温泉クンの旅日記

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南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(3)

2022-01-30 | 温泉エッセイ
  <南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(3)>

(オォー、玄武洞が“神殿”なら夜の忘帰洞は・・・・・・)

 

“大神殿”の趣、じゃあーりませんか、と呟いて浴槽の淵にしゃがみ、今回は忘れずにルーティンの掛け湯をきっちりとすませる。
 静かな夜の底の温泉に身を沈めていると、聞こえるのは、打ち寄せては砕ける波音ばかりである。

 いつものことだが、夕食会場に一番で入り満員になるころを見計らって食事を切りあげると、長い廊下を小走りに急いで忘帰洞に向かった。わたしは呑むのも好きだが温泉のほうが常に最優先事項であって、必需品のタオルは食事時にも持ってきているのである。

「帰るのを忘れさせるほど心地よい」
 とは、誠に言い得て妙で、てっきり宿の初代主人あたりが考案捻りだした売り文句だと思ったら、大正時代の末に紀州徳川家第十五代当主である「德川賴倫(とくがわよりみち)」が発した言葉で、それゆえ「忘帰洞」と命名したということである。なんとなく、さすがは紀州家のお殿さまという感じで恐れ入る。

 リブロースステーキ(忘帰洞)、鰻の蒲焼(玄武洞)にマグロ丼(磯の湯)ときて満腹だが、まだシラス茶漬けが二杯もあるのである。

 

 まずは、ハマユウの湯。

 

 

 温泉は山、というのは案外定説だと思う。たしかに青森の西津軽にある不老不死温泉の褐色の湯を別とすれば、海っぺりの温泉は無色透明が通り相場で、乳白色の濁り湯なんてめったにないのである。
 そしてラストの滝の湯だ。

 

 たしかあの湯もここと同じ乳白色の温泉だった。

 

『箱根の仙石原に「H」とうい手ごろな宿がある。宿というより、この宿泊施設は研修所といったほうがぴったりくる。四千坪の広い敷地をもっていて、もちろん天然温泉にはいれる。
 この手ごろとは宿代が安いという意味だ。とにかく箱根にしてはべらぼうに安い。素泊まりで四千円、二食つけても六千円ほどである。
 - 略 ―

 

「温泉は山ですよ。熱海などはもうお湯が枯れて海の水汲んで混ぜてるんですよ」
 ここの天然温泉に浸かって堪能したわたしに、ここの主人かも知れない爺さんがこう言い切った。なるほど、海の水を温めれば塩化物泉には違いない。聞いた瞬間、まだ旅に純だったわたしの脳髄の印画紙に焼きついた。
 温泉は山、温泉は山。完璧に刷り込まれたこの呪文はあれから数年たったいまでも、わたしの旅をかなり左右する影響を残している。』

 

 温泉は山・・・そんな定説も忘帰洞の宿で見事にぶっ飛んだのだった。
 そうだ、一番奥の上にある浴槽にいつでも先客が入っていて、撮ることは叶わなかったことをつけ加えておく。

 

「山上館」という建物に、もう一つ「遥峰(ようほう)の湯」という、那智山、勝浦湾、勝浦の街並みが一望できる温泉があるのだが、これは宿泊者専用だから残念ながらというか、喜んでというか断念である。


  ― 続く ―


   →「鯵」の記事はこちら
   →「南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(1)」の記事はこちら
   →「南紀勝浦温泉、忘帰洞の宿(2)」の記事はこちら


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