<伊豆山温泉、あたみ桜と日の出(1)>
伊豆の春は早い。
ただし草木に限っての話だ。
人間サマにとっては恐ろしく底冷えがする伊豆の冬だが、桜や梅などの樹木は土壌に潜む春の兆しの温暖さを掠めとり、暖かい陽光を貪るのだろう。
熱海駅から坂道を降り糸川に出ると、なんと桜が満開であった。あたみ桜は昨年の十二月初旬に、例年より十日ほど早く開花したそうである。
「オー、桜まつりの初日だというのに満開だぞ!」
「やったね」
「なんか運がよかったな、オレたち」
群がった人だかりの溜息まじりの歓声のなかからそんな声が聞こえた。
「第七回あたみ桜 糸川桜まつり」は今日(一月二十一日)から二月十二日(日)まで行われる。「第七十三回熱海梅園梅まつり」は一月七日(土)から三月五日(日)までだが、この日の時点でまだ四分咲きといったところである。河津の「第二十七回河津桜まつり」は二月十日(金)からの一カ月間だから、まだ早い。
糸川の遊歩道沿い約四百メートルにあたみ桜五十八本と、河津川沿い四キロに八百本の河津桜並木にはスケール的にはまったくかなわないが、「早咲き」そのものに価値がある。
「あたみ桜」は明治四年頃にレモンやナツメヤシとともにイタリア人によって熱海にもたらされたそうで、ルーツは花粉形態分析によると台湾や沖縄のカンヒザクラと、日本の暖地に自生するヤマザクラとが親と推定されたという。
期間中、午後五時から十一時までライトアップされて夜桜も楽しめる
時間つぶしに昭和な喫茶店に入り、珈琲を喫しながら小腹が空いたので熱々のホットドックを頬張る。レトロな雰囲気のなかでのドックはやたらに旨かった。
腕時計をちらりとみて、すこし早いが宿に向かうことにした。駅まで戻れば送迎があるが、急坂を登るのもしんどい。桜咲く糸川から宿までは二キロたらずだ、歩くとしよう。
海沿いの国道のだらだらした坂をあがりきると、どうやら「水葉亭」のすこし手前で左手の坂道を登るらしい。
「あっらぁー、なんてこった。これは心臓破りの坂じゃねーの」
と、胸突き八丁の急坂をみあげて驚く。やはり駅に戻ったほうがよかったか。
まあしょうがあるまいと、ハァハァ言いながら登りはじめる。
ひと休みがてらに振りかえると、さきほど通り過ぎたバス停付近で電話をかけていたカップルが下のほうから登りはじめるのがみえた。彼女だがもしかしてヒールを履いていないだろうか。いまごろ彼氏は「送迎車を使えばよかったのに、まったくもう」と詰られているのではないか。年季がはいったカップルでないとすると、なんか相当マズイ事態になりそうだとちょいと余計な心配をしてしまう。
息があがったまま、フロントでチェックインする。
遅れて、息も絶え絶えに辿りついたカップルは、まっすぐロビーのソファにへたりこみ息を整えていた。伏し目がちに肩を波立たせている彼女の様になにかしら不穏なものを感じるのは気のせいか。
部屋に入りいつものように早着替えすると、脱兎のごとく大浴場に急ぐ。
ちょっと殺風景な浴場だ。海を見わたす大きな窓ガラスも清掃が行き届いていない。
温泉は・・・どうかな。
掛け湯をたっぷりして身体を沈めていくと、「ええっ!」とビックリするくらい良かった。嬉しい、源泉掛け流しだ。
この温泉、とりあえずあの急坂を登った甲斐があったのである。
― 続く ―
→「梅園とワンタンメン」の記事はこちら
→「河津桜 2010年」の記事はこちら
→「熱海伊豆山温泉」の記事はこちら
伊豆の春は早い。
ただし草木に限っての話だ。
人間サマにとっては恐ろしく底冷えがする伊豆の冬だが、桜や梅などの樹木は土壌に潜む春の兆しの温暖さを掠めとり、暖かい陽光を貪るのだろう。
熱海駅から坂道を降り糸川に出ると、なんと桜が満開であった。あたみ桜は昨年の十二月初旬に、例年より十日ほど早く開花したそうである。
「オー、桜まつりの初日だというのに満開だぞ!」
「やったね」
「なんか運がよかったな、オレたち」
群がった人だかりの溜息まじりの歓声のなかからそんな声が聞こえた。
「第七回あたみ桜 糸川桜まつり」は今日(一月二十一日)から二月十二日(日)まで行われる。「第七十三回熱海梅園梅まつり」は一月七日(土)から三月五日(日)までだが、この日の時点でまだ四分咲きといったところである。河津の「第二十七回河津桜まつり」は二月十日(金)からの一カ月間だから、まだ早い。
糸川の遊歩道沿い約四百メートルにあたみ桜五十八本と、河津川沿い四キロに八百本の河津桜並木にはスケール的にはまったくかなわないが、「早咲き」そのものに価値がある。
「あたみ桜」は明治四年頃にレモンやナツメヤシとともにイタリア人によって熱海にもたらされたそうで、ルーツは花粉形態分析によると台湾や沖縄のカンヒザクラと、日本の暖地に自生するヤマザクラとが親と推定されたという。
期間中、午後五時から十一時までライトアップされて夜桜も楽しめる
時間つぶしに昭和な喫茶店に入り、珈琲を喫しながら小腹が空いたので熱々のホットドックを頬張る。レトロな雰囲気のなかでのドックはやたらに旨かった。
腕時計をちらりとみて、すこし早いが宿に向かうことにした。駅まで戻れば送迎があるが、急坂を登るのもしんどい。桜咲く糸川から宿までは二キロたらずだ、歩くとしよう。
海沿いの国道のだらだらした坂をあがりきると、どうやら「水葉亭」のすこし手前で左手の坂道を登るらしい。
「あっらぁー、なんてこった。これは心臓破りの坂じゃねーの」
と、胸突き八丁の急坂をみあげて驚く。やはり駅に戻ったほうがよかったか。
まあしょうがあるまいと、ハァハァ言いながら登りはじめる。
ひと休みがてらに振りかえると、さきほど通り過ぎたバス停付近で電話をかけていたカップルが下のほうから登りはじめるのがみえた。彼女だがもしかしてヒールを履いていないだろうか。いまごろ彼氏は「送迎車を使えばよかったのに、まったくもう」と詰られているのではないか。年季がはいったカップルでないとすると、なんか相当マズイ事態になりそうだとちょいと余計な心配をしてしまう。
息があがったまま、フロントでチェックインする。
遅れて、息も絶え絶えに辿りついたカップルは、まっすぐロビーのソファにへたりこみ息を整えていた。伏し目がちに肩を波立たせている彼女の様になにかしら不穏なものを感じるのは気のせいか。
部屋に入りいつものように早着替えすると、脱兎のごとく大浴場に急ぐ。
ちょっと殺風景な浴場だ。海を見わたす大きな窓ガラスも清掃が行き届いていない。
温泉は・・・どうかな。
掛け湯をたっぷりして身体を沈めていくと、「ええっ!」とビックリするくらい良かった。嬉しい、源泉掛け流しだ。
この温泉、とりあえずあの急坂を登った甲斐があったのである。
― 続く ―
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