<つがわ、狐の嫁入り行列>
まさか、年に一日だけ新潟の津川で行われるお祭り「狐の嫁入り行列」を観られるとはまったく思ってもみなかった。
この祭りだが、旅ばっかりしていることからローカルニュースを好んで観るのでもちろん知ってはいた。しかし、たまたま取った宿がその祭りの近くだったわけで、狙ったわけではなくほんとうに偶然である。
宿にチェックインするために町を通り抜けたときに、人通りがわんさと多いのと、歩いているひとがなんか狐メイクを施した珍妙な顔ばかりだったのは気がついていた。子どもたちは、狐メイクに加えて、ディズニーランドのミッキーのカチューシャの狐版みたいのを頭に付けていた。
イベントがある地区は各所で通行止めになるため、夕刻、宿が用意した大型観光バスに乗り会場に案内されて、二時間後にバスに戻るようにいわれ満員の宿泊客は解散した。

夜の帳が降り切るころで、気温はかなり低い。体感で、五度以下ぐらいか。
狐に扮した花嫁は住吉神社というところを出発して、いま解散した城山橋の麒麟山側でひたすらじっと待つ花婿のもとに、仲人と供を連れた総勢百八人の大行列でゆるゆる練り歩くそうだ。
まずはもう切れそうな煙草を補充しようと、地元のひとに店を訊きその店にいって買ったが、そこにもうすぐ花嫁行列が来るとのことだった。
煙草を買った、とっても親切な煙草屋さんの前に灰皿が設置してあったので一服しながら行列待つことにした。

津川に聳え立つ麒麟山(きりんざん)にはかつて狐が住んでおり、古くから狐火(鬼火)と呼ばれる光が見られた。
津川の狐火は出現率が世界一とも言われ、麒麟山及び狐火にまつわる数多くの話がある。
この中で「狐の嫁入り行列」という言い伝えがある。かつてこの地域の「嫁入り」は夕方から夜にかけて行われたため、提灯を下げて嫁入り先に行列していった。この行列が麒麟山の峠を越えていく際に、堤灯の明りと狐火が平行して見えたりしたことからこの言い伝えが生まれたそうだ。
この言い伝えと民話を基に、新潟県が企画した「デスティネーションキャンペーン」に乗って1990年に第一回の「狐の嫁入り行列」が開催され現在に至っている。歴史は浅いが、幻想的な祭の構成に注目が集まり、いまでは、祭り開催日に人口五千人の津川に五万人の観光客が訪れるそうだ。

拍手と歓声とともに行列が近づいてきた。

白無垢の花嫁は狐の動作を真似て、歓声があがるたびに、その方向に丁寧に狐メイクをした可愛い笑顔を向けている。

今年公募で選ばれたのは、岩手県大船渡市のカップルで、この秋に結婚予定だそうである。主役の花嫁は二十六歳、花婿二十七歳と若い。
行列の歩みが遅いので、イベント会場のある広場に先に行って待つことにする。
祭りを警備している体格のいい警察官も狐メイクを施していて、その似合わなさに思わずのけぞってしまう。わたしもどちらかというと、ずばり狸顔だからまるで似合わないだろうな。
この狐の門をくぐって、河原に設えた結婚式会場へ向かうのだろう。

張られたいくつものテントで、屋台のように飲みものや温かい食べ物を売っていた。トイレは簡易なものしかないので、できれば使いたくはない。嫌いなバス移動もあったので夕食時にはアルコールをごく少量にしてある。
でも、あまりにも寒いので常温の酒を一本だけ呑むことにした。
ようやく花嫁が橋のたもとに辿りついて、照明が落とされた。
闇を切り裂くライトの光のなか、常浪川に掛かる城山橋の真ん中で、花嫁と花婿が出会う。
なかなかの感動シーンである。肉眼ではとても見にくいのだが、高感度望遠カメラを使って観客がつぶさに観られるように超大型テレビジョンが設置されている。

花嫁と花婿が行列を伴い、橋から坂道を下り、狐の門をくぐって、川のなかの特設水上ステージに向かう。わたしも見やすいように、橋の坂道のなかほどに移動した。
結婚式と披露宴が始まるのだが、進行役がプロの役者のようで飽きさせない語り口であった。

