温泉クンの旅日記

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携帯灰皿

2006-07-29 | 旅エッセイ
   < 携帯灰皿 >


 ほんとうに最近は喫煙者の肩身が狭い。

 オフィスでもついに完全禁煙、東京都千代田区で歩行喫煙すれば罰金をとられる
し、JRのあちこちの駅からも灰皿の殆どが撤去された。オレは滅びゆく少数民族な
んだなと実感するが、生来のへそ曲がりなのでやめるつもりはない。いずれ絶滅危
惧種なみの存在になっていくのだろう。
 だから、いつも携帯用の灰皿を手放せない。いま愛用しているのは、楕円形をし
た金属製のヤツで、首からぶら下げられる紐がついている。表面に「AERU」と書か
れている。
 数年前、北海道で土産に買ったものである。
 あれは・・・襟裳岬のへんの浦河だった。



 ――夜七時ごろ、大きな牧場のなかにある「うらかわ優駿ビレッジAERU」に到着
した。ここは朝食つきで七千五百円という宿泊料金だ。この宿泊施設はあのグリー
ンピア大沼にも引けをとらないほど立派である。真新しい。しかも料金はなんとも
手ごろである。北海道は本当にこういうところが多いのが嬉しい。

 夕食は吹き抜けの一階のレストランで、サーロインステーキ、トマトサラダ、
ご飯と味噌汁にした。焼酎の水割りを二杯つけたので、大満足であった。食べきれ
ない旅館の押し付けの夕食よりは、よっぽどよろしい。メニューには他に、二千五
百円でリーズナブルな夕食バイキングがある。

 ここの浦河温泉はアルカリ単純泉、とくにどうということはないサッパリ系の
ありふれたものだ。浴場は中規模なスパといった風で、近隣の日帰り客で夜遅くま
で混んでいた。軽食コーナーもあり、夕食を超低料金ですませられる。

 天窓から入る朝の明るさで、四時ごろに爺のように目をさましてしまう。朝食は
和洋食のバイキングの洋食にした。
 八時すぎから、前の広場で馬の放牧(ラウンドアップといっていた)を見物して
みることにした。二十頭ほどの群れが目の前を早足で走りすぎる。間近だから迫力
がある。見とれているうちに、馬に乗ってみたくなってきた。
 七十分乗馬コースに挑戦してみることにした。料金は九千円とちと高い。曳き馬
五百円でもよかったが、前の回の七十分乗馬コースの顔ぶれを見ていたら年寄りが
多かったので、怖いけどやってみることにしたのだ。

 皮製の脚当てをつけ、落馬したときのためだろうかヘルメットもきっちり装着さ
せられた。
 小さな囲いのなかで、歩かせる、止まらせる、左右に曲がらせるなどを三十分ほ
ど練習した。わたしが乗った馬はおとなしい性格で、たしかチンテツとかいう変な
名前だった。最初に鐙をはずして乗らされたおかげで、そのあとで鐙をつけたら不
思議となにか自信がついたものである。



 そのあと、外のコースを四十分ほど歩く。仮免で一般道を運転するような緊張と
興奮があった。楽しさが温泉のように湧き出してくる。自分でもいまたしかにニコ
ニコ顔をしているのがわかる。アスファルト道路から、クローバー畑と化した大き
な馬場のあいだをとおり、小学生がサッカーをしている広場の端をノッシノッシと
悠然と歩いた・・・。

 いやあ、あれは最高に面白かった。その楽しさを形に残すために、そこの売店で
買ったのがいま使っている灰皿である。

「なんですか、それ? 検便の容器かなにかですか」

 などと失礼なことをいうヤツもたまにいるが、まあ許しちゃおう。仕事中、携帯
電話とともにいつも机に載せているソイツは、たった何百円かの土産ものだが、
あの旅をまざまざとこっそり思い出させてくれるのだ。

 愛用の携帯灰皿もここのところ出番が多いので、だいぶくたびれてきた。ぎりぎ
りまで使ったら、また浦河まで買いに行きたい。そう能天気に、そのジツ真剣に考
えているのである。


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