インフルエンザ:学校でインフル集団感染 5類移行、対策緩和が一因
全国各地の学校で季節性インフルエンザの集団感染が相次いでいる。東京や九州では5月に1校で3桁の感染者を確認。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが、8日に「5類」に引き下げられて感染対策が緩んだことが一因とみられるが、専門家はコロナ下で免疫力が低下したことも背景にあると指摘する。
◇休校・学級閉鎖相次ぐ
東京都内にある小中学校では、5月に入っても集団感染が目立つ。調布市内の市立小学校では児童や教員104人がインフルエンザに感染し、18日に休校となった。保健所が調査したが学校の感染対策で特に不十分な点はなかったという。
八王子市では、23日までに小中学校の計5校で学級・学年閉鎖が出た。いずれの学校も感染者は10人程度だが、4月は小学校1校の学級閉鎖だけだった。市教育委員会の担当者は「5月は運動会シーズンで、今年は気温が高い日も多かった。熱中症対策で、マスクを外していることが一因なのではないか」と推測する。
府中市では22日までに市立小中学校3校計4クラスが学級閉鎖になった。市教委の担当者は「5月に流行するのは珍しい。学校も困惑している」。市教委は小中学校にうがい、手洗いの励行を呼びかけている。
都によると、3桁以上の集団感染は珍しいが、「5類」移行で人的交流が活発になり「都内で同時多発的に集団感染が広がっている」(担当者)とみる。今シーズン、都内で1医療機関の週あたりのインフルエンザの患者数は3月にピーク(10・42人)を迎えたが、5月14日までの1週間は0・96人まで減り、流行開始の目安「1人」を切った。
だが、15~21日の1週間は2・01人と前週の倍以上に増え、感染者の約7割を14歳以下が占める。春から夏は感染が収まるのが例年の傾向で「5月に2人を超えるのは異常だ」とする。
宮崎市内の私立高で起きた集団感染は9日に生徒1人の感染が確認され、11日には30人に広がった。学校側は症状のある生徒を早退させるなどした上で、週末に体育祭を開催。週明け以降も感染は拡大し、休校期間中(15~22日)の16日には職員を含む感染者は491人に上った。体育祭が拡大の要因とみられる。
厚生労働省が把握しているだけでも、15~21日に全国の小中高校など15施設で休校、308施設で学年・学級閉鎖の措置が取られた。ただ感染状況は地域で異なり、福岡市医師会の平田泰彦会長(70)によると、小児科を中心に市内でも感染者の報告はあるが、規模は小さいといい「感染は局地的なものではないか」と話した。【朝比奈由佳、塩月由香、平川昌範】
◇コロナ下で免疫低下
厚生労働省によると15~21日に全国約5000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの患者数は9275人。新型コロナウイルス禍前の同時期(20週目)と比べても多い。医療機関1カ所当たりの患者数は1・89人で、5月に「流行」の目安となる1人を超えたのは2019年以来だ。都道府県別では、新潟5・92人▽山形5・63人▽群馬4・54人――などの順に多くなっている。
「季節外れ」に見える流行だが、感染症に詳しい久留米大の溝口充志教授(免疫学)は「想定していた」と話す。要因の一つは、新型コロナの「5類」移行で、子どもたちにマスクの着用や、給食などでの「黙食」を求めなくなるなど対策が緩和されたことだ。さらに運動会など全校行事が通常開催されるケースが増えたことも感染リスクを高めていると指摘する。
「免疫力の低下」も要因に挙げる。もともと冬季以外でもインフルエンザの感染は珍しくなかった。しかし約3年半に及んだ新型コロナ禍でマスク着用などの対策が強化された結果、ウイルスに接するほど強くなる免疫力がインフルエンザについても徐々に低下し、発症者が多くなったとみられるという。
溝口教授は「過剰な感染対策を取れば、免疫力が低いままになる。免疫力を徐々に高めるためにも、対策は適度なものにとどめるべきだ」とし、休校や学級閉鎖など感染者数に応じた対応が妥当との見方を示した。その上で「高齢者など重症化リスクの高い人は、マスク着用など自らを守る対策を取ることが望ましい」と話した。【平川昌範】