温泉クンの旅日記

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同乗者

2007-02-18 | 旅エッセイ
  < 同乗者 >

 
 ゲームをすると、そのひとの本当の人間性が現れるという。
 たとえば麻雀。



 日頃沈着冷静で温厚誠実なひとがやたら先ヅモしたり、アレ珍しく先ヅモしない
なアと思っていると「それチー! あ、ポン!」と、トップ取りのゲームなのに
そんなものにお構いなしに万度(バンタビ)安い手でアがろうとする。「今日はさ
あ、絶対に半チャン四回こっきりだかんね」と宣言した本人が、勝てば「だから、
最初に決めただろうが」とクールなくせに、負けがこむと必ず徹夜に持ち込む。

 ゴルフでも「それが社会人として最低のルールだからねえ、守らなきゃ。キミ
ィ」なんて部下に声高にいっている管理職が、他の人がみていなければ五本指の
クラブを使ってコースに投げ戻したりするものだ。
 いわゆる仮面が剥がれるのだ。

 そんな話で友人と<いつもの酒場>で盛り上がっていると、「車の運転というか
車のなかもちょっと似ているとオレは思うんだけどな」といつになく神妙な顔を
して言う。

 友人が彼女と初めての長距離のドライブにいったときのことだ。
 スケジュールを今回はすべて彼女任せにしたものだから、当然ナビのほうもお願
いしたらしい。彼女はふだんとてももの静からしいのだが、車のなかではちょっと
変わるのだという。

 以下はそのときの会話を再現したものだ。



「あ、いまのところ・・・左折だったあ、かーも!?」
「馬ァ鹿! 言うにことかいて通り過ぎてから『いまのところ左折だった』なんて
言ったっていったいどうしたらいいんだよ! それになんだよ『かーも』って!」

「・・・そんなあ、しょうがないじゃん! あたしだってさあ、始めて走るとこ
なんだから」
「よーく見てろよ、地図を。頼むよ」
「あ、そこ左折・・・でも、いいや次でも」
「・・・! おまえさあ、はっきりしろよ! なにが次ぎでもだよ。ちゃんとナビ
しろって! ほら、もう暗くなってきたじゃないか」
「なに、その言いかた、あんまりじゃない。暗くなったのは季節のせいで、あたし
のせいじゃないじゃない」

「あんまりだあ? それなら、こっちもじゃあ言わせてもらうぞ。だいたいな、
スケジュールが馬鹿みたいに甘いからこっちは苦労しているんだよ。いいかあ。
百キロ離れた目的地に時速百キロなら一時間で着くなんてえなア簡単な算数みたい
にすべて考えるから、こっちは苦労してるんじゃないか。蕎麦かなんかでいいのに
昼飯をどうしても『アタシ地魚のお鮨が食ベたーい』なんか生意気なこというから
海岸線まで寄り道して結局こんな遅くなったんだよ」

「ひどーい。そんな言い方、最低! すこしでも思い出に残るようにって考えたの
に」
「ひどい目にあってんのは、こっち。それに、お陰でもうある意味いい思い出だ
よ。あ、次の信号左でいいな?」
「・・・」

「おい! あモウ、とにかく曲がるぞ。あとは真っ直ぐ道なりでいいか」
「・・・こんなひととは思わなかった」
「ん! なんだって? 声がボソボソ小さくて聞こえないよ。道なりじゃないの
か? ええい、もう停めて自分で地図みるよ」

「あ、いま舌打ちしたでしょ!」
「え、そうかな。だからなによ」
「ばか。さよなら」
「あ、おい待てよ! どこ行くんだよ、オーイ」


 まあ今となれば笑い話、一種の痴話喧嘩であるが、これに近いことは女性や子ど
もを乗せて車を運転していると誰しも経験があるのでけっこう身につまされる。
巷間言われるよりはるかに地図の読める女性は多いのだが、時間が読めない女性も
まことに多いのだ。

 ・・・せっかくね来たんだから、いつまた来れるかわからないしね、あちこち
あれもこれも楽しまなきゃねえ。
 この「せっかく来たんだから」攻撃が運転しているひとに、ぎゅうぎゅうタイト
で超過密なスケジュールを押しつけるのだ。
 出発してすぐに始まる、子どもの「ねえ、まだ着かないの?」攻撃も運転手を
発狂させるが。



 あのときはまいったよ。
 おとなしい女だと思っていたらあんな激しい一面をみて吃驚したな。友人はその
一件で懲りてそれからすぐにボーナスをはたいてナビを取り付け、見知らぬ旅先の
土地で怒りに任せて車を飛び出した彼女は、いま助手席で地図を見る大役がなくな
り年中隣で居眠りをしているそうだ。


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