披露宴が終わると、花嫁と花婿が渡し舟に乗って川を渡る。対岸の麒麟山に浮きあがる門を目指す。いよいよ、フィナーレが始まるのだ。

対岸の麒麟山に二人が渡ると、照明が落とされ、観客は漆黒の闇に包まれた。
ほどなく、山の頂近くの闇に、ぽつり、ぽつりと狐火が灯る。
なんとも幻想的な雰囲気で、つい寒さを忘れてしまう。
暗闇に狐火は柔らかく瞬いて、数を増していくが、ちょうどいい数くらいでとどめられる。
「ケーン!」
狐の哭く声が、夜の静寂を鋭く切り裂いた。こだまを繰り返しながら山中を夜空へと一気に駆けのぼる。
「・・・ケーン!・・・ケーン!・・・」
まさか、年に一日だけ新潟の津川で行われるお祭り「狐の嫁入り行列」を観られるとはまったく思ってもみなかった。
この祭りだが、旅ばっかりしていることからローカルニュースを好んで観るのでもちろん知ってはいた。しかし、たまたま取った宿がその祭りの近くだったわけで、狙ったわけではなくほんとうに偶然である。
宿にチェックインするために町を通り抜けたときに、人通りがわんさと多いのと、歩いているひとがなんか狐メイクを施した珍妙な顔ばかりだったのは気がついていた。子どもたちは、狐メイクに加えて、ディズニーランドのミッキーのカチューシャの狐版みたいのを頭に付けていた。
イベントがある地区は各所で通行止めになるため、夕刻、宿が用意した大型観光バスに乗り会場に案内されて、二時間後にバスに戻るようにいわれ満員の宿泊客は解散した。

夜の帳が降り切るころで、気温はかなり低い。体感で、五度以下ぐらいか。
狐に扮した花嫁は住吉神社というところを出発して、いま解散した城山橋の麒麟山側でひたすらじっと待つ花婿のもとに、仲人と供を連れた総勢百八人の大行列でゆるゆる練り歩くそうだ。
まずはもう切れそうな煙草を補充しようと、地元のひとに店を訊きその店にいって買ったが、そこにもうすぐ花嫁行列が来るとのことだった。
煙草を買った、とっても親切な煙草屋さんの前に灰皿が設置してあったので一服しながら行列待つことにした。

津川に聳え立つ麒麟山(きりんざん)にはかつて狐が住んでおり、古くから狐火(鬼火)と呼ばれる光が見られた。
津川の狐火は出現率が世界一とも言われ、麒麟山及び狐火にまつわる数多くの話がある。
この中で「狐の嫁入り行列」という言い伝えがある。かつてこの地域の「嫁入り」は夕方から夜にかけて行われたため、提灯を下げて嫁入り先に行列していった。この行列が麒麟山の峠を越えていく際に、堤灯の明りと狐火が平行して見えたりしたことからこの言い伝えが生まれたそうだ。
この言い伝えと民話を基に、新潟県が企画した「デスティネーションキャンペーン」に乗って1990年に第一回の「狐の嫁入り行列」が開催され現在に至っている。歴史は浅いが、幻想的な祭の構成に注目が集まり、いまでは、祭り開催日に人口五千人の津川に五万人の観光客が訪れるそうだ。

拍手と歓声とともに行列が近づいてきた。

白無垢の花嫁は狐の動作を真似て、歓声があがるたびに、その方向に丁寧に狐メイクをした可愛い笑顔を向けている。

今年公募で選ばれたのは、岩手県大船渡市のカップルで、この秋に結婚予定だそうである。主役の花嫁は二十六歳、花婿二十七歳と若い。
行列の歩みが遅いので、イベント会場のある広場に先に行って待つことにする。
祭りを警備している体格のいい警察官も狐メイクを施していて、その似合わなさに思わずのけぞってしまう。わたしもどちらかというと、ずばり狸顔だからまるで似合わないだろうな。
この狐の門をくぐって、河原に設えた結婚式会場へ向かうのだろう。

張られたいくつものテントで、屋台のように飲みものや温かい食べ物を売っていた。トイレは簡易なものしかないので、できれば使いたくはない。嫌いなバス移動もあったので夕食時にはアルコールをごく少量にしてある。
でも、あまりにも寒いので常温の酒を一本だけ呑むことにした。
ようやく花嫁が橋のたもとに辿りついて、照明が落とされた。
闇を切り裂くライトの光のなか、常浪川に掛かる城山橋の真ん中で、花嫁と花婿が出会う。
なかなかの感動シーンである。肉眼ではとても見にくいのだが、高感度望遠カメラを使って観客がつぶさに観られるように超大型テレビジョンが設置されている。

花嫁と花婿が行列を伴い、橋から坂道を下り、狐の門をくぐって、川のなかの特設水上ステージに向かう。わたしも見やすいように、橋の坂道のなかほどに移動した。
結婚式と披露宴が始まるのだが、進行役がプロの役者のようで飽きさせない語り口であった。

披露宴が終わると、花嫁と花婿が渡し舟に乗って川を渡る。対岸の麒麟山に浮きあがる門を目指す。いよいよ、フィナーレが始まるのだ。

対岸の麒麟山に二人が渡ると、照明が落とされ、観客は漆黒の闇に包まれた。
ほどなく、山の頂近くの闇に、ぽつり、ぽつりと狐火が灯る。
なんとも幻想的な雰囲気で、つい寒さを忘れてしまう。
暗闇に狐火は柔らかく瞬いて、数を増していくが、ちょうどいい数くらいでとどめられる。
「ケーン!」
狐の哭く声が、夜の静寂を鋭く切り裂いた。こだまを繰り返しながら山中を夜空へと一気に駆けのぼる。
「・・・ケーン!・・・ケーン!・・・」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます