は、『○○病院はうちが責任を持つ』という形で大学医局は医師派遣機能を持っていたが、臨床研修の必修化でその機能がなくなった」
医学部新設に反対する代わりに、原中氏が提案した医師不足対策の一つが、地域の開業医が基幹病院を支援する仕組み。「茨城県でも、県立こども病院で医師不足になり、地域の開業医が外来や当直などの手伝いに行っている。こども病院には大学から若手医師が来ているが、開業の先生方が彼らに教えている」と語る原中氏は、「ぜひ皆さんに知っていただきたい。日本の開業医のレベルは世界一」と訴えました。
さらに、「初期2年と後期2年、この4年間の研修を何とか2年にしてほしい、初期の2年の研修内容を医学教育の中でマスターできるようにと、大学医学部の方と話し合っている」と原中氏。後期研修は年限が決まっているわけではなく、なぜ2年としたのかは不明ですが、このような研修体制の見直しのほか、女性医師対策、さらには医学部における地域枠の拡大も提言。
「世界的な研究を手がける医師の養成も確かに必要だが、“一県一大学”で医学部・医科大学を作ったのは、地域医療に従事する医師を養成するため。卒業後も地域に残るよう、少なくても半分くらいは“地域枠”とする必要があるのではないか」(原中氏)
対談中、原中氏が、英国医療の待ち時間の長さや米国の医療費の高さなどを引用しながら、何度か言及したのは日本の医療制度のすばらしさ。
とはいえ、「原中先生の言うことはもっともだが、なぜ様々な改革が実現しないのか」「会長に就任し、どんな変化があったのか」などの参加者からの質問には、「最大の問題は医療費削減を決めてしまったこと。それを実行するために医師を悪者にしているという悲しい現実がある。全く医療とは関係ない学者、現場を全然知らない人たちを中心に委員会を作り、現場の意見を聞かずに決めてしまっている」「これまでの日医と同じ主張をしているのは、それまでの主張が正しかったから。ただ今までは医師会がどんな視点で活動しているか、それが国民に分からなかったのではないか。私たちは国民に知ってもらうよう努力している。そこが違う」と述べただけで、今一つ明確な答えは得られませんでした。